Author Archives: AKITAMasashi

速報:大阪高裁逆転無罪判決、検察上告断念・確定へ

大阪高裁が2019年10月25日に言い渡した、山内泰子さんに対する逆転無罪判決について、大阪高検が、上告を断念する旨を正式に発表しました。

この3年間に、山内さんやそのご家族が味わった苦しみからすれば、決して手放しで喜べません。しかし、この判決の確定が、SBS仮説の見直しにつながり、冤罪や誤った親子分離を生まないきっかけとなることを期待したいと思います。

大阪高裁無罪判決、海外でも話題に

笹倉教授が英文で報告されましたが(↓)、海外でもこの無罪判決が話題になっています。アメリカ、イギリス、スウェーデン、フランスなどから、無罪を喜び、山内さんのこれまでのご苦労をねぎらうメッセージが続々と届いています。フランスでSBS冤罪支援の中心を担っているシリルさんからは、1か月前にフランスでも、6年の裁判闘争の結果、静脈洞血栓症と髄膜炎という内因性の疾患である可能性が認められ、父親に無罪判決が出されたばかりだったと言う連絡をいただきました。国際的な情報共有の重要性を感じます。

速報:大阪高裁で逆転無罪判決

2019年10月25日大阪高裁第6刑事部(村山浩昭裁判長、畑口泰成裁判官、宇田美穂裁判官)は、生後2か月の孫を揺さぶるなどして死亡させたとして、一審で懲役5年6月の実刑判決を受けていた祖母山内泰子さんに、逆転無罪判決を言い渡しました。

判決では、一審に引き続いて控訴審でも検察側証人に立った溝口史剛医師の証言に詳細な検討を加え、その証言内容に強い疑問を投げかけました。その上で、以下のように述べたのです(一部、わかりやすいように表現を変更しています)。

「本件では、SBSに特徴的とされる、 ①硬膜下血腫、 ② 脳浮腫、 ③ 眼底出血の3徴候につき、 ①架橋静脈の断裂により通常生じるとされる硬膜下血腫はその存在を確定できないし、②脳浮腫及び③眼底出血については、その徴候を認めるとしても、別原因を考え得ることが明らかになった(眼底出血については、多発性ではあるが、多層性であると認めるだけの証拠はない。)。そして、本件は、一面で、SBS理論による事実認定の危うさを示してもおり、SBS理論を単純に適用すると、極めて機械的、画一的な事実認定を招き、結論として、事実を誤認するおそれを生じさせかねないものである。」

「本件は、客観的な事情から、被害児の症状が外力によるものとすることもできないし、被告人と被害児の関係、経緯、体力等といった事情から、被告人が被害児に暴行を加えると推認できるような事情もない。むしろ、医学的視点以外からの考察では、被告人が被害児に暴行を加えることを一般的には想定し難い事件であったといえる。それにもかかわらず、被告人が有罪とされ、しかも、経緯において同情し得る事情がないとして、懲役5年6月という相当に重い刑に処せられたのは、原判決が、当事者の意見を踏まえてのことではあるが、被害児の症状が外力によるものであるとの前提で、いわゆる消去法的に犯人を特定する認定方法をとったからにほかならない。このような認定方法が、一般的な認定方法として承認されていることは事実である。しかし、本件をみると、そこには、一見客観的に十分な基礎を有しているようにみえる事柄・見解であっても、誤る危険が内在していること、消去法的な認定は、一定の条件を除けば、その被告人が犯人であることを示す積極的な証拠や事実が認められなくても、犯人として特定してしまうという手法であること、さらには、その両者が単純に結びつくと、とりわけ、事件性が問題となる事案であるのに、その点につき十分検討するだけの審理がなされず、犯人性だけが問題とされると、被告人側の反証はほぼ実効性のないものと化し、有罪認定が避け難いこと、といった、刑事裁判の事実認定上極めて重大な問題を提起しているように思われる。」

SBS仮説の危険性を、的確に指摘しています。これまでSBS仮説に依拠して訴追・有罪判決や親子分離をしてきた関係機関に、根本的な反省を迫る内容と言えます。この判決が、日本におけるSBS仮説の見直しのために、今後の指針となることを期待したいと思います。

フランスでも無罪事件が相次ぐ

フランスでも近時、SBS関連の無罪事件が相次いでいるようです。2019年3月4日、レンヌで”Adikia association” https://adikia.fr/2019/03/vanessa-relaxee/ (フランス語のサイトです)というフランスのSBSえん罪被害者家族会の会長であるヴァネッサさんに無罪判決が言い渡されました。さらに5月30日には、SBS仮説に基づいて、一審で懲役8年の有罪判決を言い渡されていた父親に対し、ルーアン高等裁判所で、逆転無罪判決が出されました。これらの判決は、国際的にも重要な意義を持つと思われます。実は、フランスは、SBSを主導する意見が非常に強い国だったのです。スウェーデン政府機関SBUの報告書でも、中程度の質のエビデンス(証拠)があるとされた論文がふたつあると指摘されましたが、それはいずれもフランスの研究でした(Vinchon とAdamsbaum。これらの研究は、揺さぶりの自白を重視したものです)。いわばSBS仮説のリーダー的な国でも無罪が相次いだのです。では、無罪となった2つの事件は、どのようなものだったのでしょうか。

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SBS/AHT理論は、昆虫の飛行と同じ?-SBS/AHTをめぐる不可思議な議論

溝口解説にも出てきますが、SBS/AHT仮説への批判に対する再反論として、「昆虫の飛行」が持ち出されることがよくあります。アメリカの虐待関連の出版でも何度かこの喩えを見たことがありますので(例えば溝口医師も監訳者の1人であるキャロル・ジェニー編「子どもの虐待とネグレクト」金剛出版587頁)、アメリカでの議論の受け売りなのでしょう。しかし、その出典がアメリカにせよ、日本にせよ、SBSの議論として、およそ適切な喩えとは言えません。むしろ、議論をミスリードする誤った喩えと言うべきです。どういうことか、まず溝口解説をもとに、「昆虫の飛行」論を見てみましょう。

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海外の2018年以降の裁判例一覧

これまでもお伝えしてきたように、海外ではSBS/AHTに疑問を呈する裁判例が相次いでいます。このことについて疑義を挟む意見もあるようなので、当プロジェクトで把握できた2018年以降のSBS/AHTに疑問を呈する海外裁判例20件の一覧表を作成しました。ご参照ください。

「ふたつの正義」BSフジテレビで再放送5月5日深夜(6日未明)午前3時~

以前このブログでもご紹介したSBSを扱ったドキュメンタリー「ふたつの正義~検証・揺さぶられっ子症候群~」(第27回FNSドキュメンタリー大賞受賞作)が、BSフジテレビ(衛星放送-更新前まで、誤ってフジテレビ系列と記述しておりました。お詫び申し上げます)で再放送されます。5月5日深夜、6日未明午前3時という時間帯ですが、是非ご覧ください。↓

http://www.bsfuji.tv/fns_award/pub/index.html

柳原三佳著「わたしは虐待していない」が訴える事実の重み

(ケース1)「Hくんにはどう説明するんや、もしくは、説明しーひんのか。臭いものには蓋か!」…「警察はみんな調べてる。ハッタリや思うたら大間違いや!この9か月、あんたは自分の保身ばかり考えてたんやろけど、こちらも9か月、同じ月日が流れていて捜査してるんや」

(ケース2)「Tの頭はスカスカ。一生障害児」…「Tが障害児になったのはお前のせい。お前が蹴飛ばしたんやろ、投げ飛ばしたんやろ!」

どちらも、柳原三佳さんが出された「わたしは虐待していない-検証 揺さぶられっ子症候群」(講談社)からの引用です。これらはSBS/AHT仮説に基づいて虐待を疑われた二人の母親が、柳原さんの取材に対し、警察から受けた取調べの状況を語ったものです。時代遅れの取調べのようにも思えますが、決して古い取調べではありません。ケース1は、2015年9月、ケース2は、2018年9月の取り調べの状況です。SBS仮説による医師の鑑定を信じ込んだ警察官が、自白を強要している姿が生々しく浮かび上がってきます。このような取調べの実態が明らかになるのも、柳原さんが、丁寧に当事者の声を取材し続けたからにほかなりません。生の声が持つ重みを改めて考えさせられます。そして、えん罪被害の不条理さを私たちに教えてくれます。是非、多くの人にお読みいただきたい一冊です。

ところで、この本にも何度も言及がありますが、SBS仮説に基づいて鑑定意見を述べる医師の方々にも、考え直していただきたいことがあります。

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SBSをめぐるもう一つの出版-溝口医師のSBS解説

柳原三佳さんの「私は虐待していない-検証 揺さぶられっ子症候群」をご紹介しましたが、ほぼ時を同じくして、もう一つSBSに関する一般向けの出版がなされました。溝口史剛医師訳の「SBS:乳幼児揺さぶられ症候群-法廷と医療現場で今何が起こっているのか?」(金剛出版)です。これは、アメリカのSBS理論を主導してこられたロバート・リース医師が書かれた”To Tell The Truth”という法廷小説を、溝口史剛医師が日本を舞台に置き換えた翻訳をされた上、SBSの議論状況について、溝口医師の立場からの詳細な解説を加えたものです。溝口医師による解説部分は、「訳者まえがき」が3頁、「訳者あとがき」が、「訳者による解説」「追記」「さらに追記」という文章及び参考文献も含めて全文80頁に及んでいます(以下、「溝口解説」とします)。そして、溝口解説は、その紙幅の多くが、SBS検証プロジェクトの活動、特にホームページやこのブログに対する批判で埋め尽くされていると言っても過言ではありません。非常に丁寧にホームページやブログを確認して下さっていることが、よく判ります。通説化してしまっていたSBS仮説について、議論を巻き起こしたいと考えていた当プロジェクトとしても、多くの批判もいただきながら、議論が活性化し、建設的な話し合いができることは、まさに望むところです。

しかし、溝口解説は残念ながら、私たちの期待したような冷静で建設的な議論からはほど遠いものと言わざるを得ませんでした。

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柳原三佳さん「私は虐待していない-検証 揺さぶられっ子症候群」発売

このブログで何度かご紹介したジャーナリストの柳原三佳さんが、講談社から「私は虐待していない-検証 揺さぶられっ子症候群」を上梓されました。SBSをめぐる様々な状況を的確に指摘した意欲作です。当プロジェクトにも触れていただいています。是非、お読みください。