速報:大阪高裁、面会制限の違法を認める!

2023年8月30日、大阪高裁第13民事部(裁判長裁判官 黒野功久、裁判官 馬場俊宏、田辺麻里子)は、児童相談所による一時保護継続と面会制限の違法性を指摘して、大阪府に対して損害賠償を命じた2022年3月24日大阪地裁判決について、大阪府の控訴を棄却すると同時に、母親側の附帯控訴による賠償額の増額を認める判決を言い渡しました。

 本件は、家庭内の低位落下事故であるにもかかわらず、児童相談所の依頼を受けた法医学者が、その症状を「頭部をかなり大きな揺さぶられて生じたと考えられる」などという誤った鑑定書を書き、児童相談所がその鑑定書を鵜呑みにしたことから、8か月にもわたり親子分離が継続したという事案です。

 大阪高裁は、この法医学鑑定について「判断及びその前提となる画像読影の正確性に疑義を挟まざるを得ない」「結論を導くための医学的知見及びそれを裏付ける医学文献等が何ら示されておらず…医師からはこれを補うような意見等も特段示されなかった…その…内容を信用するのは困難といわざるを得ない」としました。実際、この鑑定書は、本文はわずか16行、原判決も認定するとおり、画像誤読の上に、医学的根拠を全く示していないという代物で、どうみても「鑑定」の名に値しないものでした。このような鑑定書が、法医学者を名乗る医師によって作成されること自体に驚きを禁じ得ません。ところが児童相談所は、一目見て不合理であることが明白なこの鑑定書のみを根拠に、その信用性を何ら検証しようとすることなく、長期の親子分離を正当化しようとしたのです。その結果、実際に親子分離は8か月に及びました。

 児相が、そのような親子分離を正当化しようとする論理は、「受傷の原因が確定できないため具体的な再発防止策を講じることができない」というものでした。「受傷の原因が確定できない」というのは、児童相談所が、母親の説明を信用しようとせず、無視したからです。この点、裁判所は、本件の母親の説明が一貫して不合理な点もないこと、その主張を裏付ける医学的知見が提出されていること、本件の養育状況や母親の態度等から母親が「本件児童を虐待していたり、本件受傷の原因について虚偽を述べたりしているとは考え難い」としました。裁判所は、母親の供述を信用できるとして、本件が事故であることを明確に認めたのです。

 しかし、児相は、とにかく母親の説明を信用しようとせず、虐待の可能性が否定できない以上、親子分離だ、面会制限だと主張し続けたのです。多くの児相が、一方的な親子分離、面会制限を行うときに取ろうとする態度です。そこにある児相の姿勢は、「とにかく親子分離」「とにかく面会制限」です。事実を見極めようというものではありません。「思考停止」以外の何ものでもないのです。

 このような児相の姿勢はきわめて深刻な実務運用を招いています。虐待などしていないと訴える親と、ひたすら「虐待を疑う」児相側との間で信頼関係ができるはずもありません。逆に強い軋轢を生むことになります。その一方で、本件でもそうだったのですが、児相側が真相を見極めようとする訳でもありません。「原因不明である以上、対策が取れないから分離」の一点張りです。その結果、親子分離も面会制限も長期化してしまうのです。

 児相には、親子分離、面会制限が、「児童及び保護者の権利等に対する重大な誓約を伴うものであるし、児童と保護者の分離によって児童の安全が確保され、その福祉を保障できる場合がある一方で、分離が長期化することによって再統合が困難になるなど、分離によって児童の福祉が侵害される場合もあり得る」(判決)という発想が抜け落ちているのです。親子分離、面会制限は、それだけでは「チャイルドファースト」とはいえません。むしろ形を変えた国家による「虐待」となりうることを忘れてはなりません。

 判決は、面会制限の法的根拠についても重要な判断を示しています。親子分離された多くの保護者が勘違いしたまま、親子分離された以上、児相による面会制限はやむを得ないものと思い込んでいます。児相側は「会えません」というだけで、その法的根拠を説明しようとしないからです。実はそうではありません。児相が強制的に面会制限が可能なのは、児童虐待防止法12条に基づく「行政処分」という手続が行われた場合だけです。その処分は、「児相虐待を受けた児童」について、「当該児童虐待を行った保護者」との面会を制限するのですから、「児童虐待」の事実が具体的に認定される必要があります。本件の母親もそうですが、「虐待」の認定はされているわけではなく、実際に「面会制限の行政処分」は行われていません。では、それにもかかわらず、どのような法的根拠で児相は面会制限を続けたのでしょうか。実は、「行政指導」なのです。判決が述べるとおり、行政指導による面会制限は、「飽くまで相手方の任意の協力によって実現しなければならないから(行政手続法2条6号、32条1項)、保護者の同意(黙示的又は消極的な同意も含まれ得る。)に基づく必要があり、強制にわたってはならない」のです。実務では、児相側はそのような説明をしないまま、一方的に「会えません」と宣告し、どうすればいいかわからないまま多くの親が引き下がってしまいます。親が引き下がってしまうと、「行政指導に従った」とみなされてしまうのです。

 本件の母親は、児相に対し、粘り強く面会制限の法的根拠を尋ね、そして赤ちゃんとの面会を求め続けました。にもかかわらず約5か月にわたった事実上の面会制限について、判決は「法令上の根拠に基づかない強制的な面会制限」であったと認め、違法と判断したのです。

 なお、大阪府は、控訴審において、児童相談所長は一時保護をされた場合に「監護のための必要な措置」ができるとされていることから(児童福祉法33条の2第2項)、「強制力を有する行政指導が存在するかのような主張」もしましたが、判決は、「行政指導の一般原則について定めた行政手続法32条1項に照らしておよそ採用し難い」と斥けました。

まず、大阪府、児童相談所には、「とにかく親子分離・面会制限」の発想に縛られた「思考停止」に陥っていないか、十分に反省、検証をしていただきたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です