弁護団に今西事件の逆転無罪判決の判決書全文(匿名版判決全文はこちら)が交付されました。判決書全文は、74頁にわたり今西貴大さんを無罪とすべき理由を詳述したものでした。最大の争点であった、傷害致死罪については要旨に基づいて解説を加えましたが、本記事では、全文の内容を踏まえて、いくつかの点を補充させていただきます。
まず、注目すべきなのは、傷害事件に関連して、「本件骨折の存在や性状によっては、その発生原因を被告人の暴行と推認するには足らず、事故等による可能性を医学的に否定し難い以上、被告人の原審供述を全て虚偽として排斥することはできない」とした上で、「被告人がZ(被害児の実母)及び被害児と同居を始めてから第3事件の発生に至るまでの過程において、被告人が被害児を虐待していた事実をうかがわせる事情はなく、Zの原審証言中にも被告人に暴力的傾向があったことを示すものはない…。この点は、むしろ、本件骨折が被告人の暴行により生じたとする推認を妨げる消極的事実に当たるものといえる」と明言したことです。原判決は、傷害を無罪としましたが、あたかも今西さんが、虐待親であるかのような前提で、その供述を信用できないと決めつけるかのような判示をことさらにし、今西さんは傷害事件についても、疑わしいものの無罪であるかのよう認定をしていました。しかし、高裁判決は、そのような原判決の見方を否定し、逆に「(今西さんが)被害児を虐待していた事実をうかがわせる事情はなく、…この点は、むしろ、本件骨折が被告人の暴行により生じたとする推認を妨げる消極的事実に当たる」としたのですから、原判決と異なり「無実」との判断を示したと言って良いでしょう。実際、今西さんがA子ちゃんを愛し、本当に大切に接していたことは明らかでした。原判決は、相互に類似性のない3つの事実を、あたかも全て虐待行為であるかのように印象づけた捜査機関の立件基づく予断に影響されたとしか考えられないのです。このような判示自体から今西さんの無実は明らかです。
強制わいせつ致傷罪については、肛門から会陰部12時方向に僅か1cmの裂創があるだけで、その裂創を「自然排便が原因ではなく、異物挿入が原因と思われる」という検察側A医師の証言のみが証拠でした。しかし、高裁判決が指摘するとおり、「被害児の皮膚に荒れや乾燥があり、荒れ等が皮膚の柔軟性を失わせ、裂けやすくさせること、下痢により消化液が肛門周囲の皮膚に付着すると同様の異状が生じ得ることは、(検察側の)A医師、(弁護側の)B医師とも指摘しているから、肛門に張力が働いた時の皮膚の状態変化が問題とされる本件では、皮膚の異状と併せて裂傷が生じた可能性の検討が求められる」のです。ところが原判決は、「被害児に下痢便等があり、皮膚の乾燥の要因が加わったとしても、常識的に考えて、排便により本件裂傷が生じることは考えられない」などとした上で、A子ちゃんの僅か1cmの裂創を、「異物挿入」と決めつけたのです。高裁判決は、この原判決の認定を、「所論(控訴審における弁護人の主張を指します)も指摘するとおり、排便や皮膚の異状の存在が同裂傷の発生と結び付かない理由とされる『常識』の意味内容は不明である」「A医師の原審証言には、原判決が『常識』とした評価を補うほどに強い合理的な根拠が示されているとみることはできず、前記説示は、意味内容が不明な経験則を当てはめた不合理なものである」と文字どおり、一蹴しました。このように、強制わいせつ致傷についても、原判決は不合理そのものであり、今西さんの無実は明らかなのです。
そして、傷害致死については、すでに速報としてかなり詳細に説明していますが、次の点を付け加えておきたいと思います。原判決が「非常に明快で、説得力に富む」として重視した検察側脳神経外科医であるD医師の証言について、「D医師は、原審において、…『脳深部に点状の血腫は、頭部CTと剖検結果と合致する』と述べたが、…写真中の脳の割面部分に見られる血腫を、後付けでCT画像上に大まかに当てはめて前記の見解を述べたとみる余地があり、そうとすれば、その手法が科学的妥当性を持つものといえるか甚だ疑問といわなければならない」「D医師による被害児の頭部CT画像の読影には、その手法や在り方に疑問を差し挟む余地(がある)」などと繰り返し指摘した上で、「D証言の信用性は、説明ぶりの印象によるのではなく、科学的な合理性の観点から検討されなければならない」としました。あまりに当然の判示ですが、この点でも、原判決が、印象によって今西さんに有罪判決を下していたことが示されているといわざるを得ません。3件ともに、今西さんの無実は明らかなのです。
今西さんの無罪を確定させるため、上告断念を求めるオンライン署名を是非お願い申し上げます。