「三主徴(硬膜下血腫・網膜出血・脳浮腫)が揃っていて、3m 以上の高位
落下事故や交通事故の証拠がなければ、自白がなくて(ママ、「も」が脱落?)SBS/AHT である可能性が極めて高い」
これは、日本で虐待を防止しようと医師向けの啓蒙活動を行っているグループが公表している「SBS/AHT の医学的診断アルゴリズム」の冒頭に掲げられている表現です。つまり、養育者が「3メートル以下から落下したことがある」と説明しても、「虐待」である「可能性がきわめて高い」とされてしまうのです。
え?と思いませんか。3メートルと言えば、バスケットボールリンクの高さ(10フィート=約305センチ)とほぼ同じです。そんなところから赤ちゃんが落ちれば、三徴候以前に、命が助かる方が好運でしょう。3メートル以下で三徴候が生じないという根拠は全く不明です。実は、SBS論を推進する論者の間でも高さについての議論はまちまちで、1.5メートルと言ったり、90センチと言ったり、はたまた5メートルと言う医者もいます。さきほどの「アルゴリズム」は一体、どこから3メートルという数字にしたのでしょうか?その根拠は何なのでしょうか?
想像するところ、以前述べましたように「脳浮腫=びまん性軸索損傷」という前提があるのではないかと思われます。つまり、「脳浮腫=びまん性軸索損傷→びまん性軸索損傷は激しい衝撃がなければ生じない→高位落下でなければ生じない→3メートル以上の落下が必要→3メートル以下の落下の場合は揺さぶり等による虐待だ」という論理です。仮にこの想像が当たっていたとすれば、その論理は正しいでしょうか?
結論から言えば、これこそ「論理の飛躍」の典型です。SBS理論にみられる論理の誤りは、これからいくつも指摘していくことになりますが、ここで一つだけ指摘しておけば、仮に「びまん性軸索損傷は激しい衝撃がなければ生じない」というのであれば、「揺さぶりでも生じないはずだ」と考えるべきです。少なくとも「揺さぶりでも生じないのではないか」と疑問を持つべきです。ところが、SBS論者たちは、そのような疑問を持つこともなく、「交通事故か3メートル以上の高位落下の証拠がなければ」「揺さぶりなどの虐待だ」としてしまうのです。
日本では、この「医学的診断アルゴリズム」を学んだ多くの医師たちが、三徴候が見られた場合に「虐待の疑いが強い」として児童相談所や警察に通報を続けているのです。これでいいのでしょうか?
[…] 除外によって、その原因や行為者が推定できるかのような議論は、SBS/AHT論でも繰り返しなされてきました。「SBS/AHT の医学的診断アルゴリズム」にでてくる「三主徴(硬膜下血腫・網膜出血・脳浮腫)が揃っていて、3m 以上の高位落下事故や交通事故の証拠がなければ、自白がなくても、SBS/AHT である可能性が極めて高い」や、厚生労働省の『虐待対応の手引き』の「SBSの診断には、①硬膜下血腫またはくも膜下出血 ②眼底出血 ③脳浮腫などの脳実質損傷の3主徴が上げられ〔る〕。……出血傾向のある疾患や一部の代謝性疾患や明らかな交通事故を除き、90cm以下からの転落や転倒で硬膜下血腫が起きることは殆どないと言われている。したがって、家庭内の転倒・転落を主訴にしたり、受傷起点不明で硬膜下血腫を負った乳幼児が受診した場合は、必ずSBSを第一に考えなければならない」などの記述は、「高位落下」「交通事故」のほか「出血傾向のある疾患や一部の代謝性疾患」さえ除外できれば、原因は暴力的な揺さぶりだと推定できるかのような内容となっており、現に、従前はそのような推定に基づいて多くの虐待認定がなされてきました。しかし、三徴候の原因として、様々な内因が明らかとなり、安易な除外から揺さぶり認定などできないことが明らかにされてきています(オハイオ州の再審開始決定も参照)。 […]