速報:大阪高裁で逆転無罪判決

2019年10月25日大阪高裁第6刑事部(村山浩昭裁判長、畑口泰成裁判官、宇田美穂裁判官)は、生後2か月の孫を揺さぶるなどして死亡させたとして、一審で懲役5年6月の実刑判決を受けていた祖母山内泰子さんに、逆転無罪判決を言い渡しました。

判決では、一審に引き続いて控訴審でも検察側証人に立った溝口史剛医師の証言に詳細な検討を加え、その証言内容に強い疑問を投げかけました。その上で、以下のように述べたのです(一部、わかりやすいように表現を変更しています)。

「本件では、SBSに特徴的とされる、 ①硬膜下血腫、 ② 脳浮腫、 ③ 眼底出血の3徴候につき、 ①架橋静脈の断裂により通常生じるとされる硬膜下血腫はその存在を確定できないし、②脳浮腫及び③眼底出血については、その徴候を認めるとしても、別原因を考え得ることが明らかになった(眼底出血については、多発性ではあるが、多層性であると認めるだけの証拠はない。)。そして、本件は、一面で、SBS理論による事実認定の危うさを示してもおり、SBS理論を単純に適用すると、極めて機械的、画一的な事実認定を招き、結論として、事実を誤認するおそれを生じさせかねないものである。」

「本件は、客観的な事情から、被害児の症状が外力によるものとすることもできないし、被告人と被害児の関係、経緯、体力等といった事情から、被告人が被害児に暴行を加えると推認できるような事情もない。むしろ、医学的視点以外からの考察では、被告人が被害児に暴行を加えることを一般的には想定し難い事件であったといえる。それにもかかわらず、被告人が有罪とされ、しかも、経緯において同情し得る事情がないとして、懲役5年6月という相当に重い刑に処せられたのは、原判決が、当事者の意見を踏まえてのことではあるが、被害児の症状が外力によるものであるとの前提で、いわゆる消去法的に犯人を特定する認定方法をとったからにほかならない。このような認定方法が、一般的な認定方法として承認されていることは事実である。しかし、本件をみると、そこには、一見客観的に十分な基礎を有しているようにみえる事柄・見解であっても、誤る危険が内在していること、消去法的な認定は、一定の条件を除けば、その被告人が犯人であることを示す積極的な証拠や事実が認められなくても、犯人として特定してしまうという手法であること、さらには、その両者が単純に結びつくと、とりわけ、事件性が問題となる事案であるのに、その点につき十分検討するだけの審理がなされず、犯人性だけが問題とされると、被告人側の反証はほぼ実効性のないものと化し、有罪認定が避け難いこと、といった、刑事裁判の事実認定上極めて重大な問題を提起しているように思われる。」

SBS仮説の危険性を、的確に指摘しています。これまでSBS仮説に依拠して訴追・有罪判決や親子分離をしてきた関係機関に、根本的な反省を迫る内容と言えます。この判決が、日本におけるSBS仮説の見直しのために、今後の指針となることを期待したいと思います。

9 replies on “速報:大阪高裁で逆転無罪判決”

  1. […] 主に医療関係者向けに裁判例を解説する医療判例解説2020年6月号(通巻第086号)の特集(医事法令社)として「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」が取り上げられました。笹倉香奈教授の解説「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)とその歴史」とともに、このブログでも繰り返し触れてきた大阪高裁令和元年10月25日判決と同令和2年2月6日判決の詳細な解説を加えたものです。特に、朴永銖医師(奈良県立医科大学・脳神経外科准教授)による令和2年2月6日判決についての解説は、医療従事者によるSBS無罪事件についての初めての解説だと思われます。 […]

  2. […] 主に医療関係者向けに裁判例を解説する医療判例解説2020年6月号(通巻第086号)の特集(医事法令社)として「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」が取り上げられました。笹倉香奈教授の解説「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)とその歴史」とともに、このブログでも繰り返し触れてきた大阪高裁令和元年10月25日判決と同令和2年2月6日判決の詳細な解説を加えたものです。特に、朴永銖医師(奈良県立医科大学・脳神経外科准教授)による令和2年2月6日判決についての解説(同事件での検察側医師証人の証言の問題点はこちら)は、頭部外傷の専門医によるSBS無罪事件についての初めての解説だと思われます。 […]

  3. […]  検察庁は、最近、中村Ⅰ型に対する認識を改めたようで、外力のエピソードが認められる事例での訴追には慎重になってきたようにも思えます。しかし、外力のエピソードがない事例で乳幼児に頭蓋内出血が認められる例では、なお訴追を続けています。筆者は、ここに大きな問題があると考えています。外力のエピソードがない内因でも、頭蓋内出血・眼底出血は十分に起こりうるからです。静脈洞血栓症によって頭蓋内出血・眼底出血が生じた山内事件は、その典型です。頭蓋内出血・眼底出血が見られた多くの事例で、頭部表面に目立った外力がなかったことから、「揺さぶり」が疑われるようになって生まれたのが、SBS仮説です。しかし、この揺さぶり理論そのものに大きな疑問があることは、このブログで繰り返し指摘したとおりです。本当に外力が原因と言えるのか、「揺さぶり」論の根本に立ち返って、0(ゼロ)ベースでの見直しが必要です。 […]

  4. […]  検察庁は、最近、中村Ⅰ型に対する認識を改めたようで、つかまり立ちからの転倒やソファー・ベッドからの落下など、明確な外力(衝撃)のエピソードが認められる事例での訴追には慎重になってきたようにも思えます。しかし、養育者からそのような外力(衝撃)のエピソードが語られない事例で乳幼児に頭蓋内出血が認められる例では、なお訴追を続けています。筆者は、ここに大きな問題があると考えています。外力(衝撃)のエピソードがない内因でも、頭蓋内出血・眼底出血は十分に起こりうるからです。静脈洞血栓症によって頭蓋内出血・眼底出血が生じた山内事件は、その典型です。頭蓋内出血・眼底出血が見られた多くの事例で、頭部表面に目立った外力がなかったことから、「揺さぶり」が疑われるようになって生まれたのが、SBS仮説です。しかし、この揺さぶり理論そのものに大きな疑問があることは、このブログで繰り返し指摘したとおりです。本当に外力が原因と言えるのか、「揺さぶり」論の根本に立ち返って、0(ゼロ)ベースでの見直しが必要です。 […]

  5. […]  検察庁は、最近、中村Ⅰ型に対する認識を改めたようで、つかまり立ちからの転倒やソファー・ベッドからの落下など、明確な外力(衝撃)のエピソードが認められる事例での訴追には慎重になってきたようにも思えます。しかし、養育者からそのような外力(衝撃)のエピソードが語られない事例で乳幼児に頭蓋内出血が認められる例では、なお訴追を続けています。筆者は、ここに大きな問題があると考えています。外力(衝撃)のエピソードが語られないような場合でも、頭蓋内出血・眼底出血は十分に起こりうるからです。静脈洞血栓症によって頭蓋内出血・眼底出血が生じた山内事件は、その典型です。頭蓋内出血・眼底出血が見られた多くの事例で、頭部表面に目立った外力がなかったことから、「揺さぶり」が疑われるようになって生まれたのが、SBS仮説です。しかし、この揺さぶり理論そのものに大きな疑問があることは、このブログで繰り返し指摘したとおりです。本当に外力が原因と言えるのか、「揺さぶり」論の根本に立ち返って、0(ゼロ)ベースでの見直しが必要です。 […]

  6. […]  検察庁は、最近、中村Ⅰ型に対する認識を改めたようで、つかまり立ちからの転倒やソファー・ベッドからの落下など、明確な外力(衝撃)のエピソードが認められる事例での訴追には慎重になってきたようにも思えます。しかし、養育者からそのような外力(衝撃)のエピソードが語られない事例で乳幼児に頭蓋内出血が認められる例では、なお訴追を続けています。筆者は、ここに大きな問題があると考えています。外力(衝撃)のエピソードが語られないような場合でも、頭蓋内出血・眼底出血は十分に起こりうるからです。静脈洞血栓症によって頭蓋内出血・眼底出血が生じた山内事件は、その典型です。頭蓋内出血・眼底出血が見られた多くの事例で、頭部表面に目立った外力がなかったことから、「揺さぶり」が疑われるようになって生まれたのが、SBS仮説です。しかし、この揺さぶり理論そのものに大きな疑問があることは、このブログで繰り返し指摘したとおりです。本当に外力(衝撃)が原因と言えるのか、内因は関与していないのかも含めて、「揺さぶり」論の根本に立ち返って、0(ゼロ)ベースでの見直しが必要です。 […]

  7. […] 今西さんの事件は、外力であることを示す証拠は何もありません。その一方、内因であることを示す証拠が数多くあるのです。日本でも海外でも、内因である可能性が指摘され、雪冤される例が増えています。山内事件は静脈洞血栓症が問題になりました。新潟の事件では、くも膜下腔拡大という内的素因が問題とされました。スウェーデン最高裁の逆転無罪判決では、RSウィルス感染の可能性が指摘されています。ニュージャージ上級裁判所決定は早産児における基礎疾患が問題となっています。2022年4月28日にはミネソタ州(Robert John Kaiser vs State)で、2022年8月17日にはミシガン州(State vs John H. Sanders)で、それぞれの救済申立手続(Motion for Relief 日本の再審請求に該当)において、確定有罪判決では、頭蓋内出血の理由として、静脈洞血栓症(ミネソタ)や感染症と凝固異常(DIC)による自然発症の可能性(ミシガン)が検討されていないとして、いずれも再審が命じられました。 […]

  8. […] これまでも繰り返し触れてきましたが、厚労省の「子ども虐待対応の手引き(平成 25 年8月 改正版)」(以下、「手引き」)は、「SBSの診断には、①硬膜下血腫またはくも膜下出血 ②眼底出血 ③脳浮腫などの脳実質損傷の3主徴が上げられ〔る〕。……出血傾向のある疾患や一部の代謝性疾患や明らかな交通事故を除き、90cm以下からの転落や転倒で硬膜下血腫が起きることは殆どない…」(『手引き』265ページ)、「出血傾向がない乳幼児の硬膜下血腫は3メートル以上からの転落や交通外傷…のような既往がなければ、まず虐待を考える必要がある。特に……乳幼児揺さぶられ症候群を意識して精査する必要がある」(同314ページ)としています。この論理にしたがえば、三徴候があった場合、出血傾向のある病気(以下、「内因」)や交通事故、高位落下がない限り、事実上SBSということになるでしょう。ちなみに「医療機関向け虐待対応啓発プログラムBEAMS(ビームス)」が公表している「SBS/AHT の医学的診断アルゴリズム」(「子ども虐待対応医師のための子ども虐待対応・医学診断ガイド[Pocket Manual]27頁)では、「三主徴(硬膜下血腫・網膜出血・脳浮腫)が揃っていて、3m 以上の高位落下事故や交通事故の証拠がなければ、自白がなくて(ママ、「も」が脱落)SBS/AHT である可能性が極めて高い」などとされています。高位落下や交通事故以外の事例が問題になるのですから、これでは三徴候があるだけで、直ちに「虐待」となりかねません。手引きは「内因」について触れているだけ、まだマシといえるかもしれません。しかし、単に「内因」を意識するだけでは足りません。これまでSBS/AHT論に基づき、医学所見のみから虐待だとしてきた医学鑑定書の多くは、形だけ内因を除外したかのような体裁をとっただけで、すぐに原因は「揺さぶりなどの外力だ」と決めつけてしまっています。そして、あたかも、そのような「除外診断」をしたことをもって「三徴候だけで虐待とは決めつけていない」とするのです。実は、ここに根本的な落とし穴があります。乳幼児が三徴候を起こすメカニズムは十分に解明されていません。解明されていない内因によって、三徴候を起こしてしまう可能性は何ら否定できないのです。実際、乳幼児に三徴候が見られた事例において、「それまで普通に見えたのに突然おかしくなった」という説明は、国の内外を問わず、非常に多いのです。日本では祖母が揺さぶりの犯人だと疑われ、高裁で逆転無罪となった山内事件(大阪高裁令和元年10月25日判決)や1審(東京地裁立川支部令和2年2月7日判決)・控訴審(東京高裁令和3年5月28日判決)とも無罪になった東京の事例や、スウェーデンの最高裁で逆転無罪となった事例、フランスでの一連の無罪判決、アメリカ・ニュージャージー州でAHTに関する検察側医師の証言を許容しなかった事例も同じです。別途報告する冤罪事件「今西事件」でも、弁護団は内因こそが真の原因と考えています。ところが、SBS/AHT論を主導してきた立場は、これら内因を軽視し、あるいは簡単に否定できるかのような議論を展開し、その原因は、外力だ、虐待だ、と決めつけてしまうのです。「自分たちの論理で内因を除外さえできれば、揺さぶりなどの外力=虐待と言える」という論理そのものに根本的な誤りがあると言わざるを得ません。頭蓋内出血や眼底出血は、内因によって生じることが多くの研究で示されてきました。少し詳しく見ていきましょう。 […]

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