YAHOO!JAPANニュースで
“虐待冤罪” 無罪判決続く 当事者が投げ掛ける「揺さぶられ症候群」の隙間
が公開されました。ジャーリストの益田美樹さんが、SBSをめぐる日本の現状を多角的な視点からリポートしたものです。是非お読み下さい。
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“虐待冤罪” 無罪判決続く 当事者が投げ掛ける「揺さぶられ症候群」の隙間
が公開されました。ジャーリストの益田美樹さんが、SBSをめぐる日本の現状を多角的な視点からリポートしたものです。是非お読み下さい。
来る2020年2月14日(金)午後6時から、東京霞ヶ関の弁護士会館で、SBS(揺さぶられっ子症候群)仮説をめぐるセミナー「虐待を防ぎ冤罪も防ぐために、いま知るべきこと」 (主催 日本弁護士連合会、共催 関東弁護士会連合会、東京三弁護士会、大阪弁護士会、甲南学園平生記念人文・社会科学研究奨励助成研究「児童虐待事件における冤罪防止のための総合的研究グループ」、龍谷大学犯罪学研究センター科学鑑定ユニット) を開催します。最新の状況を踏まえて、活発かつ建設的な議論をしたいと思っています。ぜひお越しください。
大阪高裁が2019年10月25日に言い渡した、山内泰子さんに対する逆転無罪判決について、大阪高検が、上告を断念する旨を正式に発表しました。
この3年間に、山内さんやそのご家族が味わった苦しみからすれば、決して手放しで喜べません。しかし、この判決の確定が、SBS仮説の見直しにつながり、冤罪や誤った親子分離を生まないきっかけとなることを期待したいと思います。
2019年10月25日大阪高裁第6刑事部(村山浩昭裁判長、畑口泰成裁判官、宇田美穂裁判官)は、生後2か月の孫を揺さぶるなどして死亡させたとして、一審で懲役5年6月の実刑判決を受けていた祖母山内泰子さんに、逆転無罪判決を言い渡しました。
判決では、一審に引き続いて控訴審でも検察側証人に立った溝口史剛医師の証言に詳細な検討を加え、その証言内容に強い疑問を投げかけました。その上で、以下のように述べたのです(一部、わかりやすいように表現を変更しています)。
「本件では、SBSに特徴的とされる、 ①硬膜下血腫、 ② 脳浮腫、 ③ 眼底出血の3徴候につき、 ①架橋静脈の断裂により通常生じるとされる硬膜下血腫はその存在を確定できないし、②脳浮腫及び③眼底出血については、その徴候を認めるとしても、別原因を考え得ることが明らかになった(眼底出血については、多発性ではあるが、多層性であると認めるだけの証拠はない。)。そして、本件は、一面で、SBS理論による事実認定の危うさを示してもおり、SBS理論を単純に適用すると、極めて機械的、画一的な事実認定を招き、結論として、事実を誤認するおそれを生じさせかねないものである。」
「本件は、客観的な事情から、被害児の症状が外力によるものとすることもできないし、被告人と被害児の関係、経緯、体力等といった事情から、被告人が被害児に暴行を加えると推認できるような事情もない。むしろ、医学的視点以外からの考察では、被告人が被害児に暴行を加えることを一般的には想定し難い事件であったといえる。それにもかかわらず、被告人が有罪とされ、しかも、経緯において同情し得る事情がないとして、懲役5年6月という相当に重い刑に処せられたのは、原判決が、当事者の意見を踏まえてのことではあるが、被害児の症状が外力によるものであるとの前提で、いわゆる消去法的に犯人を特定する認定方法をとったからにほかならない。このような認定方法が、一般的な認定方法として承認されていることは事実である。しかし、本件をみると、そこには、一見客観的に十分な基礎を有しているようにみえる事柄・見解であっても、誤る危険が内在していること、消去法的な認定は、一定の条件を除けば、その被告人が犯人であることを示す積極的な証拠や事実が認められなくても、犯人として特定してしまうという手法であること、さらには、その両者が単純に結びつくと、とりわけ、事件性が問題となる事案であるのに、その点につき十分検討するだけの審理がなされず、犯人性だけが問題とされると、被告人側の反証はほぼ実効性のないものと化し、有罪認定が避け難いこと、といった、刑事裁判の事実認定上極めて重大な問題を提起しているように思われる。」
SBS仮説の危険性を、的確に指摘しています。これまでSBS仮説に依拠して訴追・有罪判決や親子分離をしてきた関係機関に、根本的な反省を迫る内容と言えます。この判決が、日本におけるSBS仮説の見直しのために、今後の指針となることを期待したいと思います。
フランスでも近時、SBS関連の無罪事件が相次いでいるようです。2019年3月4日、レンヌで”Adikia association” https://adikia.fr/2019/03/vanessa-relaxee/ (フランス語のサイトです)というフランスのSBSえん罪被害者家族会の会長であるヴァネッサさんに無罪判決が言い渡されました。さらに5月30日には、SBS仮説に基づいて、一審で懲役8年の有罪判決を言い渡されていた父親に対し、ルーアン高等裁判所で、逆転無罪判決が出されました。これらの判決は、国際的にも重要な意義を持つと思われます。実は、フランスは、SBSを主導する意見が非常に強い国だったのです。スウェーデン政府機関SBUの報告書でも、中程度の質のエビデンス(証拠)があるとされた論文がふたつあると指摘されましたが、それはいずれもフランスの研究でした(Vinchon とAdamsbaum。これらの研究は、揺さぶりの自白を重視したものです)。いわばSBS仮説のリーダー的な国でも無罪が相次いだのです。では、無罪となった2つの事件は、どのようなものだったのでしょうか。
溝口解説にも出てきますが、SBS/AHT仮説への批判に対する再反論として、「昆虫の飛行」が持ち出されることがよくあります。アメリカの虐待関連の出版でも何度かこの喩えを見たことがありますので(例えば溝口医師も監訳者の1人であるキャロル・ジェニー編「子どもの虐待とネグレクト」金剛出版587頁)、アメリカでの議論の受け売りなのでしょう。しかし、その出典がアメリカにせよ、日本にせよ、SBSの議論として、およそ適切な喩えとは言えません。むしろ、議論をミスリードする誤った喩えと言うべきです。どういうことか、まず溝口解説をもとに、「昆虫の飛行」論を見てみましょう。
これまでもお伝えしてきたように、海外ではSBS/AHTに疑問を呈する裁判例が相次いでいます。このことについて疑義を挟む意見もあるようなので、当プロジェクトで把握できた2018年以降のSBS/AHTに疑問を呈する海外裁判例20件の一覧表を作成しました。ご参照ください。
以前このブログでもご紹介したSBSを扱ったドキュメンタリー「ふたつの正義~検証・揺さぶられっ子症候群~」(第27回FNSドキュメンタリー大賞受賞作)が、BSフジテレビ(衛星放送-更新前まで、誤ってフジテレビ系列と記述しておりました。お詫び申し上げます)で再放送されます。5月5日深夜、6日未明午前3時という時間帯ですが、是非ご覧ください。↓
(ケース1)「Hくんにはどう説明するんや、もしくは、説明しーひんのか。臭いものには蓋か!」…「警察はみんな調べてる。ハッタリや思うたら大間違いや!この9か月、あんたは自分の保身ばかり考えてたんやろけど、こちらも9か月、同じ月日が流れていて捜査してるんや」
(ケース2)「Tの頭はスカスカ。一生障害児」…「Tが障害児になったのはお前のせい。お前が蹴飛ばしたんやろ、投げ飛ばしたんやろ!」
どちらも、柳原三佳さんが出された「わたしは虐待していない-検証 揺さぶられっ子症候群」(講談社)からの引用です。これらはSBS/AHT仮説に基づいて虐待を疑われた二人の母親が、柳原さんの取材に対し、警察から受けた取調べの状況を語ったものです。時代遅れの取調べのようにも思えますが、決して古い取調べではありません。ケース1は、2015年9月、ケース2は、2018年9月の取り調べの状況です。SBS仮説による医師の鑑定を信じ込んだ警察官が、自白を強要している姿が生々しく浮かび上がってきます。このような取調べの実態が明らかになるのも、柳原さんが、丁寧に当事者の声を取材し続けたからにほかなりません。生の声が持つ重みを改めて考えさせられます。そして、えん罪被害の不条理さを私たちに教えてくれます。是非、多くの人にお読みいただきたい一冊です。
ところで、この本にも何度も言及がありますが、SBS仮説に基づいて鑑定意見を述べる医師の方々にも、考え直していただきたいことがあります。