大阪高裁が2019年10月25日に言い渡した、山内泰子さんに対する逆転無罪判決について、大阪高検が、上告を断念する旨を正式に発表しました。
この3年間に、山内さんやそのご家族が味わった苦しみからすれば、決して手放しで喜べません。しかし、この判決の確定が、SBS仮説の見直しにつながり、冤罪や誤った親子分離を生まないきっかけとなることを期待したいと思います。
大阪高裁が2019年10月25日に言い渡した、山内泰子さんに対する逆転無罪判決について、大阪高検が、上告を断念する旨を正式に発表しました。
この3年間に、山内さんやそのご家族が味わった苦しみからすれば、決して手放しで喜べません。しかし、この判決の確定が、SBS仮説の見直しにつながり、冤罪や誤った親子分離を生まないきっかけとなることを期待したいと思います。
2019年11月4日、カンテレ「報道ランナー」で、「乳児虐待捜査」の”恐ろしさ”…気が付けば「無実の人」が有罪に 孫への”揺さぶり”疑われた祖母に『逆転無罪』と題する特集が報道されました。配信記事をこちらからご覧いただけます(2019年11月5日現在)。
また、ドキュメンタリー「ザ・ドキュメント 裁かれる正義 検証・揺さぶられっ子症候群」が11月11日深夜1:55~2:57に放送予定です。放送エリアは近畿2府4県と徳島県と限られていますが、視聴可能な方は、ぜひご覧ください。
ディレクターを務めた上田大輔さんは、精力的にSBS問題を取材されています。SBS検証プロジェクトについても語ってくださった龍谷大学犯罪学研究センターの記事はこちら→【犯罪学研究センター/科学鑑定ユニット対談】SBS検証プロジェクト 報道記者インタビュー
The Osaka High Court (Chief Judge: Hiroaki Murayama), on 25th October 2019 handed down a not-guilty judgment for a grandmother who was convicted in 2017 for shaking her granddaughter to death. She had always maintained her innocence.
The incident occurred in April 2016. Ms. Yasuko Yamauchi was looking after her two granddaughters at her daughter’s home when the younger granddaughter (2 months old) collapsed. The baby died three months later. Ms. Yamauchi was prosecuted for shaking her granddaughter (or applying some kind of external force to the baby’s head) and injuring her which resulted in her death. The prosecution based their case on the opinions of doctors who alleged it was shaken baby syndrome (SBS).
The district court, based on the doctors’ opinions and testimonies and the “triad” of symptoms, sentenced her to 5 years and 6 months in prison with labor. She appealed the decision.
The attorneys who are also members of the SBS Review Project took the case at the high court. With much research, the defense team found out that the baby had CVST and DIC, a condition in which a blood clot develops in the brain. They did so with a help of two neurosurgeons who also testified for the defendant at the high court.
The high court found factual error in the district court’s decision and reversed, declaring that Ms. Yamauchi is not guilty. The court found that there is a reasonable possibility that the baby’s symptoms were caused by CVST and DIC.
The high court also touched upon the problematic features of fact-finding based on the SBS hypothesis:
This case shows the danger of fact-finding based on the SBS theory. If the SBS theory is simply applied, it would be a cause for a mechanical and stereotypical fact finding, which leads to factual error. (*translated and summarized by author)
The court also looked at the circumstances surrounding the defendant and the victim. The court found that Ms. Yamauchi is not at all a violent person and had no stress in looking after the children. When the circumstances surrounding Ms. Yamauchi and the incident was taken into consideration, the court found no motive for Ms. Yamauchi to hurt the child.
This court finds it not realistic to think the defendant would shake the baby as such. Considering the defendant’s age and body shape, body strength, defendant’s personal circumstances and the circumstance of the incident, it is unnatural to think that the defendant would shake the baby as alleged.
Considering the above factors, there is significant doubt that the defendant had shaken or applied some kind of violence to the baby as charged. (*translated and summarized by author)
It also pointed out the problems of the fact-finding process of the district court.
The district court had premised that the baby’s symptoms must have caused by external force. With this in mind, the district court, by using process of elimination, concluded that the defendant must have been the perpetrator. This kind of fact-finding is generally accepted. However, in this case, this process of elimination is very problematic: facts or opinions which on their face have sufficient grounds might be wrong. The process of elimination, other than in some cases, can lead to conclude that someone is the perpetrator even if there is no evidence or facts pointing him/her as the such. When these two logics are combined and especially in cases where it is disputed whether the defendant is the perpetrator or not, even though the real issue not properly reviewed was whether the incident was a crime or not, the rebuttal from the defendant will not function and the finding of guilt becomes unavoidable. This is a cause for a grave problem in fact-finding in a criminal trial. (*translated and summarized by author)
Masashi Akita, one of the attorneys for Ms. Yamauchi and co-founder/ co-director of SBS Review Project, commented:
“This ruling also covered the manner of deciding cases that concludes abuse was involved based solely on medical observations. There will be a need for a fundamental review of how investigative organs and child consultation centers deal with such cases.” (Grandma cleared of conviction for shaken baby syndrome death, Asahi Shimbun Newspapers, 26 October, 2019.)
無罪判決が出たと聞き、本当に嬉しく安堵しました。山内さんご自身はもちろん、いつも傍聴にいらしていた娘さん達にとって、待ち焦がれた判決だったと思います。長期に渡る理不尽な苦しみからようやく解放されたことに対して、この言葉がふさわしいのか分かりませんが、「おめでとうございます」という以外に言葉がありません。
SBS仮説は、海外ではいまやジャンクサイエンスとも呼ばれています。その仮説に基づいた検察側の主張に対して、弁護人の皆さんが力を注ぎ、精緻な弁論を展開するのを見てきたので、無罪判決が出ることを確信していました。それだけに、このケースがそもそも刑事事件になったことが不合理であったと思わざるをえません。どうしてこのようなえん罪が生まれてしまったのでしょうか。そこには、個人の問題だけではなく、構造的な問題もあるでしょう。経緯と原因を明らかにする事、それを様々な分野(法律、医療、福祉、政治)で共有する事が早急に求められると思います。
2019年10月25日大阪高裁第6刑事部(村山浩昭裁判長、畑口泰成裁判官、宇田美穂裁判官)は、生後2か月の孫を揺さぶるなどして死亡させたとして、一審で懲役5年6月の実刑判決を受けていた祖母山内泰子さんに、逆転無罪判決を言い渡しました。
判決では、一審に引き続いて控訴審でも検察側証人に立った溝口史剛医師の証言に詳細な検討を加え、その証言内容に強い疑問を投げかけました。その上で、以下のように述べたのです(一部、わかりやすいように表現を変更しています)。
「本件では、SBSに特徴的とされる、 ①硬膜下血腫、 ② 脳浮腫、 ③ 眼底出血の3徴候につき、 ①架橋静脈の断裂により通常生じるとされる硬膜下血腫はその存在を確定できないし、②脳浮腫及び③眼底出血については、その徴候を認めるとしても、別原因を考え得ることが明らかになった(眼底出血については、多発性ではあるが、多層性であると認めるだけの証拠はない。)。そして、本件は、一面で、SBS理論による事実認定の危うさを示してもおり、SBS理論を単純に適用すると、極めて機械的、画一的な事実認定を招き、結論として、事実を誤認するおそれを生じさせかねないものである。」
「本件は、客観的な事情から、被害児の症状が外力によるものとすることもできないし、被告人と被害児の関係、経緯、体力等といった事情から、被告人が被害児に暴行を加えると推認できるような事情もない。むしろ、医学的視点以外からの考察では、被告人が被害児に暴行を加えることを一般的には想定し難い事件であったといえる。それにもかかわらず、被告人が有罪とされ、しかも、経緯において同情し得る事情がないとして、懲役5年6月という相当に重い刑に処せられたのは、原判決が、当事者の意見を踏まえてのことではあるが、被害児の症状が外力によるものであるとの前提で、いわゆる消去法的に犯人を特定する認定方法をとったからにほかならない。このような認定方法が、一般的な認定方法として承認されていることは事実である。しかし、本件をみると、そこには、一見客観的に十分な基礎を有しているようにみえる事柄・見解であっても、誤る危険が内在していること、消去法的な認定は、一定の条件を除けば、その被告人が犯人であることを示す積極的な証拠や事実が認められなくても、犯人として特定してしまうという手法であること、さらには、その両者が単純に結びつくと、とりわけ、事件性が問題となる事案であるのに、その点につき十分検討するだけの審理がなされず、犯人性だけが問題とされると、被告人側の反証はほぼ実効性のないものと化し、有罪認定が避け難いこと、といった、刑事裁判の事実認定上極めて重大な問題を提起しているように思われる。」
SBS仮説の危険性を、的確に指摘しています。これまでSBS仮説に依拠して訴追・有罪判決や親子分離をしてきた関係機関に、根本的な反省を迫る内容と言えます。この判決が、日本におけるSBS仮説の見直しのために、今後の指針となることを期待したいと思います。
フランスでも近時、SBS関連の無罪事件が相次いでいるようです。2019年3月4日、レンヌで”Adikia association” https://adikia.fr/2019/03/vanessa-relaxee/ (フランス語のサイトです)というフランスのSBSえん罪被害者家族会の会長であるヴァネッサさんに無罪判決が言い渡されました。さらに5月30日には、SBS仮説に基づいて、一審で懲役8年の有罪判決を言い渡されていた父親に対し、ルーアン高等裁判所で、逆転無罪判決が出されました。これらの判決は、国際的にも重要な意義を持つと思われます。実は、フランスは、SBSを主導する意見が非常に強い国だったのです。スウェーデン政府機関SBUの報告書でも、中程度の質のエビデンス(証拠)があるとされた論文がふたつあると指摘されましたが、それはいずれもフランスの研究でした(Vinchon とAdamsbaum。これらの研究は、揺さぶりの自白を重視したものです)。いわばSBS仮説のリーダー的な国でも無罪が相次いだのです。では、無罪となった2つの事件は、どのようなものだったのでしょうか。
2018年及び2019年開催のSBS国際シンポジウムを主催した龍谷大学犯罪学研究センターのHPに、秋田・笹倉両共同代表のインタビューが掲載されました。
「日本における揺さぶられっこ症候群問題のこれまでとこれから」
SBS問題に取り組む事になったきっかけを始め、これまでの歩み・今後の課題と展望が語られています。お二人の専門家としての矜持と情熱がプロジェクトを牽引し、さらに、メンバーが各々の専門性を生かして推進力となっていることが感じられる良い記事になっています。
ぜひ、お読みください。
これまでもお伝えしてきたように、海外ではSBS/AHTに疑問を呈する裁判例が相次いでいます。このことについて疑義を挟む意見もあるようなので、当プロジェクトで把握できた2018年以降のSBS/AHTに疑問を呈する海外裁判例20件の一覧表を作成しました。ご参照ください。
以前このブログでもご紹介したSBSを扱ったドキュメンタリー「ふたつの正義~検証・揺さぶられっ子症候群~」(第27回FNSドキュメンタリー大賞受賞作)が、BSフジテレビ(衛星放送-更新前まで、誤ってフジテレビ系列と記述しておりました。お詫び申し上げます)で再放送されます。5月5日深夜、6日未明午前3時という時間帯ですが、是非ご覧ください。↓