本日、大阪地裁にて、画期的な判決が言い渡されました。
2018年、過失により頭部に怪我を負った生後1ヶ月の赤ちゃんについて、虐待の疑いがあるとして児童相談所は一時保護を行いました。その後、児童相談所が保護の延長を求めた際に、家庭裁判所が一時保護の解除に向けた検討を求めたにも関わらず、児童相談所はただ親子を引き離し続け、かつ母親が赤ちゃんに面会することも認めなかったのです。この赤ちゃんが自宅に戻ってくるまでに、実に8ヶ月がかかりました。
児童相談所は、この措置が合理的な判断に基づくものであったと主張していました。しかし裁判所は、一時保護の延長と面会の制限は違法であったとして、大阪府に賠償を命じました。
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裁判長は、違法な一時保護によって「母子の愛着形成の機会」が奪われたと述べています。さらに、このことを「かけがえのない時間」の喪失であったと評価しました。また、原告となった母親は判決後の記者会見で、自己が奪われたものよりも、赤ちゃんが奪われたものの大きさを嘆いていました。ここで失われたもの、奪われたものは権利です。不当な一時保護により、児童と保護者の権利が侵害されたのです。
ーー虐待の兆候が全くない母親が、なぜ生後わずかな赤ちゃんと長期にわたって引き離されてしまったのか。この問題を、一つの児童相談所やその職員の判断ミスとして矮小化するべきではありません。
児童福祉行政の人的・物的資源の不足はもちろんですが、虐待ありきの判断枠組みを後押しするような杜撰な鑑定が存在すること、厚労省「虐待対応の手引き」にSBSについて不正確な記述が残っていることについては、早急な見直しがここ数年求められてきました。本ブログでもたびたび紹介してきたように、誤認保護や過剰保護の存在がようやく明らかになったためです。
しかし、いまだ根本的な見直しはなされていません。それどころか、児童福祉法の改正によって新たに導入される司法審査制度(一時保護開始時)は、現状を悪化させる危険があります。
提案されている制度においては、児童相談所が書面によって一時保護状を裁判所に請求し、裁判所は児童の意見も保護者の意見も直接に聴取することなく、判断を下します。これでは、誤った虐待判断による権利侵害は防げないどころか、そこに司法のお墨付きを与えることになりそうです。また、裁判所の判断に対してすぐに不服申立てができるのは、児童相談所側のみです。児童相談所の業務が今よりも増えることも間違いなく、また、期待されていたはずの保護者側との対立解消も期待できません。
改正法が成立して施行されるまでに、まだ時間があります。行うべき一時保護を怠った場合、子どもの権利は侵害されます。同様に、行うべきではない一時保護を行った場合も、子どもの権利は侵害されるのです。少しでも適正な一時保護制度にするために、当事者や実務者の意見を取り入れる機会が不可欠です。
家裁の“忠告”無視した児童相談所の一時保護継続は「違法」 大阪地裁で異例の判決 面会制限の違法性も認める
これまでの議論や、司法審査と子どもの権利条約との関係については、以下の記事もご覧下さい。ここで示された懸念が現実のものとなりつつあります。 一時保護開始時の「司法審査」 拙速な議論を懸念します