Monthly Archives: 2月 2020

国外からも注目されるSBS検証プロジェクトの活動

相次ぐSBS無罪判決が海外でも注目を集めており、笹倉共同代表がいち早く英文でアップした判決要旨(Osaka High Court clears grandmother in a SBS case, Three More Not-Guilty Verdicts in SBS Cases!)は日本以外からのアクセス数を着実に伸ばしています。海外の専門家からは温かいメッセージが届くとともに、SBS検証プロジェクト(SRP)の活動についてインタビューの申し込みが複数ありました。そのうち、2月27日に行われたニューイングランド・イノセンス・プロジェクトとのSkypeミーティングの様子をお届けします。

アメリカマサチューセッツ州ボストンに本拠地を置くニューイングランド・イノセンス・プロジェクト(NEIP)は、冤罪の救済と予防を目的として2000年に設立されました。

ミーティングには、NEIP代表のRadha Natarajan氏のほか、Laura Carey氏、Cynthia Mousseau氏、Brandon Scheck氏が参加し、SRPからは秋田弁護士、笹倉教授の両共同代表と、古川原が参加しました。

まず、笹倉共同代表がスライドを用いながら、SBS仮説導入前後の日本での議論状況、SBS仮説が優勢な状況下でSRP設立に至った経緯、その後の活動についてプレゼンを行いました。SRPの活動は、「調査研究・啓発・支援・連携・弁護」という5つの観点から説明がなされ、設立からわずか2年強でここまで多方面に広がりを見せたことにNEIPメンバーからは称賛の声が上がりました。

プレゼン後のディスカッションでは、まず、日本には1960年代に低位落下についての知見(いわゆる中村1型)が存在していながら、なぜそれが排斥されてしまったのかという点や、地域的な事件数の偏りについて質問があり、両共同代表が日本の議論状況を補足説明しました。また、弁護側に協力してくれる専門家を見つけることや、データを収集して見直すことには、NEIPも困難を感じているとのやり取りがありました。他方、日本のSBS問題を根深いものにしている要因として、日本の刑事司法制度に特有の問題(長期の身柄拘束下での取り調べ、自白の偏重、有罪率の高さなど)を伝えると、NEIPメンバーは一様に驚いた様子でした。そのような状況下で、どのように一定の成果を上げることができたのかという質問に対し、秋田共同代表の答えは、様々な分野にむけて正確なデータをもとに根気よく働きかけを続けたことで、雰囲気を変えることが出来たからであろうというものでした。

SRPの活動にとって、海外の専門家や団体との協力は欠かせません。スウェーデンに始まった海外調査や、国際シンポジウムはその一例です。また、SBSだけでなく幅広く冤罪問題に取り組んできた国内外の人々との繋がりも大きいものでした。私たちがそうした交流の中で得てきたのは、専門的な知見や情報だけではなく、情熱と刺激です。SRPもまた、同様の困難に立ち向かう海外のファイター達にとって良い刺激となりつつあることを誇らしく感じたミーティングでした。

【お問い合わせについて】SBS検証プロジェクトHP改訂

最近の判決についての報道が増えるに伴い、SBS仮説に苦しめられている方からの連絡をいただく機会も増えました。

その際、SBS検証プロジェクトの事務局が大阪にあることから、関西以外にお住まいの方が相談を躊躇されることもあると伺いました。SBS検証プロジェクトは各地の弁護士と連絡を取りつつ、全国の相談を受け付けています。その旨をプロジェクトのHPにも追記しましたので、お気兼ねなくご相談下さい。

お問い合わせフォームはこちら→ SBS検証プロジェクト

無罪判決に関する記事のご紹介

 連日の無罪判決で、SBS問題に関する社会の関心が高まっていることを実感しています。SBS検証プロジェクトにも「自分の家族が虐待を疑われてしまった」「以前に同じ体験をしたことがある」というご連絡を頂戴しています。

 メディアでも注目が高まっています。

 毎日新聞は、「論点『SBS=虐待』なのか」(2020年1月29日)で「虐待事件を減らす一方、冤罪(えんざい)被害者も生まないためにはどうすればいいのか」について、3人の専門家の見解がまとめられていました。SBS検証プロジェクトの笹倉共同代表は「児童虐待を巡る冤罪は本人だけでなく、子供にも取り返しのつかない傷を残す。SBS理論の是非については海外で展開されている懐疑論も踏まえつつ、中立的で科学的な立場から検証を進めるべきだ」と話しています。

 SBS問題をかねてから取材してきた、関西テレビの上田大輔記者も、一連の無罪判決を受けて詳細な解説記事を書いています。

 最新の記事はこちら → 「【特集】驚異の無罪率…“揺さぶり虐待“裁判の法廷で、「虐待ありき」のSBS捜査に2つの「逆転無罪」が“苦言“」

 上田記者は、大阪高裁の2つの無罪判決が、いずれも「虐待ありき」の姿勢に基づく診断に依拠してきた捜査機関とそれを追認してきた裁判所に対して警鐘を鳴らしていると指摘しています。

 ひとつ前に英語でポストしましたが、日本の一連の裁判は、海外においても注目を集めています。

 

Three More Not-Guilty Verdicts in SBS Cases!

There has been much development in shaken baby syndrome (SBS) / abusive head trauma (AHT) cases in Japan this year so far.

On January 28, the Osaka High Court affirmed a not- guilty verdict in a case of a father alledged to have abused his girlfriend’s daughter, causing head trauma.

On February 6, the Osaka High Court reversed and found not-guilty in a case of a mother, who was sentenced to 3 years in prison (sentence suspended for five years) in Osaka District Court in 2018. The Osaka High Court stated that the defence witnesses’s (neurosurgeons)
 testimonies were more reliable than the pediatrician’s who testified for the prosecution.

Then on February 7, the Tachikawa Branch of the Tokyo District Court handed down a not-guilty verdict in a case of a father indicted of shaking his daughter to death. You can read about the decision here (in English).

These decisions have all pointed out that just because there is the “triad” or other symptoms, you cannot simply conclude that the baby was actually abused: there needs to be a thorough review of cases.

There many more cases still pending. We hope that there wil be a more scientific and rational decision on SBS/AHT in Japan in the future.

【速報】連日のSBS無罪判決!東京地裁立川支部

また、今度は東京地裁立川支部で、SBS仮説に基づき赤ちゃんを揺さぶって死亡させたとして、父親が起訴された事件で無罪判決が出ました(傷害致死・裁判員裁判。求刑8年)。この事件では多くの医師が証人として証言したようです。裁判所は、これら医師の証言を慎重に検討した上で、「本件のように犯罪を証明するための直接的な証拠がなく,高度に専門的な立証を求められる傷害致死事件においては,生じた傷害結果について医学的な説明が可能かということだけではなく,本件に即していえば,被害者の年齢,事件前の被告人の暴行の有無やその態様,事件に至る事実経過,動機の有無やその合理性,事件後の被告人の言動などの諸事情を総合的に検討し,常識に照らして,被告人が犯行に及んだことが間違いないと認められるかを判断する必要がある。…本件の事実経過からは,被告人が被害児に揺さぶる暴行を加えたことをうかがわせる事情は見当たらず,被害児に暴行を加えていないと一貫して主張する被告人の供述には一応の根拠が認められることや,被害児に生じた本件各傷害の発生機序に関する検討結果を併せてみれば,結局,被告人が被害児に揺さぶる暴行を加え,その結果,本件各傷害を負ったと認めるには合理的な疑いが残ると言わざるを得ない」と判断しました。SBS仮説に依拠して、医学的な所見のみで、揺さぶりと決めつけようとしてきたこれまでの訴追・立証の在り方に、強い警鐘を鳴らしたと言えるでしょう。それにしても、99.9%有罪と言われてきた日本において、これだけ無罪判決が続くことは、異常というほかありません。これまで日本の検察庁は、起訴は立証が間違いない事件のみを慎重に行ってきたと述べて来たはずですが、そのような思い込みを捨てなければなりません。すでに関係機関は、SBS仮説をゼロから見直すことを義務付けられていることが明らかです。

昨日の逆転無罪判決の報道

 昨日の判決について報道が相次いでいます。その中で、SBSの問題についてSBS検証プロジェクトの設立当初から取材を続けてきた、関西テレビの報道をご紹介しましょう。

 関西テレビは本件の一審の状況も振り返りつつ報道しました。

「冤罪を訴える弁護士」と、「虐待防止に取り組む小児科医」が法廷で激しく衝突。この裁判をきっかけに、揺さぶりの医学的根拠を問い直す「SBS論争」が巻き起こりました。

 そして、次のように指摘します。

虐待事件の裁判で有罪判決の根拠となってきたSBS診断の正当性が揺らいでいます。……相次ぐ「逆転無罪」判決により、虐待かそれとも事故・病気かの鑑別が乳児虐待捜査で適切に行われているのか、大きな疑問が生まれています。今回の判決を言い渡した西田裁判長は、刑事裁判においては「医師の見解に対する厳密な審査」が必要だということをあえて強調しました。「虐待ありき」のSBS診断にそのまま依拠してきた捜査機関、裁判所に反省を迫った判決といえそうです。

 SBS冤罪は、どなたの身にも降りかかりうる問題です。このような報道をきっかけに、この問題について社会がさらに認識を深めていくことを願います。

逆転無罪のポイント・溝口史剛医師の供述変遷

揺さぶりを疑われた母親に逆転無罪判決を言い渡した大阪高裁令和2年2月6日判決(第5刑事部 西田眞基裁判長、五十嵐常之裁判官、伊藤寛樹裁判官)は、検察側証人であった溝口史剛医師の証言の問題点を鋭く指摘しました(同医師は、山内事件でも検察側証人でしたがその逆転無罪判決でも厳しく批判されています)。SBS事件における医師証言の信用性判断の在り方について、重要な指摘と思われますので、少し詳しく述べてみたいと思います。

こちらも注目→2月14日、日弁連(霞ヶ関・弁護士会館)のセミナー

      医療判例解説に朴永銖医師による本事件の解説が掲載されました。

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【速報】大阪高裁で再び逆転無罪判決!

 2020年2月6日、大阪高裁は山内事件に引き続き、生後1か月半の赤ちゃんを揺さぶって重篤な傷害を負わせたとして、一審で有罪判決を受けた母親に対し、逆転無罪判決(第5刑事部 西田眞基裁判長、五十嵐常之裁判官、伊藤寛樹裁判官)を言い渡しました。低位落下によっても、SBSとされるような症状が出るかどうかが争われた事件であり、非常に重要な意義がある判決と言えます。ちなみに、検察側の医師証人は、このブログでも再三触れ、山内事件でも証人だった溝口史剛医師です。控訴審判決では、溝口証言の信用性が明確に否定されました。詳細は、追ってご報告します。

こちらも注目! 日弁連で2月14日にセミナー