Category Archives: 海外の議論状況

2018年2月シンポジウムの連載開始!

お待たせいたしました。

今年2月に京都で開催された国際シンポジウム「揺さぶられる司法科学−揺さぶられっ子症候群(SBS)仮説の信頼性を問う」の講演録が公刊されました。連載形式の初回は、秋田報告・笹倉報告・スクワイア基調講演の三本を収録しています。

龍谷法学51巻1号 https://opac.ryukoku.ac.jp/webopac/TD32071162

画面の赤いバー左端にある「本文・要約」をクリックしてご覧ください。

すでに連載第二回、第三回の原稿は入稿済みで、順次公刊される予定です。第二回にはフィンドレイ基調講演・ジャドソン基調講演の二本、第三回にはパネルディスカッションが収録されています。お楽しみに!

なぜ議論がすれ違う?-”わからない”ことはわからない

SBS検証プロジェクトを立ち上げて以来、さまざまなご意見をいただく機会が増えました。少なくとも「三徴候があれば、3メートル以上の落下や交通事故などのエピソードがなければ、自白がなくとも原則として揺さぶりだと判断してよい」などという乱暴な議論は少なくなってきたように思えます(とは言え,いまなお厚労省のマニュアル「子ども虐待対応の手引き(平成25 年8月 改正版)」の同旨の記述は修正されていませんし,「交通事故か揺さぶり以外に三徴候はあり得ない」という医師の意見も出されています)。私たちの検証の呼びかけによって、一歩ずつでも議論が深化していくことは喜ばしいことです。私たちの検証の呼びかけに対し、ご批判の声も聞こえてきます。もちろん、私たちの表明する見解が、常に正しいなどと言う考えはありません。ただ、残念ながら、それらご批判の中には、私たちの見解とかみ合っていないと言わざるを得ないものが多く含まれているようです。

Continue reading →

国際シンポジウムを開催します!

前回のシンポジウムから約一年後にあたる2019年2月、二度目の国際シンポジウムを開催します。

2月14日 午後1時から6時 朝日大学(岐阜県)

2月16日 午後1時から6時 弁護士会館クレオ(東京都)

海外からは前回ゲストのウェイニー・スクワイア医師に加えて、アンダース・エリクソン医師(ウメオ大学医学部)をお招きしています。

エリクソン医師のご専門は法医学です。スウェーデン法律諮問委員会の顧問医師として行った証言は、2014年スウェーデン最高裁の無罪判決を導くにあたって、重要な役割を果たしました。2016年のSBU報告書を執筆した委員会のメンバーでもあります。

シンポジウムではSBSについて「分かっていること」「分からないこと」を明らかにした上で、どのような体制や研究が必要なのかを、議論します。医療・福祉・法律という複数の観点から、立場にこだわらず率直な議論ができる場を作りたいと思っています。詳細は近々、アップします。ぜひご参加ください!

アメリカで相次ぐSBS仮説を見直す裁判例

すでにお伝えしたニュージャージー州の無罪判決オハイオ州控訴審の有罪判決破棄判決以外にも、アメリカでSBS仮説の見直しを迫る裁判例が相次いでいます。

2018426日、テネシー州の少年裁判所は、生後6カ月の女児に三徴候(硬膜下血腫、眼底出血、びまん性軸索損傷=DAI)が認められたという専門家の鑑定によって、若い両親(18歳以下)による虐待が疑われた事例について、児童保護当局による親子分離の申立を却下しました。この裁判では、両親側の専門家が、当局側専門家の鑑定について、びまん性軸索損傷は認められず、硬膜下血腫も血栓静脈の見間違いの可能性があるなどと指摘しました。日本でも、近時一部の小児科医らが、裁判において、脳浮腫の原因を医学的な証拠がないにもかかわらず広範な脳実質損傷があると決めつける例が多く見られます。大変参考になる裁判例です。少年裁判所は、当局側専門家の鑑定に疑問を呈するとともに、両親による養育に問題がなかったことなども指摘し、虐待について明白で説得的な証拠はないとして、児童保護当局の申立を却下したのです。

他にも多くの裁判例がでています。 Continue reading →

アメリカ オハイオ州でSBS有罪判決を破棄~医師の役割は?

2018年8月17日のニュージャージー州での無罪判決に引き続いて、アメリカ オハイオ州の控訴審裁判所が、2018年10月5日、一審の陪審有罪判決を破棄し、再審理を命じました(IN THE COURT OF APPEALS OF OHIO SIXTH APPELLATE DISTRICT SANDUSKY COUNTY/State of Ohio v. Chantal N. Thoss /Court of Appeals No. S-16-043 Trial Court No. 15 CR 57)。

オハイオの事件は、生後6カ月の赤ちゃんのベビーシッターが、オムツを替えようとしてソファに赤ちゃんを置いて、少しその場を離れたところ、赤ちゃんがソファから落下した後、急変したというものでした。日本でも同じような低位落下が問題となっている裁判が、何件も係属しています。

一審の検察側証人だった小児科医は、事件当日に「赤ちゃんの症状は揺さぶりによるもので、被告人がその犯人だ」と決めつけていました。典型的なSBS仮説による意見です。その小児科医の意見を鵜呑みにした捜査機関は、揺さぶりを否定するベビーシッターの供述を無視し、その小児科医の意見のみを根拠に、ベビーシッターを起訴したのです。

実は、その赤ちゃんの初期治療に当たった救命医たちは、虐待の証拠はないと判断していました。検察側小児科医のみが、虐待だと決めつけていたのです。しかも検察側小児科医は、赤ちゃんに古い慢性血腫があることを無視していました。頭蓋内に古い血腫があった場合には、軽微な衝撃で再出血を生じてしまうリスクが高くなることはよく知られています。

一審の陪審は、この小児科医の証言を信じて有罪とされ、ベビーシッターは禁錮8年を言い渡されてしまいました。しかし、控訴審は、小児科医が赤ちゃんの古い血腫を無視しているのは不合理であること、ベビーシッターに動機はなく、その供述が信用できること、他にベビーシッターによる虐待の痕跡が全くないことなどを重視し、陪審の証拠判断は明白な誤りであるとしたのです。日本の裁判でも参考になる判断です。

なお、判決は、弁護側の専門家証人が、「赤ちゃんの症状だけから虐待を受けたと判断されたことは驚きである」とし、「医師の役割は、傷害を解釈し、情報を捜査官に与えて補助することであっても、捜査官となって犯人が誰かを特定することではない」と証言した部分を詳細に引用しています。その引用の背景には、検察側小児科医の証言が、医師としての領域を明らかに超越してしまっているという判断があったものと思われます。

ちなみに、この小児科医は、別の事件で、保育施設で3歳児の転倒による大腿骨折を虐待だと決めつけた意見書を提出しました。この小児科医は、州のために虐待事案の調査に協力し、意見書を提供する契約をしていたのです。その意見書のために、保育担当者は、解雇され、起訴されてしまいました。しかし、その事件は弁護側専門家証人が、小児科医の意見書には多くの誤りがあると指摘したことから、検察が起訴を取下げたのです。現在、保育担当者は、その小児科医師を相手に損害賠償の裁判を提起しています。

捜査機関に協力する医師の役割やその意見の在り方については、様々な問題がありますが、日本でも今後真剣な検討が必要であることは間違いありません。

スウェーデン調査② 2018年2月9日スウェーデン行政最高裁判決

今回の現地調査で、2018年2月9日に、虐待の疑いをかけられたあるSBS事案に関して、スウェーデン行政最高裁判所が重要な判決を出していたことがわかりました。

この判決の趣旨は、基本的には2014年のスウェーデン最高裁判決(こちらも、翻訳をウェブでお読みいただけます。本ブログのこの記事をご参照下さい)と同趣旨です。2014年の最高裁判決は「暴力的な揺さぶり(=虐待)の診断についての科学的なエビデンスは不確実なものと判明した」として、ある刑事事件の被告人に逆転無罪を言い渡したのでした。

これに対して、2018年2月の判決は、SBSの診断に基づいて親子を分離した行政裁判所の判断に関するものでした。

行政最高裁判所は、次のように判示しました。

「SBU報告書からすれば,三徴候の存在から暴力的な揺さぶりを示す推認の科学的根拠は少ない。本件において,頸部の軟部組織の損傷など,他の証拠は存在しない。さらに,子どもの急性の症状の前にあったとされる出来事については,目撃者の証言もなければ他の状況証拠もない。本裁判所はこのような状況において, CCが暴力的な揺さぶり によって虐待されたということを,十分な確実性をもって調査できたということはできないと結論づける。
 次の問題は,頭部へのその他の暴力によって損傷が生じた可能性はあるかという点である。
 この点について,虐待の疑いはやはり三徴候の存在のみに基づくものであった。本件では,痣,軟部組織の腫脹,骨折など,頭部への暴力を示す所見は見られない。医師たちはCCの症状の原因となる暴力がどのようなものであるか,疑われる暴力と症状とがいかに関連するかについて,説明できていない。本件傷害は暴力が加えられたことを原因とするものであるとの結論は,本件で意見を述べた他の医師たちの意見からも支持されない。このような背景のもと,CCの頭部にその他の暴力が加えられたということは,本件医学的調査からは支持されないと本裁判所は判断する。
 結果的に,上述のとおり,CCが身体的な虐待を受けた蓋然性があると結論づけるために必要な証拠は,本件においては存在しない。」

 

このように、行政最高裁判所は、SBUの報告書(2016年)を引用した上で、本件で子どもが虐待を受けた蓋然性を否定したのでした。

RFFR(スウェーデンのえん罪被害者団体)の副代表であるMats Hellbergさんが元の行政最高裁判決を英訳して下さいましたので、日本語に翻訳することができました。まだ「仮訳」ではありますが、是非お読み下さい。

180915スウェーデン行政最高裁2018年2月9日判決 翻訳

Swedish Supreme Court Decision Japanese Translation 

↑ こちらをクリックして下さい! ↑

スウェーデン調査①

共同代表の秋田弁護士・笹倉教授を中心としたグループで、8月末から海外調査に出ています。

最初の訪問地は昨年も訪れたスウェーデン。なんと初日のインタビューはあのSBUで行うことができました。SBUとは、スウェーデンの医療技術評価委員会です。この委員会がSBSに関する検証を行い、いわゆる三徴候・暴力的揺さぶりについてこれまで執筆された論文のうち十分な科学的エビデンスに基づいたものはないという報告書を2016年に出したのです。SBUの報告書は社会に大きな影響を与えてきたといわれていますが、このSBSに関する報告書も同様に、国内外から大きな注目を集めました。

*SBU報告書の翻訳は龍谷法学50巻3号に掲載されています。

SBU報告書を作成した委員会の委員長であるカロリンスカ研究所のリノエ教授をはじめとして、3人の研究者が参加してのインタビューが行われました(詳細はまた別投稿にて)。

 

翌日は、カロリンスカ研究所にお招きいただき、リノエ教授からさらに詳細なレクチャーを受けました。

以上、SBU報告書の本拠地訪問から始まった海外調査について、簡単なレポートです。調査団はストックホルムでさらにインタビューを重ねた後、さらに隣国ノルウェー、そしてイギリスでもインタビューを行いました。次のレポートにご期待ください。

スウェーデン最高裁2014判決とSBU2016年報告書

龍谷法学50巻3号に、秋田・笹倉両代表による翻訳が掲載されています。ネットで読むことができますが、データにたどり着くのが少し難しいようです。以下の方法でお試しください。

①龍谷大学図書館の検索ページで「学内学術成果」のタブをクリック

https://library.ryukoku.ac.jp

②キーワードに「SBS」を入れて検索。

③論文がヒットするので、赤いバナーの「本文・要約」をクリック

51号には2018年2月に開催した国際シンポジウムから、ウェイニー・スクワイア医師の講演録(翻訳)を掲載しています。キース・フィンドレイ氏、ケイト・ジャドソン氏の講演録も今年度中に公表する予定です。ぜひご覧ください。

ニュージャージー州でのSBS無罪判決

2018年8月17日、ニューヨークのお隣にあるニュージャージー州の重罪裁判所(Superior Court 日本での地方裁判所にあたります)が、SBS事案で虐待を疑われた父親に対し、無罪判決を言い渡しました。

この裁判では、検察側の専門家証人と弁護側の専門家証人がそれぞれ証言し、SBS仮説の信頼性や、状態がおかしくなった赤ちゃんを揺さぶったり、お尻を強めに叩いたという父親の「自白?」をどう評価するかが問題になりました。 Continue reading →