Author Archives: Kana Sasakura

SBS仮説で死刑判決 執行の90分前に延期 テキサス州知事等に事件の見直しを求める申入れをしました

SBS検証プロジェクトは2024年10月18日に、テキサス州でSBS仮説により死刑を言い渡され、執行日が設定されていたロバート・ロバーソン(Robert Roberson)氏の執行を停止し、事件について見直すよう、テキサス州知事等に申し入れを行いました

ロバーソン氏は2002年に2歳の娘を揺さぶって殺害したとして、翌年、陪審裁判により死刑判決を言い渡されました。しかし、その後、女児が肺炎を発症していたことと、ベッドからの落下によって脳が低酸素状態に陥って症状を来したことが明らかになりました。

ロバーソン氏は、娘が病院に救急搬送された際、感情の起伏が見られないとして疑いをかけられたという事情もありました。それは氏自身の自閉症によるものであったことも判明しています。*詳細は、Innocence Projectによる記事を参照。

本件がえん罪であるとの様々な指摘に関わらず、テキサス州の裁判所はロバーソン氏の死刑判決の執行日を2024年10月17日に設定しました。

その後、SBS仮説による全米初の死刑執行を止めるために、裁判所、恩赦委員会や州知事、州議会に対する執行差し止めや再審理の申立てが行われました。最終的に、執行時間の90分前に、州の下院によってロバーソン氏の議会への召喚が申し立てられ、州裁判所がこれを認めたことにより、執行はいったん延期されました。

10月21日に下院の刑事司法委員会での聴聞が開かれることになっています。この委員会は、ジャンク・サイエンスに関連してテキサス州法を修正する必要があるかに関わるもので、このような形で執行を延期させるという方法は、今まで行われたことがありませんでした。今後、裁判所が再び、ロバーソン氏の執行を行うのか、あるいは事件を見直すのかを判断することになります。 *出典:Texas Lawmakers Did Something Unprecedented to Save an Innocent Man’s Life

本件は、いまだ予断を許さない状況にあります。

SBS検証プロジェクトは、10月18日に、テキサス州知事、テキサス州恩赦委員会、そして刑事司法委員会のメンバーに対して、本件の死刑執行を停止し、事件を見直すよう求める申し入れを行いました。ロバーソン氏の死刑執行が停止され、再審理によって有罪判決の見直しが行われることを求めます。

今西事件シンポジウム開催![2024年11月7日]

2024年11月7日18時より、JR大阪駅付近で今西事件の判決直前シンポジウムを開催します!

8月同様、企画運営はイノセンス・プロジェクト・ジャパンの学生ボランティア達です。SBS検証プロジェクトも共催しております。

参加無料、お申込みはこちらからお願いします!

11月28日の控訴審判決直前に、事件の全体像を振り返ります。是非お越しくださいませ!

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今西事件シンポジウム 
――今西貴大さんが経験してきたこと、私たちが取り組んできたこと――

■日時 2024年11月7日木曜日 18時~20時(開場17時45分)
■場所 AP大阪駅前内 APホールII
〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田1-12-1 東京建物梅田ビルB1F
*JR大阪駅から徒歩2分
*アクセスはこちら→ https://goo.gl/maps/Q5nPzUEXaNLgPs9G6

■要お申込み、参加無料
お申込み、お問合せはこちらから→ https://x.gd/w6vd2

■プログラム
1.はじめの挨拶
2.IPJ/IPJ学生ボランティアの活動内容について
3.今西事件の概要
4.対談
 川﨑拓也氏(弁護団主任弁護人、IPJ理事)
 今西貴大氏
 コーディネート 赤澤竜也氏(ジャーナリスト)
5.IPJ学生ボランティアと今西事件
6. 支援者からの挨拶
 菅家英昭氏(今西貴大さんを支援する会代表)など
7.弁護団から支援のお願いと御礼
 川﨑拓也氏、秋田真志氏、西川満喜氏、湯浅彩香氏、川﨑英明氏
8.ご挨拶:今西貴大氏
9.おわりの挨拶

■シンポジウムの趣旨
 本シンポジウムは、今西貴大さんが経験してきたことや今西さんご自身のお人柄について、より多くの皆さんに伝えるため、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の学生ボランティアが企画しました。IPJ学生ボランティアは、えん罪事件について勉強しており、えん罪の問題を広く知っていただくためにイベントを企画するなどの活動をしています。今西事件について、本シンポジウムの他、中高生や一般市民に事件について知ってもらうためのワークショップを開催するなどしました。
 また、今西さんとの面会を、勾留されていた時から保釈された現在も数多く行っています。これを機に私たちIPJ学生ボランティアの取り組みについても知っていただければ幸いです。

[御礼]3月3日のシンポジウムへのご参加、ありがとうございました!

3月3日は、SBS検証プロジェクト共催シンポジウム『それでもえん罪はなくならない ―連続無罪判決後、「揺さぶられっ子症候群(SBS)」問題は終わったか?―』へのご来場とwebでのご視聴、ありがとうございました!対面とwebを合わせて、約160名もの方にご参加いただきました。

SBS検証プロジェクトの発足から、ちょうど5年が経過しました。この機会に、この5年を振り返り、SBS/AHTの問題を改めて検討するために開催したシンポジウムで、とりわけ今西貴大さんの事件を通して、えん罪の問題について皆様と考える貴重な機会になりました。

SBS検証プロジェクトの事務局長の川上博之(大阪弁護士会)は、ここ5年間のSBS/AHT事件の状況を振り返り、いわゆる「三徴候」ではなくあらたな「新徴候」による訴追が続いていること、しかしその立証の構造は旧来の「三徴候」による訴追と何ら変わらないことを明快に指摘しました。

その後のパネルディスカッションでは、現在大阪高等裁判所に控訴審が継続している、今西貴大さんの事件の弁護団が登壇し、事件の内容や現状についてわかりやすく説明しました。

さらに、2018年から活動を続けているSBS/AHTを考える家族の会の代表・菅家英昭さんや、SBS検証プロジェクトのメンバ―の古川原明子(龍谷大学法学部教授)も、この5年の活動を振り返りました。

2020年以降、コロナ禍によりすべてのイベントをオンラインに切り替えていましたが、今回は、久々に対面でも開催できたイベントでした。皆様と同じ熱気を共有できましたことに心から御礼申し上げます。

当日の様子を報じた関西テレビの記事です → こちらをクリック

IPJ学生ボランティアのインタビュー記事公開

すでにこちらでも同じインタビュー記事の前編をご紹介しましたが、イノセンス・プロジェクト・ジャパンの学生ボランティアが今西貴大さんの事件について高校でワークショップを開催し、その活動などについて、日本国民救援会が発行する「救援新聞」が取り上げてくださいました。1月15日号では、2回連載の2回目が公開されています。

インタビューを受けたのは、甲南大学で学生ボランティアとして活動する堀田零生(3回生)と西村友希(1回生)、SBS検証プロジェクト共同代表で、IPJの副代表でもある同大学教授の笹倉香奈です。

ぜひお読みください!

前編はこちらをクリック

後編はこちらをクリック

ニュージャージー州裁判所の判断の原文をアップしました

前回の投稿記事で秋田弁護士が紹介したニュージャージー州上級裁判所のニエベス事件における証拠決定の原文を、こちらにアップしました。今後、州裁判所のサイトにもアップロード予定だそうですが、重要な判断ですのでご紹介する次第です。

70頁以上にも及ぶ長い決定文ですが、是非お読み下さい。

一時保護開始時の「司法審査」 拙速な議論を懸念します

 厚生労働省・子ども家庭局による「児童相談所における一時保護の手続等の在り方に関する検討会」(以下、一時保護検討会という)は、2021年4月に「とりまとめ」を公表し、その中で「一時保護は、一時的とはいえ、子どもを保護者から引き離すものであり、子どもの権利の制限であるとともに、親権の行使等に対する制限でもあるため、こうした点を踏まえると、児童相談所による一時保護に関する判断の適正性の担保や手続の透明性の確保を図る必要がある」として、児童の権利に関する条約第9条や国連児童の権利委員会による総括所見を引きながら、「独立性・中立性・公平性を有する司法機関が一時保護の開始の判断について審査する新たな制度」を「できる限り早期に…実現すべき」であると結論付けました。

 一時保護が親や子どもの権利制限を行うものであることに鑑み、一時保護の開始時にあっても、司法審査を導入し、一時保護判断の適正性と手続保障を確保しようとしたものでした。

 その後、厚労省、法務省、最高裁は、この「司法審査」のあり方について協議を行っていたようで、2021年11月5日に開催された「社会保障審議会 (児童部会社会的養育専門委員会)」では、上記「とりまとめ」後に進められた「厚生労働省、法務省及び最高裁判所から成るWG」における「実証的な検討」の結果が公表されました(「一時保護時の司法審査等(案)」、以下「案」という)。

 しかし、そこで提案された一時保護開始時の「司法審査」には、以下に述べるような重大な問題があります。このまま「案」の考え方に沿って法改正に向けた議論が進んだ場合には、「とりまとめ」が指摘したような問題点を解消しない制度が作られる可能性があります。今後、拙速な議論が行われないかにつき、重大な懸念があります。

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関テレ「裁かれる正義」がNYフェスティバル2021の2部門ファイナリストに!

2019年11月に放映された関西テレビ制作「ザ・ドキュメント 裁かれる正義 検証・揺さぶられっ子症候群」(英語タイトル: Justice on Trial: Reexamining Shaken Baby Syndrome)が「ニューヨークフェスティバル2021」において、2部門でファイナリストに選ばれました

*ニューヨークフェスティバルについては、こちらをクリック

2019年10月25日に大阪高裁で逆転無罪判決を言い渡された女性とその家族、女性の事件に関わった医師や法律家を追いながら、SBSについて検証を行った作品です。

同作品はこれまで、第70回文化庁芸術祭 テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞、第27回坂田記念ジャーナリズム賞、第40回「地方の時代」映像祭2020放送局部門選奨、第9回日本医学ジャーナリスト協会賞優秀賞を受賞し、SBSに関わる関西テレビの報道は、民放連、ギャラクシー賞なども受賞しています。

朝日新聞「揺さぶり相次ぐ無罪・処罰と乳幼児の安全区別し判断を」へのコメント

 12月21日付の朝日新聞朝刊に、大久保真紀編集委員によるSBS/AHT事件に関する「記者解説・揺さぶり相次ぐ無罪」(以下、本件記事といいます)が掲載されました。SBS検証プロジェクト共同代表の秋田・笹倉のコメントも掲載されていますが、本記事には全体として重大な問題があると考えています。

 以下、その問題点のうち、いくつかを指摘します。

1.無罪判決の原因は?

 本件記事は、SBS/AHT事件で無罪判決が相次いでいる根本的な理由について分析を加えていません。

 「病気やソファから落ちたことによって頭部の出血などが起きた可能性があると弁護側が主張、裁判所がそれを認める形で無罪判決が相次いでいる」という事実を指摘した上で、「大阪高検検事」の論文を引用し、「裁判員裁判で医療記録や解剖記録、あざの写真などの重要な客観証拠が、裁判員には理解しがたいまたは刺激が強いとして採用されないこと」を無罪判決多発の原因として挙げるにとどまっています。「大阪高検検事」の論文は、あたかも「重要な証拠が採用されなかったから無罪になったのだ」と主張するかのようです。

 しかし、これまでの無罪判決では子どもの症状に低位からの落下や静脈洞血栓症など、他の原因があった可能性が高いことが明確に指摘されています。そもそも、裁判員裁判以外による無罪判断の方が多いのです。これらの事実にもかかわらず、「大阪高検検事」の論文の当該部分を引用することはミスリーディングです。

 それどころか、本件記事は、これまでの無罪判決で指摘されてきたSBS理論自体の問題点や検察側証人の証言の問題点などについて一切指摘しません。これらの諸点に関する指摘や分析なくして、SBS/AHT事件で多発している冤罪原因を検証し「過ちに学ぶ」ことなどできるのか疑問です。事実を重視しなければならない「中立的」なメディアとしては、これまでの無罪判決の理由をもっと深く掘り下げるべきだったのではないでしょうか。

 大久保記者には上記の諸点を今後分析していただき、すでに過去に有罪判決が言い渡されていた事案についても問題がなかったかを検証していただきたいと思います。これこそが、児童虐待問題をいっかんして取材してこられた記者としての責任ではないでしょうか。


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大阪地裁で無罪判決

またSBS事件で無罪判決が言い渡されました。

大阪地方裁判所は、生後4ヶ月の長男を揺さぶって怪我をさせたとされた女性の事件について、2020年12月4日に無罪を言い渡しました。

男児は急変当時、託児所に預けられていました。その後、急性硬膜下血腫や眼底出血が発見されたことから、母親が男児を揺さぶって虐待したとされたのです。育児ストレスが動機であると主張されました。

これに対して弁護人は、男児の頭蓋内に古い硬膜下血腫が広範囲に存在しており、軽微な外力でもそこから出血した可能性があると主張しました。母親が男児を託児所に預けに行くときに抱っこひもで抱えて自転車に乗ったときに揺れた可能性があることも指摘されました。

裁判所は、女性に「暴行があったと認めるには合理的疑いが残る」として無罪を言い渡しました。

女性は、虐待と診断した医師の意見にもとづいて起訴されました。事件から三年半が経過し、ようやく無罪判決が言い渡されましたが、女性はいまだに長男と一緒に暮らすことができていません。

本件につき、関西テレビの記事を是非お読み下さい。

岐阜地裁で無罪判決

本日(2020年9月25日)、岐阜地方裁判所は生後3か月の長男を揺さぶって傷害したとして起訴された女性の事件につき、無罪判決を言い渡しました。

本件についてはすでに多くの報道があります。判決は、女性が暴行を加えていないこと、長男の傷害はソファからの落下によって生じた可能性があると判断しました。

本件でもSBS理論に依存した起訴・立証が行われました。SBS理論の問題点を直視し、中立的・科学的な立場からゼロベースで公的な検証を行う必要があることが再び明らかになりました。

朝日新聞に無罪判決を受けた女性のコメント全文が掲載されています。私たちは女性の声を真摯に受け止め、問題の本質に向き合うべきではないでしょうか。