Category Archives: 未分類

大阪地裁無罪判決確定!AHT鑑別診断のテキサス証拠排除決定との共通点

2020年12月4日に大阪地裁で言い渡されたSBS無罪判決(以下、「大阪地裁判決」)に対し、検察官は期限までに控訴せず、母親の無罪が確定しました。大阪地裁判決では、赤ちゃんに慢性硬膜下血腫という既往症があり、軽微な外力でも架橋静脈の破綻が生じ易い状態であったことが認定されています。検察官の控訴断念は当然の結論と思われますが、そもそも、このような事例で訴追にこだわった捜査機関や、その訴追の根拠になった医学的意見を述べた医師の方々には、自らの判断について十分な検証をしていただく必要があります。このブログでも、判決から窺える本件の問題点を検証したいと考えていましたが、ちょうど時を同じくして、アメリカ・テキサス州でも本件と共通する問題点を指摘する裁判(2020年12月7日テキサス州トラヴィス郡第167地裁における専門家証言の排除を求める弁護人異議に対する決定=IN THE 167TH JUDICIAL DISTRICT COURT OF TRAVIS COUNTY, TEXAS NO. D-1-DC- 17-100160 STATE OF TEXAS vs. NICHOLAS BLOUNT  FINDINGS OF FACT AND CONCLUSIONS OF LAW REGARDING DEFENDANT’S MOTION. EXCLUDE EXPERT TESTIMONY。以下「テキサス決定」)が出されていました。内外の2つの裁判は、虐待認定の在り方について、重要な問題提起をしていると思われます。以前にこのブログで触れた日本小児科学会の見解にもかかわる問題です。少し詳しく検討してみたいと思います。

Continue reading →

笹倉共同代表、イノセンス・ムーブメントで語る

日本時間12月9日午前9時半よりオンラインで開催された、「アジアと米国におけるイノセンス・ムーブメント(Trends in the Innocence Movement in Asia and the U.S.)」(主催:U.S.-Asia Law Institute)にて、本プロジェクトの共同代表である笹倉香奈教授が日本の無罪事件をめぐる最近の動向について報告しました。

イベントには、中国、日本、台湾、米国の専門家が集まり、まずは冤罪防止にむけた各地域の近年の取り組みについての情報交換から始まりました。笹倉共同代表は、日本における最新のSBS/AHT事案の動向、特に無罪事案の多さを述べた上で、SBS検証プロジェクトがどのような役割を果たしてきたのかを簡潔明瞭に報告し、網羅的な活動が成果を上げていることに参加者からは称賛の声が上がりました。

このイベントが特に議題として掲げていたのは、刑事裁判の証拠からジャンク・サイエンスを排除することの重要性です。笹倉共同代表の報告は、まさにこの課題に関わるものだったと言えます。

イベントの記録は後日、U.S.-Asia Law InstituteのHPにて公開されるとのことです。私たちが海外の研究者・実務家との交流に学び、力づけられてきたように、SBS検証プロジェクトの経験が有用な知見として共有されていくことを誇らしく感じました。

大阪地裁で無罪判決

またSBS事件で無罪判決が言い渡されました。

大阪地方裁判所は、生後4ヶ月の長男を揺さぶって怪我をさせたとされた女性の事件について、2020年12月4日に無罪を言い渡しました。

男児は急変当時、託児所に預けられていました。その後、急性硬膜下血腫や眼底出血が発見されたことから、母親が男児を揺さぶって虐待したとされたのです。育児ストレスが動機であると主張されました。

これに対して弁護人は、男児の頭蓋内に古い硬膜下血腫が広範囲に存在しており、軽微な外力でもそこから出血した可能性があると主張しました。母親が男児を託児所に預けに行くときに抱っこひもで抱えて自転車に乗ったときに揺れた可能性があることも指摘されました。

裁判所は、女性に「暴行があったと認めるには合理的疑いが残る」として無罪を言い渡しました。

女性は、虐待と診断した医師の意見にもとづいて起訴されました。事件から三年半が経過し、ようやく無罪判決が言い渡されましたが、女性はいまだに長男と一緒に暮らすことができていません。

本件につき、関西テレビの記事を是非お読み下さい。

AHT事案、東京高裁でも逆転無罪判決!

2020年11月5日、東京高裁第10刑事部(裁判長裁判官細田啓介、裁判官伊藤敏孝、裁判官安永健次)は、公園で事件当時7歳の男児を投げつけるなどの暴行を加えて、急性硬膜下血腫、脳浮腫等の傷害(いわゆる虐待性頭部外傷=Abusive Head Injury「AHT」)を負わせたとして、第一審で懲役3年の実刑判決(東京地裁立川支部2019年12月3日判決)を受けていた男性に対し、AHTについて逆転無罪判決を言い渡しました。この事例でも、岐阜地裁の例と同様に検察側証人として山田不二子医師ほか1名の医師が証言し、弁護側証人として、青木信彦医師が証言しました。そして、高裁判決は、青木医師の証言を前提に、”①「 典型的にはつかまり立ちを始めたばかりの乳幼児が後ろに転倒して後頭部を打って重篤な硬膜下血腫となる『中村1型』と呼ばれる類型と同様のメカニズムが、5~6 歳の児童に生じた例がある上、A(被害児)は頭蓋骨と脳実質との隙間が大きいことが否定できず、架橋静脈の破断につながる脳の偏位が起きやすい可能性がある」という趣旨の専門家証言があり、Aの頭部に強い回転性加速度減速度運動を伴う外力が加わらなくとも本件の結果がもたらされたという疑いが生じる。本件はそうではないという立証はなく.この疑いは合理的なものとして残る。また②犯行時間とされる時間帯以前に、何らかの原因によりAの架橋静脈が破断しやすい状況が作出されており、犯行時間帯にAの頭部に強い回転性加速度減速度運動を伴う外力が加わらなくとも本件の結果がもたらされた可能性もある。こちらについてもそうではないという立証があるとはいえず、この疑いは合理的なものとして残る。したがって,被告人が故意にAに対して暴行を加えたという原判決の上記認定は前提を欠き、Aの頭部に何らかの力が加わった態様も不明であるから、被告人の過失も認定できない。”と判断したのです。低位落下や転倒のほか、内因性でも頭蓋内出血を生じうること、さらにそれらの症例が一定の割合で重篤化してしまうことは、繰り返し指摘されてきたとおりです。

 医学的所見からの虐待認定には、慎重な判断が求められていることを示しているといえます。

本日の朝日新聞記事

本日の朝日新聞朝刊に、「無罪判決相次ぐ『揺さぶられ症候群』初の実態調査へ」(1面)、「『揺さぶり』難しい事実証明 多角的な検証体制求める声」(3面、いずれもリンク先は会員限定記事です)という2つの記事が掲載されました。

厚労省の『手引き』改訂に向けた動きが進んでいること、SBSの対応の見直しと、その前提となる実態調査が今後行われる予定であることが紹介されています。本記事は、虐待を疑われ1年7か月に渡って子どもと引き離され、自身も逮捕されてしまった女性の経験についても取りあげています。

家庭内で子どもが怪我をしたときには事実の証明が難しいことから、多角的な検証体制が必要です。記事では、医学的論争を整理し対応を議論しなければならないという虐待対応現場の声とともに、三徴候による判断は誤る可能性があるという研究が多くあるので慎重に判断しなければならない、小児科医や脳神経外科医などの異なる専門領域の医師が意見を交わして検証する体制が必要である、との法医学者の意見が紹介されています(ただし、法医学者のコメントはデジタル版のみに掲載)。

1週間前の同紙の別の記事「赤ちゃん、泣きやまない時」については、本ブログでも2回にわたって指摘したような様々な問題点がありましたが、本日の記事は議論や問題の状況を客観的にとらえたものでした。指摘されているとおり、冷静で多角的な議論が進められることを願っています。

朝日新聞フォーラム「赤ちゃん泣きやまない時」の何が問題か

朝日新聞2020年7月19日版(大阪本社)に「フォーラム・赤ちゃん泣きやまない時」というオピニオン欄一面を使った記事(以下、「フォーラム記事」)が掲載されました。その記事内容には、正直なところ驚かされました。いわゆるSBS/AHT仮説を主導してこられた医師4名の顔写真付きのコメントが並び、そのご主張が全面展開されていたのです。確かに、私自身は、朝日新聞社にも編集権があり、そのような立場の方の意見だけが掲載されることは、それだけで不公平だとは思っていません(もっとも、私もこれまで様々な形で報道被害に遭われた方を数多く知っており、このようなことを書くと、甘いとご批判を受けるかもしれません)。また、記事やそのコメントの中には、私たちが行ってきた批判を意識した部分も見られ、直ちに一方的な記事とは言えないと思います。しかし、これらの記事やコメントの内容は、相当問題だと言わざるを得ません。いくつか例を挙げましょう。

 まず、NPO法人チャイルドファーストジャパンの山田不二子理事長のコメントです。

Continue reading →