Monthly Archives: 10月 2024

ロバーソン氏の事件は、他人事ではないー日本でも起こりうる冤罪の構造

死刑の執行が懸念されるロバーソン氏の事件は、決して他人事ではありません。ロバーソン氏が死刑判決を受けたのは、2002年のことでした。当時、すでにSBS仮説に対する懸念を示す見解も発表されるようになっていましたが、医学界ではSBS仮説が通説化しており、多くの医師や捜査関係者、児童保護機関が疑っていませんでした。そして、アメリカではロバーソン氏をはじめ、多くの養育者が無実の罪で刑務所に送られることになったのです。しかし、その後、低位落下や転倒といった軽微な外力や内因によって、それまでSBSに特徴的とされてきた症状が生じることが明らかとされ、SBS仮説への信頼が大きく揺らいだことは、これまでこのブログでも繰り返し述べて来たとおりです。

ロバーソン氏にとって不幸だったのは、亡くなったニッキーちゃんに生じた三徴候が肺炎・低酸素脳症といった内因だったこと、そしてロバーソン氏が自閉症スペクトラムであったために、コミュニケーションに難があった上、感情表出の乏しさから、初動でニッキーちゃんに対応した医療機関関係者らに「不審な父親」との予断が生まれてしまったことです。

このブログで報告してきた山内事件赤阪事件、さらに今西事件でも内因が原因で頭蓋内出血などの症状が発症していました。内因によってニッキーちゃんと同じ症状が出ることは明らかです。しかし、低位落下などの外力エピソードがある場合に比して、内因については、医師にもあまり意識されていません。日本では中村Ⅰ型と呼ばれる病態が数多く報告されてきたこともあり、医師の間でも比較的軽微な外力によってSBSの三徴候が生じることについては共通認識とされつつあるのですが、内因についての理解はまだまだなのです。せいぜい先天的な凝固障害が除外診断の対象とされる程度なのです。今西事件がその典型例ですが、今西事件以外にも、内因が関与したと思われる複数の案件が、SBS/AHT案件として全国の裁判で争われています。内因が深く関与したと思われるロバーソン氏の事件と同様の冤罪事件が、日本でも生まれる可能性が高いと言わざるを得ないのです。

さらに偏見による予断です。今西事件でも、捜査機関はおよそ虐待が原因とは言えないA子ちゃんの症状をあたかも今西貴大さんの虐待行為によるものだとして強引に立件しました(詳しくは、こちら)。捜査機関の狙いは、今西さんが虐待親であるかのような予断を与える印象操作だったとしか考えられませんが、この予断は現実に効果を発揮し、今西さんに対し、一審判決が懲役12年という重刑を宣告することにつながったと考えられるのです。自閉症スペクトラムが生んだロバーソン氏への予断は、日本でも決して対岸の火事とは言えないのです。

そして、一度有罪判決が確定してしまうと、その確定判決を覆すことは容易ではありません。日本では袴田事件がその象徴例です。アメリカでは、SBS/AHT事件をめぐる再審による雪冤が相次いでいますが(オハイオの例はこちら)、州毎に司法制度や運用が異なることも影響するのか、雪冤の状況は地域によって様々で、一律ではないようです。そして、再審が容易でないことは、日本と共通しています(もっとも、テキサス州では2024年10月9日に、1997年に起こったSBS事件への再審が認められています)。ロバーソン氏の場合は、アメリカのイノセンスプロジェクトをはじめ冤罪問題に取り組む多数の団体が、SBS仮説の非科学性を主張しつつ、ロバーソン氏の救済のために活動を続け、CNN、NBC、CBS、BBCなど大手メディアも取り上げましたが、死刑存置のテキサス州で死刑執行の寸前まで進んでしまったのです。袴田事件でも日本の検察は、袴田巌さんの有罪・死刑判決にこだわり、再審無罪判決後も検事総長が不満を表明し、反省の姿勢は一切ありません。このような検察のもとで、日本では死刑が存置され、再審法も不備なままです。ロバーソン氏の冤罪の構造は、そのまま日本にも当てはまっているのです。ロバーソン事件は、全く他人事ではないのです。

SBS仮説で死刑判決 執行の90分前に延期 テキサス州知事等に事件の見直しを求める申入れをしました

SBS検証プロジェクトは2024年10月18日に、テキサス州でSBS仮説により死刑を言い渡され、執行日が設定されていたロバート・ロバーソン(Robert Roberson)氏の執行を停止し、事件について見直すよう、テキサス州知事等に申し入れを行いました

ロバーソン氏は2002年に2歳の娘を揺さぶって殺害したとして、翌年、陪審裁判により死刑判決を言い渡されました。しかし、その後、女児が肺炎を発症していたことと、ベッドからの落下によって脳が低酸素状態に陥って症状を来したことが明らかになりました。

ロバーソン氏は、娘が病院に救急搬送された際、感情の起伏が見られないとして疑いをかけられたという事情もありました。それは氏自身の自閉症によるものであったことも判明しています。*詳細は、Innocence Projectによる記事を参照。

本件がえん罪であるとの様々な指摘に関わらず、テキサス州の裁判所はロバーソン氏の死刑判決の執行日を2024年10月17日に設定しました。

その後、SBS仮説による全米初の死刑執行を止めるために、裁判所、恩赦委員会や州知事、州議会に対する執行差し止めや再審理の申立てが行われました。最終的に、執行時間の90分前に、州の下院によってロバーソン氏の議会への召喚が申し立てられ、州裁判所がこれを認めたことにより、執行はいったん延期されました。

10月21日に下院の刑事司法委員会での聴聞が開かれることになっています。この委員会は、ジャンク・サイエンスに関連してテキサス州法を修正する必要があるかに関わるもので、このような形で執行を延期させるという方法は、今まで行われたことがありませんでした。今後、裁判所が再び、ロバーソン氏の執行を行うのか、あるいは事件を見直すのかを判断することになります。 *出典:Texas Lawmakers Did Something Unprecedented to Save an Innocent Man’s Life

本件は、いまだ予断を許さない状況にあります。

SBS検証プロジェクトは、10月18日に、テキサス州知事、テキサス州恩赦委員会、そして刑事司法委員会のメンバーに対して、本件の死刑執行を停止し、事件を見直すよう求める申し入れを行いました。ロバーソン氏の死刑執行が停止され、再審理によって有罪判決の見直しが行われることを求めます。

今西事件シンポジウム開催![2024年11月7日]

2024年11月7日18時より、JR大阪駅付近で今西事件の判決直前シンポジウムを開催します!

8月同様、企画運営はイノセンス・プロジェクト・ジャパンの学生ボランティア達です。SBS検証プロジェクトも共催しております。

参加無料、お申込みはこちらからお願いします!

11月28日の控訴審判決直前に、事件の全体像を振り返ります。是非お越しくださいませ!

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今西事件シンポジウム 
――今西貴大さんが経験してきたこと、私たちが取り組んできたこと――

■日時 2024年11月7日木曜日 18時~20時(開場17時45分)
■場所 AP大阪駅前内 APホールII
〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田1-12-1 東京建物梅田ビルB1F
*JR大阪駅から徒歩2分
*アクセスはこちら→ https://goo.gl/maps/Q5nPzUEXaNLgPs9G6

■要お申込み、参加無料
お申込み、お問合せはこちらから→ https://x.gd/w6vd2

■プログラム
1.はじめの挨拶
2.IPJ/IPJ学生ボランティアの活動内容について
3.今西事件の概要
4.対談
 川﨑拓也氏(弁護団主任弁護人、IPJ理事)
 今西貴大氏
 コーディネート 赤澤竜也氏(ジャーナリスト)
5.IPJ学生ボランティアと今西事件
6. 支援者からの挨拶
 菅家英昭氏(今西貴大さんを支援する会代表)など
7.弁護団から支援のお願いと御礼
 川﨑拓也氏、秋田真志氏、西川満喜氏、湯浅彩香氏、川﨑英明氏
8.ご挨拶:今西貴大氏
9.おわりの挨拶

■シンポジウムの趣旨
 本シンポジウムは、今西貴大さんが経験してきたことや今西さんご自身のお人柄について、より多くの皆さんに伝えるため、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の学生ボランティアが企画しました。IPJ学生ボランティアは、えん罪事件について勉強しており、えん罪の問題を広く知っていただくためにイベントを企画するなどの活動をしています。今西事件について、本シンポジウムの他、中高生や一般市民に事件について知ってもらうためのワークショップを開催するなどしました。
 また、今西さんとの面会を、勾留されていた時から保釈された現在も数多く行っています。これを機に私たちIPJ学生ボランティアの取り組みについても知っていただければ幸いです。

『ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族~検証・揺さぶられっ子症候群』がベネチアテレビ賞ドキュメンタリー部門で入賞

 「ふたつの正義」「裁かれる正義」に続く“検証・揺さぶられっ子症候群”シリーズ第三弾、「引き裂かれる家族」(関西テレビ2023年7月7日放送、ディレクター上田大輔)がベネチアテレビ賞ドキュメンタリー部門で入賞したとのことです。
 このドキュメンタリーは、息子さんへの虐待を疑われた赤阪さんと家族が引き離された年月を、5年半におよぶ密着取材で追ったものです。

 すでに数々の賞(第61回 ギャラクシー賞 テレビ部門選奨、貧困ジャーナリズム賞、第15回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル コンペティション部門・大賞、第4回 調査報道大賞 映像部門で奨励賞、2024年日本民間放送連盟賞 番組部門 テレビ報道 優秀賞)を受けているこのドキュメンタリーが、国際的にも高い評価を得たことになります。
 選考理由では、本作が冤罪が引き起こす精神的にも法的にも重大な影響を明らかにしたものであるとの指摘がなされています(「関西テレビからのお知らせ」より)。

 SBS/AHT仮説により、虐待を疑われた保護者とその家族は、かけがえのない日々を奪われてきました。現在、関テレNEWSで配信中とのこと、ぜひご視聴ください。

 また、NHK WORLD JAPANのサイトでは、英語字幕をつけたものをご覧いただけます。
A Family Torn Apart: Reexamining Shaken Baby Syndrome

「ふたつの正義」「裁かれる正義」に続く“検証・揺さぶられっ子症候群”シリーズ第三弾

今西事件、8月シンポジウムは大成功!次は判決直前シンポジウムです!

 8月28日に、今西事件シンポジウムを開催しました。このシンポジウムは、今西事件がどのような事件で、なぜえん罪が疑われているのかをより多くの人に知ってもらうために、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の学生ボランティアが共同で企画運営しました。SBS検証プロジェクトは、共催として参加しました。
 当日会場には80名以上が集まりました。今西弁護団と学生のパネルディスカッションの後には、オンラインで参加された今西貴大さんと今西さんのお母さんからもオンラインでメッセージをいただきました。シンポジウムを担った学生ボランティアの感想など、こちらからお読みいただけます。

 次回は、11月7日18時より大阪駅付近で判決直前シンポジウムを開催します。8月同様に企画運営はIPJの学生ボランティア達、SBS検証プロジェクトも共催として参加します。ぜひ、下記から参加のお申し込みをお願いします。

今西事件シンポジウム 
――今西貴大さんが経験してきたこと、私たちが取り組んできたこと――

■日時 2024年11月7日木曜日 18時~20時(開場17時45分)
■場所 AP大阪駅前内 APホールII
〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田1-12-1 東京建物梅田ビルB1F
*JR大阪駅から徒歩2分
*アクセスはこちら→ https://goo.gl/maps/Q5nPzUEXaNLgPs9G6

■要お申込み、参加無料
お申込み、お問合せはこちらから→ https://x.gd/w6vd2

■プログラム
1.はじめの挨拶
2.IPJ/IPJ学生ボランティアの活動内容について
3.今西事件の概要
4.対談
 川﨑拓也氏(弁護団主任弁護人、IPJ理事)
 今西貴大氏
 コーディネート 赤澤竜也氏(ジャーナリスト)
5.IPJ学生ボランティアと今西事件
6. 支援者からの挨拶
 菅家英昭氏(今西貴大さんを支援する会代表)など
7.弁護団から支援のお願いと御礼
 川﨑拓也氏、秋田真志氏、西川満喜氏、湯浅彩香氏、川﨑英明氏
8.ご挨拶:今西貴大氏
9.おわりの挨拶

■シンポジウムの趣旨
 本シンポジウムは、今西貴大さんが経験してきたことや今西さんご自身のお人柄について、より多くの皆さんに伝えるため、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の学生ボランティアが企画しました。IPJ学生ボランティアは、えん罪事件について勉強しており、えん罪の問題を広く知っていただくためにイベントを企画するなどの活動をしています。今西事件について、本シンポジウムの他、中高生や一般市民に事件について知ってもらうためのワークショップを開催するなどしました。
 また、今西さんとの面会を、勾留されていた時から保釈された現在も数多く行っています。これを機に私たちIPJ学生ボランティアの取り組みについても知っていただければ幸いです。

■今西事件とは?
 今西事件とは、今西貴大さんが2歳の長女に対して自宅で何らかの暴行を加え、死なせたなどとして起訴され、第一審が懲役12年を言い渡した事件です。今西さんは一貫して無実を主張しており、大阪高裁で控訴審が行われています。
 今西さんは約5年半もの間大阪拘置所に身体拘束されていましたが、5月に控訴審が結審した後、7月26日に保釈が決定しました。11月28日には、大阪高裁で判決の予定です。