一時保護開始時の「司法審査」 拙速な議論を懸念します

 厚生労働省・子ども家庭局による「児童相談所における一時保護の手続等の在り方に関する検討会」(以下、一時保護検討会という)は、2021年4月に「とりまとめ」を公表し、その中で「一時保護は、一時的とはいえ、子どもを保護者から引き離すものであり、子どもの権利の制限であるとともに、親権の行使等に対する制限でもあるため、こうした点を踏まえると、児童相談所による一時保護に関する判断の適正性の担保や手続の透明性の確保を図る必要がある」として、児童の権利に関する条約第9条や国連児童の権利委員会による総括所見を引きながら、「独立性・中立性・公平性を有する司法機関が一時保護の開始の判断について審査する新たな制度」を「できる限り早期に…実現すべき」であると結論付けました。

 一時保護が親や子どもの権利制限を行うものであることに鑑み、一時保護の開始時にあっても、司法審査を導入し、一時保護判断の適正性と手続保障を確保しようとしたものでした。

 その後、厚労省、法務省、最高裁は、この「司法審査」のあり方について協議を行っていたようで、2021年11月5日に開催された「社会保障審議会 (児童部会社会的養育専門委員会)」では、上記「とりまとめ」後に進められた「厚生労働省、法務省及び最高裁判所から成るWG」における「実証的な検討」の結果が公表されました(「一時保護時の司法審査等(案)」、以下「案」という)。

 しかし、そこで提案された一時保護開始時の「司法審査」には、以下に述べるような重大な問題があります。このまま「案」の考え方に沿って法改正に向けた議論が進んだ場合には、「とりまとめ」が指摘したような問題点を解消しない制度が作られる可能性があります。今後、拙速な議論が行われないかにつき、重大な懸念があります。

 「案」では、一時保護時の司法による審査につき、裁判官が発行する「一時保護状(仮称)」による方法が提案されました。すなわち、

(1)①虐待など緊急性が高い事案について児相が躊躇なく保護する必要があること、②裁判官の判断には一定の疎明資料を要し、その収集・整理には保護開始から一定の時間を要することから、先に一時保護をした上で、児相が事前又は一時保護開始から数日以内(WGでは、3日以内や7日以内との案が出されたようです)に裁判官に対して一時保護状(仮称)の発付を書面で請求する形を採用する

(2)裁判官は、一時保護開始時点における一時保護の適正性について児相が請求時点までに収集した資料も斟酌して審査する。審査の結果、妥当でない場合は一時保護状の発付を却下する。児相は、一時保護状(仮称)を得た場合は引き続き一時保護を実施することが可能であり、却下された場合は一時保護を解除する

というものです。

 「案」で想定されている「一時保護状」は、現在、刑事手続で被疑者の身体を拘束するときに発付される「逮捕状」をイメージして構想されているように思われます。裁判官の判断にあたって参照される資料につき、「疎明資料」の名称が使われていることや、本人等の意見表明の機会がないことなども、逮捕状が発付されるときの手続に似た側面があります。

 このような「一時保護状」の構想に対しては、「児相の判断にお墨付きを与えるだけのものになりはしないか」「裁判所が審査する判断資料としては、児相からの疎明資料のみが想定されており、保護者や子どもの意見を聴取することなどが想定されていないのは問題である」などの批判が相次いでいます。

 11月15日に開催された一時保護検討会に出席した構成員の弁護士は、「案」と「案」が出されるに至った議論のプロセスについて、次のように問題点を指摘しています。

 「刑事事件の逮捕状請求のような手続きを前提にされているが、 これだと子どもと親権者の手続き保障は図れない」「厚労省・法務省・最高裁判所の三者協議がブラックボックスになっている。(その過程が)外部から分からない。歴史的な転換点なので、きちんと説明責任を果たすべき」(一時保護検討会構成員・土井聡弁護士、引用元:関西テレビ「『拙速な導入、重大な危機』 厚労省『一時保護状』案に児相内弁護士からも異論 明石市の母親『誤認保護防ぐ仕組みを』(2021年11月17日)

 しかし、11月16日に開催された社会保障審議会の資料「骨子(案)」には、以上のような指摘や懸念を受けた修正はなく、厚労省からも回答が行われなかったようです。

 厚労省は、年内に一時保護状に関する議論を取りまとめ、次の通常国会で法案を提出したいと考えているようです。拙速な議論が行われ、「児童相談所による一時保護に関する判断の適正性の担保や手続の透明性の確保を図る必要がある」という当初の検討会の指摘を反映しない制度になってしまうことは許されません。

* 本件に関するその他の報道記事

 ・ 関西テレビ「27年放置の『条約違反』を解消へ… 児相の一時保護に司法審査 『現状より悪くなる』保護者から不安の声も」(2021年11月12日)

 ・ 日本経済新聞「『一時保護』司法審査 児相に事務負担、弁護士配置増も」〔2021年11月18日)

 


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