Author Archives: AKITAMasashi

解説「SBS/AHTについてのかみ合った議論のために―AHT共同声明を中心に」を公開しました。

このブログ開設以来、SBS検証プロジェクトは、約2年半の間に多くの発信をしてきました。これまでの発信のうち、特に「AHT共同声明」の問題点について、1つにまとめた解説「SBS/AHTについてのかみ合った議論のために―AHT共同声明を中心に」SBS検証プロジェクトのホームページで公開しました。是非ご一読ください。→こちら

低位落下・転倒をめぐる勘違い-「まれ」と「起こらない」の混同

 保護者が低位の落下やつかまりだちからの転倒であると訴えている事案で、虐待通告をされた事件のカルテ記載を見たり、保護者からの話をお聞きしたりして、驚かされることがあります。医師が、低位落下や転倒ではこのような重篤な症状は「起こらない」と断定的に述べておられることがあるのです。以前にもこのブログで触れたことがあるのですが、重要なポイントなので再度述べておきたいと思います。

 確かに「乳幼児の転倒で頭骨内に重大な傷を負うこと」自体の確率が高いとは言えないでしょう。しかし、確率は低くても、硬膜下血腫や眼底出血は、低位落下や転倒でも一定の頻度で起こっていますし、そのうち一定の割合で重症化し、時として致死的となることは、繰り返し報告されているのです。 AHT共同声明でも、「極めてまれ」とは言いつつ「まれには起こる」ことを認めています(Review of the extensive literature informs us that mortality from short falls is extremely rare)。「まれ」と「起こらない」を混同することは、明らかな誤りです。このような勘違いは、低位落下や転倒の危険性を過小評価することにつながりかねず、かえって危険です。その認識を速やかに改めていただく必要があります。この点を検証してみましょう。

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ドーバート基準をめぐる論争-議論の本質を見極めた上で(酒井邦彦元検事長の論文について(4))

このブログで何回か触れた酒井邦彦元高検検事長の論文ですが、その(2)が公表されました(酒井邦彦「子ども虐待防止を巡る 司法の試練と挑戦(2)(全3回)」研修(令和2.3,第861号)13頁。以下、前回の論文を「酒井論文1」、今回の論文を「酒井論文2」といいます)。酒井論文2は、直接SBS/AHTを問題としたものではありませんが、「補遣」の形で、酒井論文1で触れられていた大阪地裁平成30年3月13日判決について、大阪高裁で逆転無罪判決が言い渡されたことを補足されました(もっとも、検察庁が上告をしたというだけで、その中味についてはコメントされていません)。あるいは、酒井元検事長は、このブログをご覧いただいたのかもしれません。もし、ご覧いただいたのであれば、「どういうわけかSBS検証プロジェクトでは紹介されていない、『乳幼児の虐待による頭部外傷に関する共同声明』を紹介します」 (下線は引用者) との一文についても訂正をいただきたかったところですが(当プロジェクトは、AHT共同声明について繰り返し述べています)、その点は措きましょう。その代わりという訳ではないのでしょうが、「補遣」の2点目として、「アメリカ連邦地方裁判所ニューメキシコ地区判決(ママ)」(下線は引用者)について、詳しく言及しておられます。調べて見ると、酒井元検事長が指摘されるように、2019年12月5日にニューメキシコ州の連邦地裁の裁判官が、弁護側専門家証人について意見を述べるとともに、これを証拠から排除する決定(Memorandum opinion and order on the United States’ motion in Limine for Daubert ruling regarding the admissible and scope of defendant’s proposed expert testimony/The United States District Court for the District of New Mexico No. 1:14-cr-3762-WJ)をしていたようです(以下、この決定を「NM排除決定」とします)。アメリカのSBS仮説に基づく啓蒙団体「The National Center on Shaken Baby Syndrome」のホームページに掲載されていました。酒井論文2に接するまで、このNM排除決定のことは知りませんでしたので、このような情報を提供いただけることはありがたいことです。ただ、気をつけなければならないのは、アメリカの裁判例では、逆にSBS仮説こそが、ドーバート基準を充足していないという判断が、これまで複数出されていることです。酒井論文2だけを読むと、あたかもNM排除決定の判断が、アメリカでの裁判の趨勢であるかのように思われるかもしれませんが、決してそうではないのです。少し詳しく見てみましょう。

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小児科医は生体工学を語れるか?-根拠に基づいた議論であればこそ(酒井邦彦元高検検事長の論文について(3))

「怒りでコントロールができない状態ですから、リミッターは外れた状態になってます。無我夢中で(赤ちゃんを)揺さぶってるという状態になります。ですから、実際の臨床の場面では、成人女性でも立った状態で揺さぶって、頭の中に損傷を加えてしまったという事例は一杯あります。…被害児の体重というものは、6か月のダミー人形に比べるとかなり軽いものであるということからすると、十分立った状態で揺さぶって、成人女性でも閾値を超えることは医学的にはあり得る。なおかつどこかに体を設置させて、そこに体重を支えさせた状態で揺さぶり行為を加えたんだとすると、全然あり得る話だというふうに医学的には判断されます」

ある裁判での証言です。この「証言」を読んでどのように思われたでしょうか?「実際の臨床の場面」「医学的にはあり得る」「全然あり得る」「医学的には判断される」。その言葉ぶりから、証言の主が医師であることは想像がつくでしょう。医師が、このように述べたら、「そんなものかもしれない」と思ってしまうかもしれません。しかし、少し立ち止まって考えてみて下さい。「臨床」「医学的」「全然あり得る」などと述べる根拠は何なのでしょうか?

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十分な理解の上での批判を-かみ合った議論のために(酒井邦彦元高検検事長の論文について(1))

SBS/AHTをめぐる無罪判決が相次ぐ中、これまでの私たちの発信に対し、反発するような議論も見られるようになりました。海外でも同じような傾向にあり、そのこと自体は予想されたところです。ただ、その中には、非常に影響力をお持ちの方が、私たちの議論に十分なご理解のないままとしか思えない批判をされている例も見受けられ、非常に残念に感じることがあります。誌友会という法務総合研修所関連の機関が主に検察官向けの研修用雑誌として編集している、その名も「研修」という法学誌に、「元広島高等検察庁・高松高等検察庁検事長」の肩書で、酒井邦彦弁護士が、「子ども虐待防止を巡る司法の試練と挑戦(1)(全3回)」と題する論文を寄稿されています(「研修」令和2年2月号(No.860)17頁。以下、「酒井論文」といいます)。そこでは、SBSをめぐる議論や、私たちSBS検証プロジェクトについても触れていただいているのですが、その内容も、そのような残念な論稿の1つです。この論文は、「一般社団法人日本こども虐待防止学会『子どもの虐待とネグレクト』第21巻第3号より一部加筆・修正の上、掲載」という断り書きがあることや、堅い法学雑誌であるにもかかわらず「です・ます調」で書かれていることからすると、日本子ども虐待防止学会での酒井弁護士の講演原稿か、反訳を利用されたのではないかとも推測されます。いずれにしても、虐待問題に取り組んでおられる多くの医師の方々がこの論文と同趣旨の内容を読んだり、聞かれたりした可能性が高いと思われます。その意味でも、非常に影響力が大きいと思われますので、酒井論文の問題点について、いくつかの点を触れておきたいと思います。

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【速報】連日のSBS無罪判決!東京地裁立川支部

また、今度は東京地裁立川支部で、SBS仮説に基づき赤ちゃんを揺さぶって死亡させたとして、父親が起訴された事件で無罪判決が出ました(傷害致死・裁判員裁判。求刑8年)。この事件では多くの医師が証人として証言したようです。裁判所は、これら医師の証言を慎重に検討した上で、「本件のように犯罪を証明するための直接的な証拠がなく,高度に専門的な立証を求められる傷害致死事件においては,生じた傷害結果について医学的な説明が可能かということだけではなく,本件に即していえば,被害者の年齢,事件前の被告人の暴行の有無やその態様,事件に至る事実経過,動機の有無やその合理性,事件後の被告人の言動などの諸事情を総合的に検討し,常識に照らして,被告人が犯行に及んだことが間違いないと認められるかを判断する必要がある。…本件の事実経過からは,被告人が被害児に揺さぶる暴行を加えたことをうかがわせる事情は見当たらず,被害児に暴行を加えていないと一貫して主張する被告人の供述には一応の根拠が認められることや,被害児に生じた本件各傷害の発生機序に関する検討結果を併せてみれば,結局,被告人が被害児に揺さぶる暴行を加え,その結果,本件各傷害を負ったと認めるには合理的な疑いが残ると言わざるを得ない」と判断しました。SBS仮説に依拠して、医学的な所見のみで、揺さぶりと決めつけようとしてきたこれまでの訴追・立証の在り方に、強い警鐘を鳴らしたと言えるでしょう。それにしても、99.9%有罪と言われてきた日本において、これだけ無罪判決が続くことは、異常というほかありません。これまで日本の検察庁は、起訴は立証が間違いない事件のみを慎重に行ってきたと述べて来たはずですが、そのような思い込みを捨てなければなりません。すでに関係機関は、SBS仮説をゼロから見直すことを義務付けられていることが明らかです。

逆転無罪のポイント・溝口史剛医師の供述変遷

揺さぶりを疑われた母親に逆転無罪判決を言い渡した大阪高裁令和2年2月6日判決(第5刑事部 西田眞基裁判長、五十嵐常之裁判官、伊藤寛樹裁判官)は、検察側証人であった溝口史剛医師の証言の問題点を鋭く指摘しました(同医師は、山内事件でも検察側証人でしたがその逆転無罪判決でも厳しく批判されています)。SBS事件における医師証言の信用性判断の在り方について、重要な指摘と思われますので、少し詳しく述べてみたいと思います。

こちらも注目→2月14日、日弁連(霞ヶ関・弁護士会館)のセミナー

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【速報】大阪高裁で再び逆転無罪判決!

 2020年2月6日、大阪高裁は山内事件に引き続き、生後1か月半の赤ちゃんを揺さぶって重篤な傷害を負わせたとして、一審で有罪判決を受けた母親に対し、逆転無罪判決(第5刑事部 西田眞基裁判長、五十嵐常之裁判官、伊藤寛樹裁判官)を言い渡しました。低位落下によっても、SBSとされるような症状が出るかどうかが争われた事件であり、非常に重要な意義がある判決と言えます。ちなみに、検察側の医師証人は、このブログでも再三触れ、山内事件でも証人だった溝口史剛医師です。控訴審判決では、溝口証言の信用性が明確に否定されました。詳細は、追ってご報告します。

こちらも注目! 日弁連で2月14日にセミナー

【速報】大阪高裁、一審無罪判決を維持!

2020年1月28日、大阪高裁刑事3部(岩倉広修裁判長)が、一審大阪地裁の無罪判決 (傷害致死・裁判員裁判)を支持し、検察官の控訴を棄却しました。

亡くなった事件当時1歳11か月の児童には、揺さぶり・虐待を認定する根拠とされる、いわゆる三徴候(急性硬膜下血腫、眼底出血、脳腫脹)が生じていました。裁判では、そのうち主に急性硬膜下血腫の頭部外傷の原因が、 被告人の暴行によるものと断定できるのか、あるいは事故等の他の可能性があるかということが争点となりました。

一審(大阪地裁平成30年3月14日判決)は、児童に見られた急性硬膜下血腫の原因となる架橋静脈の破綻は、「故意による打撃のほか、転倒等の事故も考えられる」との弁護側医師の証言から、「死亡結果が生じる程度の急性硬膜下血腫が偶発的事故により発生する可能性も十分にある」として、無罪を言い渡していました。今回の控訴審判決もその判断を是認したものです。

内因性で逆転無罪判決を言い渡した大阪高裁令和元年10月25日判決に引き続き、低位落下・転倒による急性硬膜下血腫発症の可能性を正面から認めた点で、重要な判断です。SBS/AHT仮説は、低位落下・転倒では、三徴候が生じないということを前提としていますが、その前提を明確に否定しました。さらに、医学的所見から暴力的な揺さぶり=虐待と認定できるとするSBS/AHT仮説による訴追そのものに、大きな疑問を投げかけ、再考を促すものと言えるでしょう。

藤原一枝医師が再び注目出版「さらわれた赤ちゃん」

これまでもこのブログでご紹介してきた藤原一枝医師が、幻冬舎から「さらわれた赤ちゃん-児童虐待冤罪被害者たちが再び我が子を抱けるまで-」を出版されました。西本博医師と共著の「赤ちゃんが頭を打ったどうしよう」に引き続き、児童相談所による親子分離の実際を、具体例で紹介されています(SBS検証プロジェクトについても触れられています)。生の事実と、脳神経外科医としての知見に裏打ちされた論述には、強い説得力があります。親子分離については、「虐待の疑いがある以上、オーバートリアージはやむを得ない」という意見が根強いと思われます。しかし、親子分離の実際を前にして、本当にそれで良いのか、一石を投じる書物です。是非ご一読ください。