マッシズ医師は、カリフォルニア州サンディエゴのNational Autopsy Assay Group(全米解剖分析グループNAAG病理学研究所)のコンサルタントであり、同研究所で法医学・病理学を実践しておられます。マッシズ医師は、法医学者であると同時に、保安官と同様に捜査権限をもち(Sheriff-Coroner Autopsy Service)、事件現場での遺体検証なども行います。これまで全米において警察・検察側、弁護側双方から鑑定を求められ、多数回法廷で専門家証人として証言に立ってこられました。2018年にはNational Association of Criminal Defense Lawyers(NACDL 全米刑事弁護士協会)の月刊誌であるChampion誌の2018年11月号に、SBS/AHT問題に取り組むRandy Papetti弁護士との共著で「Law, Child Abuse, and the Retina(法、児童虐待、そして網膜)」と題する論文を寄稿され、網膜出血をSBS/AHTの徴候であるとみなすことの危険性について警鐘を鳴らしておられます。
※ちょうどこの記事を書いている途中、アメリカ・ラスベガスでSBSによる殺人を疑われた母親に対する検察官の公訴の取消がなされたとの報道に接しました(December 21, 2022, Las Vegas Review-Journal “Murder charge dropped against Las Vegas woman arrested in baby’s death”)。報道によると、生後2か月の赤ちゃんが突然死した事例ですが、その赤ちゃんには、「鎌状赤血球貧血症」(sickle cell anemia)という稀な疾患があり、心肥大と血流低下、心停止に伴う頭蓋内出血があったのですが、その出血から検察側医師によってSBSと誤診されていたということです。内因による心臓突然死が問題となった点で、本事例や今西事件と類似しています。
2022年11月10日、アメリカ・オハイオ州の裁判所が、22年前の2000年に発生し、2002年にSBS仮説に基づいて有罪判決を受けた”養父”に対し、再審開始を決めました(Franklin County Court of Common Pleas State of Ohio -vs- Alan J Butts Case Number: 02CR001092)。この事件は、今西貴大さんの事件と非常によく似ているのです。この再審開始決定は、今西事件(イノセンスプロジェクトジャパンの支援ページはこちら)でも参考になるはずです。
裁判所の認定によると、事件の概要は、以下のようなものでした。アラン・ブッツ(ALan J. Butts)さんは、当時2歳だったジェイディン(Jeydyn)君のお母さんと恋仲になり、一緒に暮らすようになりました。ジェィデイン君とアランさんは血のつながりはありません。でも、アランさんは、ジェイディン君を実の息子のようにかわいがり、ジェイディン君もアランさんを、「パパ」(Dad)と呼んで慕っていました。お母さんが、仕事に行っている間、アランさんがジェイディン君の面倒を見ることになりました。アランさんのジェィデイン君の子育てには、虐待はもちろん、なんら不適切なところはありませんでした。そのジェイディン君が、ある日、滑りやすいバスタブで後ろ向きに倒れて頭を打ってしまいます。その事故の後、ジェィデイン君はときどきふらつくようになってしまいました。口数も少なくなりました。同じ頃、ジェイディン君には鼻づまりなどの風邪のような症状が出ました。お母さんは、ジェイディン君に市販の風邪薬を与えて、様子を見ることにしました。バスタブでの事故数日後、朝からジェイディン君は食欲もなく、元気がありませんでした。お母さんは心配でしたが、人と会う約束があったため、ジェィディン君をアランさんに任せて、外出しました。夕方4時35分ころのことでした。ジェィディン君が倒れてしまい起き上がれないようでした。その様子を見たアランさんは、ジェィデイン君に駆け寄り、”ジェイディン!ジェィデイン!”と叫びましたが反応しません。頬を叩きましたが、反応しません。目を開けて覗き込みましたが、ジェイディン君が見つめ返してくることはありませんでした。アランさんは、急いで救急車を呼びました。