医学専門的な話になってしまいますが、SBSをめぐる刑事裁判で、「暴力的な揺さぶりがあった」と決めつけようとする検察側証人の医師は、三徴候の一つとされる「脳浮腫」の原因について、「揺さぶりによって、びまん性軸索損傷が生じたのだと推定する」と強調します。
「びまん性軸索損傷」というのは、簡単に言うと、脳の中の広い範囲で(医学的にはそのような場合を「びまん」といいます)、神経が切れてしまうことです。もし、虐待によって、このようなびまん性軸索損傷が起こったとするのであれば、それは大変なことです。
しかし、「揺さぶりによって、びまん性軸索損傷が生じる」という根拠は示されません。「どの程度の揺さぶりによってびまん性軸索損傷が生じるのか」「そもそも揺さぶりによってびまん性軸索損傷は生じるのか」について、何の医学的データもないのです。逆に、イギリスの神経病理医であるゲッデス医師は、脳浮腫を生じた乳児の死亡例を数多く解剖した結果、びまん性軸索損傷はほとんど起こっていないこと、脳浮腫の多くは、低酸素脳症によるものであることを確認しました。