最高裁第三小法廷(裁判長裁判官林道晴、裁判官戸倉三郎、裁判官宮崎裕子、裁判官宇賀克也、裁判官長嶺安政)は、SBSを疑われた母親に逆転無罪を言い渡した令和2年2月6日大阪高裁判決に対する検察官の上告に対し、2021(令和3)年6月30日付で、「検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。」として、これを斥ける決定をしました(裁判官全員一致の意見)。決定も述べるとおり、大阪高等検察庁検事長榊原一夫検察官作成名義の上告趣意書(本文41ページ)は、どうみても事実誤認の主張にすぎませんでした。検察官が事実上事実誤認のみを理由に上告すること自体が異例ですが(最高裁は事実認定を行わない法律審であることが原則だからです)、前記大阪高裁判決が、SBS仮説に基づく小児科医師の証言に依存した揺さぶり認定を徹底的に批判し、逆転無罪判決としたことに対する検察官の強い危機感の表れだったと思われます。逆に言えば、それほどまでに検察官は、これまで小児科医たちのSBS証言に頼ってきていたのです。いわゆる三行半の上告棄却決定ではありますが、検察官の上告が斥けられたことには、重要な意義があります。検察庁は、これまでの訴追、立証を反省するだけでなく、すでに有罪が確定した事件も再検証し、不確実なSBS仮説に依存しただけの有罪判決があれば、自ら再審を請求すべきです。この決定が、SBS仮説の0(ゼロ)ベースでの見直しにつながることを期待します。