速報:大阪高裁、面会制限の違法を認める!

2023年8月30日、大阪高裁第13民事部(裁判長裁判官 黒野功久、裁判官 馬場俊宏、田辺麻里子)は、児童相談所による一時保護継続と面会制限の違法性を指摘して、大阪府に対して損害賠償を命じた2022年3月24日大阪地裁判決について、大阪府の控訴を棄却すると同時に、母親側の附帯控訴による賠償額の増額を認める判決を言い渡しました。

 本件は、家庭内の低位落下事故であるにもかかわらず、児童相談所の依頼を受けた法医学者が、その症状を「頭部をかなり大きな揺さぶられて生じたと考えられる」などという誤った鑑定書を書き、児童相談所がその鑑定書を鵜呑みにしたことから、8か月にもわたり親子分離が継続したという事案です。

 大阪高裁は、この法医学鑑定について「判断及びその前提となる画像読影の正確性に疑義を挟まざるを得ない」「結論を導くための医学的知見及びそれを裏付ける医学文献等が何ら示されておらず…医師からはこれを補うような意見等も特段示されなかった…その…内容を信用するのは困難といわざるを得ない」としました。実際、この鑑定書は、本文はわずか16行、原判決も認定するとおり、画像誤読の上に、医学的根拠を全く示していないという代物で、どうみても「鑑定」の名に値しないものでした。このような鑑定書が、法医学者を名乗る医師によって作成されること自体に驚きを禁じ得ません。ところが児童相談所は、一目見て不合理であることが明白なこの鑑定書のみを根拠に、その信用性を何ら検証しようとすることなく、長期の親子分離を正当化しようとしたのです。その結果、実際に親子分離は8か月に及びました。

 児相が、そのような親子分離を正当化しようとする論理は、「受傷の原因が確定できないため具体的な再発防止策を講じることができない」というものでした。「受傷の原因が確定できない」というのは、児童相談所が、母親の説明を信用しようとせず、無視したからです。この点、裁判所は、本件の母親の説明が一貫して不合理な点もないこと、その主張を裏付ける医学的知見が提出されていること、本件の養育状況や母親の態度等から母親が「本件児童を虐待していたり、本件受傷の原因について虚偽を述べたりしているとは考え難い」としました。裁判所は、母親の供述を信用できるとして、本件が事故であることを明確に認めたのです。

 しかし、児相は、とにかく母親の説明を信用しようとせず、虐待の可能性が否定できない以上、親子分離だ、面会制限だと主張し続けたのです。多くの児相が、一方的な親子分離、面会制限を行うときに取ろうとする態度です。そこにある児相の姿勢は、「とにかく親子分離」「とにかく面会制限」です。事実を見極めようというものではありません。「思考停止」以外の何ものでもないのです。

 このような児相の姿勢はきわめて深刻な実務運用を招いています。虐待などしていないと訴える親と、ひたすら「虐待を疑う」児相側との間で信頼関係ができるはずもありません。逆に強い軋轢を生むことになります。その一方で、本件でもそうだったのですが、児相側が真相を見極めようとする訳でもありません。「原因不明である以上、対策が取れないから分離」の一点張りです。その結果、親子分離も面会制限も長期化してしまうのです。

 児相には、親子分離、面会制限が、「児童及び保護者の権利等に対する重大な誓約を伴うものであるし、児童と保護者の分離によって児童の安全が確保され、その福祉を保障できる場合がある一方で、分離が長期化することによって再統合が困難になるなど、分離によって児童の福祉が侵害される場合もあり得る」(判決)という発想が抜け落ちているのです。親子分離、面会制限は、それだけでは「チャイルドファースト」とはいえません。むしろ形を変えた国家による「虐待」となりうることを忘れてはなりません。

 判決は、面会制限の法的根拠についても重要な判断を示しています。親子分離された多くの保護者が勘違いしたまま、親子分離された以上、児相による面会制限はやむを得ないものと思い込んでいます。児相側は「会えません」というだけで、その法的根拠を説明しようとしないからです。実はそうではありません。児相が強制的に面会制限が可能なのは、児童虐待防止法12条に基づく「行政処分」という手続が行われた場合だけです。その処分は、「児相虐待を受けた児童」について、「当該児童虐待を行った保護者」との面会を制限するのですから、「児童虐待」の事実が具体的に認定される必要があります。本件の母親もそうですが、「虐待」の認定はされているわけではなく、実際に「面会制限の行政処分」は行われていません。では、それにもかかわらず、どのような法的根拠で児相は面会制限を続けたのでしょうか。実は、「行政指導」なのです。判決が述べるとおり、行政指導による面会制限は、「飽くまで相手方の任意の協力によって実現しなければならないから(行政手続法2条6号、32条1項)、保護者の同意(黙示的又は消極的な同意も含まれ得る。)に基づく必要があり、強制にわたってはならない」のです。実務では、児相側はそのような説明をしないまま、一方的に「会えません」と宣告し、どうすればいいかわからないまま多くの親が引き下がってしまいます。親が引き下がってしまうと、「行政指導に従った」とみなされてしまうのです。

 本件の母親は、児相に対し、粘り強く面会制限の法的根拠を尋ね、そして赤ちゃんとの面会を求め続けました。にもかかわらず約5か月にわたった事実上の面会制限について、判決は「法令上の根拠に基づかない強制的な面会制限」であったと認め、違法と判断したのです。

 なお、大阪府は、控訴審において、児童相談所長は一時保護をされた場合に「監護のための必要な措置」ができるとされていることから(児童福祉法33条の2第2項)、「強制力を有する行政指導が存在するかのような主張」もしましたが、判決は、「行政指導の一般原則について定めた行政手続法32条1項に照らしておよそ採用し難い」と斥けました。

まず、大阪府、児童相談所には、「とにかく親子分離・面会制限」の発想に縛られた「思考停止」に陥っていないか、十分に反省、検証をしていただきたいと思います。

日弁連シンポジウム「積極的な医療検査により冤罪を防ぐ質量分析・遺伝子解析の結果無罪となった虐待疑い2事例」8月18日18時開催

【会場参加】 弁護士会館2階講堂「クレオ」BC  開場は17時45分を予定しています。
【オンライン配信】IBM video streaming

■参加費・受講料  参加費用無料・事前申込制

近時の無罪事例を題材に、特にSBS虐待疑い案件における問題点を提示し、刑事事件全般に通じる、受傷原因の検討対象(先進医療)について紹介します。後半のパネルディスカッションでは、虐待問題に関する近時の動向として、海外の議論状況や、厚労省の手引き改定についても取り上げる予定です。奮ってご参加ください。なお、参考文献としてブックレット「赤ちゃんの虐待えん罪」も是非ご参照ください。

●事前申込フォーム

https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/818iryoensm/0818enzai/

■参加対象・人数 どなたでもご参加いただけます。(会場定員:150名)
■内容
1 基調講演  
(1)SBSを中心とする虐待疑い事案の問題点 宇野裕明会員(大阪弁護士会)
(2)担当した2事例の報告 川上博之会員(大阪弁護士会)
   岡本伸彦医師(大阪母子医療センター 遺伝子診療科)後藤貞人会員(大阪弁護士会)
2 パネルディスカッション「虐待問題に関する近時の動向」  
  パネリスト 秋田真志会員(大阪弁護士会) 笹倉香奈氏(甲南大学教授)古川原明子氏(龍谷大学教授) 徳永光氏(獨協大学教授)
  コーディネーター  陳愛会員(大阪弁護士会)
■申込方法
 会場参加(定員150名)・オンライン配信とも事前申込みをお願いします。
(※申込期限:8月15日(火)まで。定員になり次第、締め切ります。)
オンライン配信の視聴URLと配布資料は当日までにEメールでご案内します。

SBS/AHTブックレット刊行のお知らせ

 SBS検証プロジェクトが設立されてから、5年が経過しました。
 この5年間で、SBS問題はどう変わったでしょうか。国際シンポジウムなどを経てSBS/AHT議論は活性化し、プロジェクトが関わった事件のうち無罪判決の確定は10件にのぼりました(2018年以降、2023年3月末まで)。大きな変化がもたらされたといえます。そのため、「SBS問題はもはや終わったのだ」と思われるかもしれません。しかし、いわゆる「新徴候」による訴追や親子分離がまだ続いているのが現状です。SBS問題は、いまだ解決していません。
 そこで、SBS検証プロジェクトの5年間を振り返りながらSBS/AHT問題を整理し、今後の課題を指摘すべく、ブックレットを刊行しました。分かりやすいQ&Aから始まって、えん罪当事者の声、刑事司法と医学鑑定、司法審査と親子分離など、幅広く扱った一冊となっています。
発売は4月18日の予定です。ぜひご一読ください!

「赤ちゃんの虐待えん罪 ーSBS(揺さぶられっ子症候群)とAHT(虐待による頭部外傷)を検証する!」
編著:秋田真志、古川原明子、笹倉香奈
👉ご注文はこちらから  👉試し読みはこちらから


📕目次📕
本ブックレット推薦のことば
SBS自動診断による〈えん罪〉の撲滅を期待/青木信彦
はじめに
パート1 Q&A SBS/AHTえん罪って何?
 Q1 SBS/AHTえん罪という言葉をはじめて聞くのですが、どういうことでしょうか?
 Q2 SBS/AHTはどこが発祥なのでしょうか?
 Q3 なぜ、SBS/AHTえん罪は起きるのですか?
 Q4 SBS/AHTが疑われた事件で、無罪判決を言い渡されたものはありますか?
 Q5 SBS/AHTをめぐる最近の議論状況はどうなっていますか?
 Q6 SBS/AHTによる子ども虐待が疑われると、どうなるのでしょうか?
 Q7 病院は、SBS/AHTによる虐待が疑われる場合、どこに通告するのですか?
 Q8 虐待を疑った児童相談所は、養育者と子どもに対して何をするのですか?
 Q9 SBS/AHTの疑いで一時保護をされた場合、養育者と子どもはどうなるのでしょうか?
 Q10 通報を受けた警察は、被疑者となった養育者に対して何をするのですか? どう対応すべきですか?
 Q11 SBS/AHTの事件では、よく医学鑑定が使われていると聞きますが、どういう問題がありますか?
 Q12 SBS/AHT仮説の問題点について教えてください
 Q13 SBS/AHT仮説の循環論法とはどういうことでしょうか?

パート2 SBS/AHTえん罪 ケース紹介・当事者の思い
ケース1 山内事件
 1 SBS理論に警鐘を鳴らした無罪判決/我妻路人
 2 [当事者の思い]/山内泰子
ケース2 河村事件
 1 低位落下による発症可能性が認められた逆転無罪/秋田真志
 2 [当事者の思い]/河村透子(仮名)
ケース3 永岡事件
 1 ソファからの落下とSBS──岐阜地裁・名古屋高裁の重要な指摘/秋田真志
 2 [当事者の思い]/永岡麻美(仮名)
ケース4 小田事件
 1 事実関係を冷静に分析しなかった警察・検察/村井宏彰
 2 [当事者の思い]/小田雅矢(仮名)
ケース5 市谷事件
 1 「三徴候=激しい揺さぶり」という決めつけがかたちを変えて起きたえん罪/川上博之
 2 [当事者の思い]/市谷あかり(仮名)
ケース6 菅家事件
 1 つかまり立ちからの転倒を虐待と誤認され逮捕された事案/陳愛
 2 [当事者の思い]/菅家英昭
ケース7 田中事件
 1 事故による親子分離・面会制限の違法性が認められた事例/秋田真志
 2 [当事者の思い]/田中ちえ(仮名)

パート3 SBS/AHTえん罪の原因
 1 SBS/AHT虐待えん罪と捜査・裁判の問題点/宇野裕明
 2 医学鑑定と刑事手続/徳永光

パート4 SBS/AHTと親子分離
 1 はじめに──司法審査導入に向けて/古川原明子
 2 司法審査と親子の権利/山口亮子
 3 親子分離の実情と問題点/三村雅一

参考資料一覧
SBS検証プロジェクトの歩み
あとがき


 

日弁連刑事弁護センター「SBS/AHTが疑われた事案における相次ぐ無罪判決を踏まえた報告書」を公表

日弁連が、刑事弁護センターが作成した「SBS/AHTが疑われた事案における相次ぐ無罪判決を踏まえた報告書」を日弁連のホームページで公開しました。このブログでも紹介してきた多くの無罪判決を分析したものです。有罪率が99.9%とも言われる日本の刑事裁判において、SBS/AHTという同種類型でこのように無罪判決が相次ぐことは、未曾有の事態というべきです。どの無罪判決も、検察側が依拠した医学的見解を非常に丁寧に検討した上で無罪の結論を導いており、それらを通覧すれば、医学的所見のみで虐待と認定することの危険性が浮き彫りとなります。報告書は、そのような無罪判決とともに、国内外の議論状況の分析も踏まえて、SBS/AHT仮説による冤罪リスクを指摘しつつ、次のように述べます。「冤罪は究極の人権侵害であり、権力犯罪でもある。冤罪被害者は、時間だけでなく、信頼や人間関係、財産などを奪われる。その多くは取り戻すことができない。冤罪の結果、長期間の誤った親子分離や家族関係の崩壊に至った悲しい事例も、現に存在する。虐待と同様、冤罪も絶対に許されないのである」。是非、全文をお読みください。

また内因が関与した可能性を肯定ー2023年3月17日大阪地裁無罪判決の意義;親子分離の硬直化を回避すべき

速報がなされましたが、2023(令和5)年3月17日、大阪地裁第15刑事部(末弘陽一裁判長、高橋里奈、小澤光裁判官)は、SBS/AHT仮説に基づき、生後2か月の乳児に「激しい揺さぶりなどの暴行を加えた」などとして、傷害罪に問われた赤阪友昭さんに対し、無罪判決を言い渡しました。赤ちゃんが急変し、急性硬膜下血腫や眼底出血の頭蓋内出血が認められたことから、検察官は「激しい揺さぶりなどの暴行」=虐待と決めつけたのですが、本判決は、内因が関与したことによって軽微な外力によって頭蓋内出血が生じた可能性を認めたのです。このように内因が関与することによって、軽微な外力または外力がなくても頭蓋内出血が生じることは繰り返し報告されてきています。東京地裁立川支部2020年2月7日判決控訴審東京高裁2021年5月28日判決)、大阪地裁2020年12月4日判決新潟地裁2022年5月9日判決などは、いずれも内因と軽微な外力が重なった事例と考えられます。大阪地裁2019年1月11日判決山内事件、そして現在控訴審で係争中の今西事件は、内因のみによって頭蓋内出血が生じた事例です。

赤阪さんの事件を報じる関西テレビの報道ランナー

 

 赤阪さんの事件では、赤ちゃんは急変の数日前から風邪様の症状がでていたことが確認されています。そして、心機能の低下やCK-MBという心筋傷害を示す数値の上昇が見られたことから、心筋炎発症の可能性が指摘されたのです。これは、弁護側が心臓突然死の可能性を指摘している今西事件と非常によく似ています。さらに赤阪事件で重要だったのは、赤ちゃんの精密検査から「先天性グリコシル化異常症」という血液凝固異常につながる疾患に罹患している可能性も指摘されたことです。凝固異常が生じると、頭蓋内出血などを生じやすくなります。そうだとすれば、「頭蓋内出血があるから激しい揺さぶりなどの強い外力に違いない」という検察側の主張は根拠を失います。この凝固異常は、山内事件今西事件でも問題になりました。安易に外力だと決めつける姿勢は改められなければならないのです。

 注意しなければならないのは、検察側も内因の可能性を検討しなかった訳ではないことです。検察側には、多くの医師が協力しています。しかし、先天性グリコシル化異常症の可能性を指摘した医師はいませんでした。先天性グリコシル化異常症が一般の医師には知られていない非常に稀な疾患であることも事実です。これまでのSBS/AHTをめぐる裁判では、稀な疾患を除外診断の対象にしなかったことを、「そんなことは滅多にない」などと正当化しようとした検察側医師もいました。しかし、稀な疾患であることは無視してよいことにもなりませんし、その可能性を指摘できなかったことの言い訳にもできません。稀であっても、1億2000万人の人口を抱える日本のどこかでは、必ずその稀な疾患は生じているのです。山内事件の静脈洞血栓症も、今西事件の心臓突然死も、いずれも稀な事象ですが、必ず日本のどこかで発生するのです。稀な疾患だからと言って無視すれば、稀な疾患から生じる頭蓋内出血はすべて虐待になってしまいます。さらに、医学が進んだとは言え、すべての内因が解明されているわけではありません。SBS/AHTの事例ではありませんが、大阪地裁2022年12月2日判決(篠原遼さんの事件)も、稀な疾患が虐待だと疑われて、無罪となった事件です。よくある疾患が除外できたから虐待だ、と決めつけるのは、深刻な冤罪を生む可能性があるのです。

 実は、近時の検察官の起訴には、このような安易な除外診断をもとにしたものが多いのです。当プロジェクトには、全国各地の弁護士や保護者の方からの相談が相次いでいますが、検察官は、低位落下や転倒などの外力のエピソードがある事例の起訴には慎重になっていることが窺えます(但し、今でも1m以下の低位落下では重篤な傷害は生じないと考えている医師もいるようです。また厚労省の「子ども虐待対応の手引き」の問題ある記述も改訂されていません)。しかし、そのようなエピソードを保護者が語らない場合、「内因が見当たらないから虐待」として起訴するという例が、今なお多く見られるのです。赤阪さんの事件の反省に立って、検察官にはその起訴の在り方をもう一度見直す必要があるはずです。

 なお、赤阪さんの裁判の中では、検察側証人ですら、「一般に、乳児の場合、どれだけの力をかけたら架橋断裂するのかの下限値は、まだよく分かっていないところがある」「DBCL(硬膜の一番下の層である硬膜境界細胞層のこと)内に、静脈叢(DBCLの中の上の方の層で血管が多数存在しているところ)からの漏出液がわずかでも貯留している可能性があると、本来、剥離しやすいDBCLは、軽微な頭部の衝撃によって容易に裂けて剥がれ、この際に、硬膜静脈叢や架橋静脈を損傷して、硬膜下血腫が発生することがある」「眼底出血が生じる外力の程度・閾値については有力な基準がない」「外力の程度について、1秒間に何回(の揺さぶり)といった具体的数値に置き換えるほどには医学の技術が進んでいない」などと証言していました(判決)。これらの証言は、一定の医学的所見から、その原因を「激しい揺さぶり」や「強い外力」=虐待だと推定するSBS/AHT仮説の前提そのものを揺るがせるものです。

 赤阪さんの事件では、もう一つ重要で深刻な問題がありました。報道ランナーが詳報したとおり、虐待の疑いによる硬直した親子分離、さらには夫婦の面談まで禁止した保釈条件や児童相談所の対応です。赤阪さんは、赤ちゃんのきょうだいや無実を信じる妻とすら面談できず、別々に暮らさなければならなかったのです。無罪判決は、赤阪さんについて「在宅しているときには子育てに関与するなどしていたのであり、…このような被告人が、本件当日、家族で夕食をとった後、妻も隣室にいる状況で、A(赤ちゃん)が泣き出したからといって、激しい揺さぶり行為に及ぶような苛立ちや怒りを抱く心理状態にあったとは直ちには考え難い。むしろ、被告人は、…Aの容態が急変したことを認識して妻に知らせ、…119番通報し、Aがずっと泣いていたが、途中で呼吸がおかしくなって泣くのをやめてしまった状態であることなどを説明しているのであり、実際にそのような状況にあったことを否定することは困難である…。…これらの事情によれば、社会的な事実としても、被告人がAに対し生活上許容されない激しい揺さぶりなどに及ぶ動機等は存在せず、(検察官が)主張するような不法な有形力の行使に及んだとすることには、多大な疑問があるというほかない」と述べています。そして、判決の言い渡しを終えるにあたって、末弘裁判長は、赤阪さんに対し「今日を区切りに家族との穏やかな日常を取り戻されることを切に願っています」と語りかけたのです。しかし、赤阪さんが家族との絆を奪われた5年間は取り返すことはできません。虐待防止を訴える立場からは、「疑いがある以上、親子分離は当然だ」「チャイルドファーストこそを考えなければならない」という声が聞こえてきます。そして、「SBS/AHTの医学的妥当性は国際的な共通認識である」「疑問を投げかける議論には医学的根拠がない」という主張にも根強いものがあります。確かに、虐待防止は大切です。しかし、不確かな医学的見解に基づく誤った親子分離と硬直な対応は、決してチャイルドファーストではありません。どれだけ声高に共同声明を持ち出したところで、医学的妥当性は、政治的な声明や多数決で決まるものではありません。エビデンスこそが重要です。そして、多くのエビデンスによってSBS/AHT仮説の科学的根拠が揺らいでいるのです。積み重なる無罪判決を踏まえて、冷静で、建設的な議論が求められているはずです。

 

 

大阪地裁で無罪判決!

3月17日、SBS検証プロジェクトのメンバーが担当した大阪地裁のSBS事件で、無罪判決が出ました。

SBS事件について、実に10件目の無罪判決です。

誤った虐待判断は、犯人と疑われた人だけでなく、その家族を切り裂きます。ご家族の5年間の苦しみを追ったドキュメンタリーと、関連記事をぜひご覧ください。

スクワイア先生からのメッセージ

2023年3月3日に開催したシンポジウム「それでもえん罪はなくならないー連続無罪判決後、『揺さぶられっ子症候群(SBS)』問題は終わったか?―」では、イギリスのウェイニー・スクワイア先生からのメッセージを上映しました。共催のイノセンス・プロジェクト・ジャパンのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。

スクワイア先生が登壇された2018年の国際シンポジウムから、日本での多領域にわたるSBS議論が始まりました。ご登壇くださった方々は、その後、それぞれの分野でSBS問題に精力的に取り組まれています。SBS検証プロジェクトが設立されてから5年が経ちましたが、SBS問題がまだ終わっていないということを改めて感じます。

[御礼]3月3日のシンポジウムへのご参加、ありがとうございました!

3月3日は、SBS検証プロジェクト共催シンポジウム『それでもえん罪はなくならない ―連続無罪判決後、「揺さぶられっ子症候群(SBS)」問題は終わったか?―』へのご来場とwebでのご視聴、ありがとうございました!対面とwebを合わせて、約160名もの方にご参加いただきました。

SBS検証プロジェクトの発足から、ちょうど5年が経過しました。この機会に、この5年を振り返り、SBS/AHTの問題を改めて検討するために開催したシンポジウムで、とりわけ今西貴大さんの事件を通して、えん罪の問題について皆様と考える貴重な機会になりました。

SBS検証プロジェクトの事務局長の川上博之(大阪弁護士会)は、ここ5年間のSBS/AHT事件の状況を振り返り、いわゆる「三徴候」ではなくあらたな「新徴候」による訴追が続いていること、しかしその立証の構造は旧来の「三徴候」による訴追と何ら変わらないことを明快に指摘しました。

その後のパネルディスカッションでは、現在大阪高等裁判所に控訴審が継続している、今西貴大さんの事件の弁護団が登壇し、事件の内容や現状についてわかりやすく説明しました。

さらに、2018年から活動を続けているSBS/AHTを考える家族の会の代表・菅家英昭さんや、SBS検証プロジェクトのメンバ―の古川原明子(龍谷大学法学部教授)も、この5年の活動を振り返りました。

2020年以降、コロナ禍によりすべてのイベントをオンラインに切り替えていましたが、今回は、久々に対面でも開催できたイベントでした。皆様と同じ熱気を共有できましたことに心から御礼申し上げます。

当日の様子を報じた関西テレビの記事です → こちらをクリック

シンポジウム●●それでもえん罪はなくならない―連続無罪判決後、「揺さぶられっ子症候群(SBS)」問題は終わったか?―

●日時● 2023年3月3日 18時から20時

●会場● 対面開催:AP大阪駅前(JR大阪駅より徒歩2分) *先着50名様限定

https://goo.gl/maps/8RCQjmbPQ7gjQY8JA?_fsi=Tmtj42ug

  *ZOOM併用でのハイブリッド開催です

●お申込み方法● 必ずお申込みをお願いいたします。参加費は無料です。

   対面 → https://bit.ly/3QVmbq9  (先着50名)

   オンライン → https://bit.ly/3HlbSsw

●開催趣旨●   赤ちゃんを揺さぶって虐待したというSBS/AHTの事案は、本当に多発しているのか、その背景にあるSBS/AHT仮説に科学的なエビデンスはあるのか。このような問題意識からSBS検証プロジェクトが立ち上げられ、SBS/AHT事件の本格的な検証が開始されてから5年が経過しました。この間、SBS/AHTをめぐる議論は進展し、SBS/AHT仮説の科学的正しさが検証され、SBS/AHTのえん罪事件について、2018年以降に9事件で無罪判決が確定しました。

 それでは、SBS/AHT問題は解決したのでしょうか。確かに最近では、SBSの「三徴候」(三つの症状)のみに基づいて起訴される事案は減りました。しかし、伝統的なSBS/AHT仮説に依拠する厚労省「子ども虐待対応の手引き」はいまだに改訂されていません。また、個々の事件では別の「徴候」に基づく虐待診断・判断が行われ続けています。その一つが、虐待えん罪・今西貴大さんの事件です。本シンポジウムでは、SBS/AHTをめぐる議論のこの5年の展開を振り返るとともに、今西貴大さんの事件を通して現在の議論の問題点を皆さんと考えます。是非ご参加ください。

●プログラム●

1.はじめに  川上博之(⼤阪弁護⼠会)

2.今⻄貴⼤さんの事件の現状 弁護団:秋⽥真志、川﨑拓也、⻄川満喜、湯浅彩⾹、川﨑英明(⼤阪弁護⼠会) 聞き⼿:IPJ学⽣ボランティア

3.今⻄貴⼤さんと家族からのメッセージ

4.家族会の活動の軌跡 菅家英昭(SBS/AHTを考える家族の会代表、今⻄貴⼤さんを⽀援する会代

表)

5.SBS検証プロジェクト5年間の歩み    古川原明⼦(⿓⾕⼤学)

6.海外からのメッセージ    ウェイニー・スクワイア医師(イギリス、脳神経病理医)

7.おわりに    笹倉⾹奈(甲南⼤学)

司会  宇野裕明・陳愛(⼤阪弁護⼠会)

●共催● SBS検証プロジェクト、 イノセンス・プロジェクト・ジャパン、SBS/AHTを考える家族の会、今⻄貴⼤さんを⽀援する会

●協力●今⻄事件弁護団、⿓⾕⼤学犯罪学研究センター・科学鑑定ユニット、IPJ学⽣ボランティア(京都⼥⼦⼤学、甲南⼤学、獨協⼤学、⽴命館⼤学、⿓⾕⼤学)、KONANプレミアプロジェクト「冤罪事件の研究を通じた法教育の実践プロジェクト」

今西事件の詳細はこちら → https://innocenceprojectjapan.org/imanishi/

 

IPJ学生ボランティアのインタビュー記事公開

すでにこちらでも同じインタビュー記事の前編をご紹介しましたが、イノセンス・プロジェクト・ジャパンの学生ボランティアが今西貴大さんの事件について高校でワークショップを開催し、その活動などについて、日本国民救援会が発行する「救援新聞」が取り上げてくださいました。1月15日号では、2回連載の2回目が公開されています。

インタビューを受けたのは、甲南大学で学生ボランティアとして活動する堀田零生(3回生)と西村友希(1回生)、SBS検証プロジェクト共同代表で、IPJの副代表でもある同大学教授の笹倉香奈です。

ぜひお読みください!

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