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許しがたい暴挙-今西事件で検察官が上告-弁護団抗議声明

 今西事件についての検察官の上告申立に対する弁護団の抗議声明

 許しがたい暴挙です。

 検察官は、本日、今西貴大さん(以下、「今西さん」といいます)に対する大阪高等裁判所第3刑事部の逆転無罪判決(2024年11月28日)について上告を申し立てました。

 冤罪によって、今西さんを6年以上もの長期にわたり被疑者・被告人の立場に起き続けた検察官は、この苦しみをさらに甘受させ続けようというのです。

 逆転無罪判決が明快に認定したとおり、本件の証拠は、本件の事件性を全く示していません。そして、逆転無罪判決が明確に述べるとおり、今西さんが虐待していた事実をうかがわせる事情も一切ありません。これは、本件事件性の推認を妨げる消極的事実です。逆に、今西さんは本児をこよなく愛し、大切に育てていたのです。そして、今西さんを知る多くの支援者たちが、今西さんの無実を確信して、多数の署名を集めたのです(オンライン署名を含めて、短期間に7000筆を超える署名が集まりました)。証拠を正当に評価しようとせず、今西さんだけでなく、多くの人の思いをも踏みにじった検察官の上告は、「検察の理念」(2011年9月30日)が求める検察官のあるべき姿勢を忘れたあまりに不公正で愚かな暴挙であり、著しく正義に反します。弁護団は激しい怒りをもって上告申立に強く抗議します。

 検察官による上告申立は、一審で13名の専門家が証言台に立ち、控訴審においても、さらに8名の専門家が証言台に立つという異例の事実調べを経て、十二分に証拠関係を精査した上でなされた大阪高裁の逆転無罪判決に対して、上告理由など全く見い出せません。

 検察官による上告申立は、日常生活を取り戻したいという今西さんの切実な願いを踏みにじるものであり、有罪主張をしてきた検察庁の面子を保とうとするものという他ありません。今西さんが抱く失望感や無力感に思いを致すにつけ、強い憤りを感じざるを得ません。

 弁護団は、不当な上告申立に決して屈することなく、最高裁において、一刻も早く、正しく証拠関係を評価した大阪高裁判決が確定するよう、全力で取り組んでいく所存です。

 今西さんは無実です。本件は明らかな冤罪です。無実の人が、一日でも早く日常を取り戻すことができるよう、また日本の刑事司法が冤罪を生み出すことのない健全なシステムであるよう、みなさまには今西事件を注視し続けていただきたくお願い申し上げます。

               2024年12月12日

              今西貴大氏弁護団

                 主任弁護人 弁護士 川﨑拓也

                   弁護人 弁護士 秋田真志

                   弁護人 弁護士 西川満喜

                   弁護人 弁護士 湯浅彩香

                   弁護人 弁護士 川﨑英明

今西事件逆転無罪判決の全文

弁護団に今西事件の逆転無罪判決の判決書全文(匿名版判決全文はこちら)が交付されました。判決書全文は、74頁にわたり今西貴大さんを無罪とすべき理由を詳述したものでした。最大の争点であった、傷害致死罪については要旨に基づいて解説を加えましたが、本記事では、全文の内容を踏まえて、いくつかの点を補充させていただきます。

まず、注目すべきなのは、傷害事件に関連して、「本件骨折の存在や性状によっては、その発生原因を被告人の暴行と推認するには足らず、事故等による可能性を医学的に否定し難い以上、被告人の原審供述を全て虚偽として排斥することはできない」とした上で、「被告人がZ(被害児の実母)及び被害児と同居を始めてから第3事件の発生に至るまでの過程において、被告人が被害児を虐待していた事実をうかがわせる事情はなく、Zの原審証言中にも被告人に暴力的傾向があったことを示すものはない…。この点は、むしろ、本件骨折が被告人の暴行により生じたとする推認を妨げる消極的事実に当たるものといえる」と明言したことです。原判決は、傷害を無罪としましたが、あたかも今西さんが、虐待親であるかのような前提で、その供述を信用できないと決めつけるかのような判示をことさらにし、今西さんは傷害事件についても、疑わしいものの無罪であるかのよう認定をしていました。しかし、高裁判決は、そのような原判決の見方を否定し、逆に「(今西さんが)被害児を虐待していた事実をうかがわせる事情はなく、…この点は、むしろ、本件骨折が被告人の暴行により生じたとする推認を妨げる消極的事実に当たる」としたのですから、原判決と異なり「無実」との判断を示したと言って良いでしょう。実際、今西さんがA子ちゃんを愛し、本当に大切に接していたことは明らかでした。原判決は、相互に類似性のない3つの事実を、あたかも全て虐待行為であるかのように印象づけた捜査機関の立件基づく予断に影響されたとしか考えられないのです。このような判示自体から今西さんの無実は明らかです。

 強制わいせつ致傷罪については、肛門から会陰部12時方向に僅か1cmの裂創があるだけで、その裂創を「自然排便が原因ではなく、異物挿入が原因と思われる」という検察側A医師の証言のみが証拠でした。しかし、高裁判決が指摘するとおり、「被害児の皮膚に荒れや乾燥があり、荒れ等が皮膚の柔軟性を失わせ、裂けやすくさせること、下痢により消化液が肛門周囲の皮膚に付着すると同様の異状が生じ得ることは、(検察側の)A医師、(弁護側の)B医師とも指摘しているから、肛門に張力が働いた時の皮膚の状態変化が問題とされる本件では、皮膚の異状と併せて裂傷が生じた可能性の検討が求められる」のです。ところが原判決は、「被害児に下痢便等があり、皮膚の乾燥の要因が加わったとしても、常識的に考えて、排便により本件裂傷が生じることは考えられない」などとした上で、A子ちゃんの僅か1cmの裂創を、「異物挿入」と決めつけたのです。高裁判決は、この原判決の認定を、「所論(控訴審における弁護人の主張を指します)も指摘するとおり、排便や皮膚の異状の存在が同裂傷の発生と結び付かない理由とされる『常識』の意味内容は不明である」「A医師の原審証言には、原判決が『常識』とした評価を補うほどに強い合理的な根拠が示されているとみることはできず、前記説示は、意味内容が不明な経験則を当てはめた不合理なものであると文字どおり、一蹴しました。このように、強制わいせつ致傷についても、原判決は不合理そのものであり、今西さんの無実は明らかなのです。

そして、傷害致死については、すでに速報としてかなり詳細に説明していますが、次の点を付け加えておきたいと思います。原判決が「非常に明快で、説得力に富む」として重視した検察側脳神経外科医であるD医師の証言について、「D医師は、原審において、…『脳深部に点状の血腫は、頭部CTと剖検結果と合致する』と述べたが、…写真中の脳の割面部分に見られる血腫を、後付けでCT画像上に大まかに当てはめて前記の見解を述べたとみる余地があり、そうとすれば、その手法が科学的妥当性を持つものといえるか甚だ疑問といわなければならない」「D医師による被害児の頭部CT画像の読影には、その手法や在り方に疑問を差し挟む余地(がある)」などと繰り返し指摘した上で、「D証言の信用性は、説明ぶりの印象によるのではなく、科学的な合理性の観点から検討されなければならないとしました。あまりに当然の判示ですが、この点でも、原判決が、印象によって今西さんに有罪判決を下していたことが示されているといわざるを得ません。3件ともに、今西さんの無実は明らかなのです。

今西事件で検察官の上告断念を求めるオンライン署名をお願いします。

今西事件の逆転無罪判決に対する検察官の上告阻止に向けてネット署名を始めました。無罪判決の事実認定の論理は明瞭で覆るはずがありません。事件から約7年、今西さんの身体拘束は、5年半にも及びます。検察官が上告をすることは、正義に反します。署名は、名前とメールアドレスを入れて、送られてくるメールをクリックするだけ(メール確認をお願いします!)のごく簡単なものです!

→短期間に6800筆を超える署名をいただきましたが、検察官が上告期限の12月12日不当にも上告しました。皆様の支援を怒りと闘志に変えて、最高裁で必ずや今西貴大さんの無罪を確定させるべく頑張ります。ご支援ありがとうございました。今後ともご支援をよろしくお願い申し上げます。

                            今西貴大弁護団