今西貴大さん控訴審逆転無罪判決についての弁護団声明

 本日、大阪高等裁判所第3刑事部は、今西貴大さん(以下、「今西さん」といいます)に対して、

・一審無罪の傷害罪についての検察官控訴を棄却し

・強制わいせつ致傷罪と傷害致死罪について有罪とした原判決を破棄し、無罪

の判決を言い渡しました。

これにより、今西さんに対して起訴された全ての公訴事実について、無罪との結論が下されたこととなります。

弁護団としては、適切に証拠を検討し、強制わいせつ致傷罪・傷害致死罪について不合理な判断をした一審判決の誤りを正した大阪高裁第3刑事部の判決を、高く評価します。

 今西さんは、2018年11月27日に傷害致死罪で逮捕されて以降、約6年間にわたり、被疑者・被告人の立場に置かれました。本日の大阪高裁による判決が、検察官による上告なく確定し、一日も早く今西さんが被告人の立場から解放されることを強く望みます。

 本日の判決においては、まず傷害罪に関する検察官の控訴理由を一つ一つ検討し、その主張に根拠がないことを示しました。そして、女児に生じた骨折について、外力によるものとは認定できないとして、無罪の判決を言い渡した原判決を支持しました。

次に、強制わいせつ致傷罪については、原審で既になされた各証人の証言等を慎重に検討し、肛門裂傷が生じた原因が異物挿入であることの立証が、そもそもなされていないとし、原判決の判断構造そのものの問題点を指摘しました。また、弁護側の医師が指摘した皮膚疾患の可能性等についても言及し、それらに対する検討を欠いた原判決を強く批判しました。さらには、当審における双方の立証を踏まえても、異物挿入による肛門裂傷であることの根拠はなお示されていないとして、原判決を破棄すると共に自判し、無罪の判決を言い渡しました。つまり、裁判所は弁護人らが強く争っていた事件性について、弁護側の主張をほぼ全面的に採用する判断をしたものであり、高く評価できるものと考えています。

 また、傷害致死罪については、検察側医師の医学的所見についての証言のみによって、「強い外力」が加わったと推認すること自体に限界があることを明示したものです。この点は、医学的知見によって、揺さぶりといった暴行態様やその犯人まで推測できるかのような議論を展開してきたSBS/AHT仮説の問題性を的確に指摘したものと言えます。実際、本判決が繰り返すとおり、本件では「身体表面に外傷の存在を示す痕跡がなく」、その指摘は正当です。また、本判決も「同児に身体的虐待を加えていたことを示す事情は見いだせない」とするとおり、今西さんには暴力的な傾向など一切なく、虐待に該当するような事情がないことも併せて、本判決は、今西さんが無実であることを明らかにしたものと評価することができます。同様のえん罪事件が引き起こされないよう、本判決の認定が、今後のSBS/AHT事案において、重要な先例として活かされることを期待します。

 末尾になりましたが、支援する会、国民救援会、イノセンスプロジェクトジャパンの皆さんをはじめとして、今西さんの無実を信じて、多大なるご支援をいただいた皆様に心より感謝を申し上げます。

               2024年11月28日

                主任弁護人 弁護士 川﨑拓也

                  弁護人 弁護士 秋田真志

                  弁護人 弁護士 西川満喜

                  弁護人 弁護士 湯浅彩香

                  弁護人 弁護士 川﨑英明

11月28日(木)今西事件の控訴審判決です!

2024年11月28日午前10時30分から、大阪高等裁判所第3刑事部において、今西事件の控訴審判決が言い渡されます。判決を前に、争点とポイントを整理しておきます(イノセンスプロジェクトジャパンの解説はこちら)。

今西事件とは、2017年12月、今西貴大さんの養子(元妻の連れ子)であり、2歳4か月だったA子ちゃんが急変し、7日後に亡くなったこと、救急搬送されたA子ちゃんに、いわゆるSBSの三徴候(急性硬膜下血腫、脳浮腫、眼底出血)が認められたことから、急変時に一緒にいた今西さんが「何らかの暴行」を加えたと疑われて、まず傷害致死罪で逮捕・起訴され、その後に強制わいせつ致傷、傷害罪も追加起訴されたという事件です。

傷害致死罪の訴追の根底には、三徴候があれば頭部に「強い外力」が加わったはずだというSBS/AHT仮説が存在します。但し、近時のSBS/AHT仮説に対する疑念もあり、検察官も、検察側で証人に立った医師も、三徴候のみによって「強い外力」があったとしているのではないと主張します。その代わり、①CTで大脳深部に挫傷性の出血が確認できる、➁やはりCTで中脳周囲にクモ膜下出血が確認できる、③解剖時に脳幹の融解が進んでいた、などとします。そして、この①~③は「脳幹に強い力が加わった証拠だ」というのです。海外のSBS/AHT仮説でも見られない「独自の見解」です。実際にはA子ちゃんのCTで①大脳深部に挫傷性の出血など確認できませんし(控訴審で検察側医師も認めました)、➁クモ膜下出血は病気で生じた場合(内因)でも中脳周囲に集まりやすい性質を持っています。そもそも挫傷は脳の表面にできるもので、大脳「深部」に挫傷性の出血ができるということ自体が不自然です。③解剖時に脳幹の融解が進んでいたことを示す写真はない上、A子ちゃんの場合、急変後7日にわたりレスピレータ(人工呼吸器)と接続されていたため、脳幹の融解が進行したとしても何ら不自然ではありません。

 そして、急変直後のCT画像を見ても、A子ちゃんの脳幹に異常は見られませんし、そもそも脳幹は脳の奥にあり、外力の影響を受けにくいのです。仮に脳幹を損傷させるほどの強い外力が頭部に加わったというのであれば、その周囲にある大脳・小脳や頭蓋骨が損傷するはずです。しかし、A子ちゃんにはそのような所見は見られないのです。結局、検察側の主張は、目立った外傷がなくても、医学的に特別な症状があれば「強い外力」が推定できるという点で、三徴候説とその実質は変わらないのです。

Continue reading →

ロバーソン氏の事件は、他人事ではないー日本でも起こりうる冤罪の構造

死刑の執行が懸念されるロバーソン氏の事件は、決して他人事ではありません。ロバーソン氏が死刑判決を受けたのは、2002年のことでした。当時、すでにSBS仮説に対する懸念を示す見解も発表されるようになっていましたが、医学界ではSBS仮説が通説化しており、多くの医師や捜査関係者、児童保護機関が疑っていませんでした。そして、アメリカではロバーソン氏をはじめ、多くの養育者が無実の罪で刑務所に送られることになったのです。しかし、その後、低位落下や転倒といった軽微な外力や内因によって、それまでSBSに特徴的とされてきた症状が生じることが明らかとされ、SBS仮説への信頼が大きく揺らいだことは、これまでこのブログでも繰り返し述べて来たとおりです。

ロバーソン氏にとって不幸だったのは、亡くなったニッキーちゃんに生じた三徴候が肺炎・低酸素脳症といった内因だったこと、そしてロバーソン氏が自閉症スペクトラムであったために、コミュニケーションに難があった上、感情表出の乏しさから、初動でニッキーちゃんに対応した医療機関関係者らに「不審な父親」との予断が生まれてしまったことです。

このブログで報告してきた山内事件赤阪事件、さらに今西事件でも内因が原因で頭蓋内出血などの症状が発症していました。内因によってニッキーちゃんと同じ症状が出ることは明らかです。しかし、低位落下などの外力エピソードがある場合に比して、内因については、医師にもあまり意識されていません。日本では中村Ⅰ型と呼ばれる病態が数多く報告されてきたこともあり、医師の間でも比較的軽微な外力によってSBSの三徴候が生じることについては共通認識とされつつあるのですが、内因についての理解はまだまだなのです。せいぜい先天的な凝固障害が除外診断の対象とされる程度なのです。今西事件がその典型例ですが、今西事件以外にも、内因が関与したと思われる複数の案件が、SBS/AHT案件として全国の裁判で争われています。内因が深く関与したと思われるロバーソン氏の事件と同様の冤罪事件が、日本でも生まれる可能性が高いと言わざるを得ないのです。

さらに偏見による予断です。今西事件でも、捜査機関はおよそ虐待が原因とは言えないA子ちゃんの症状をあたかも今西貴大さんの虐待行為によるものだとして強引に立件しました(詳しくは、こちら)。捜査機関の狙いは、今西さんが虐待親であるかのような予断を与える印象操作だったとしか考えられませんが、この予断は現実に効果を発揮し、今西さんに対し、一審判決が懲役12年という重刑を宣告することにつながったと考えられるのです。自閉症スペクトラムが生んだロバーソン氏への予断は、日本でも決して対岸の火事とは言えないのです。

そして、一度有罪判決が確定してしまうと、その確定判決を覆すことは容易ではありません。日本では袴田事件がその象徴例です。アメリカでは、SBS/AHT事件をめぐる再審による雪冤が相次いでいますが(オハイオの例はこちら)、州毎に司法制度や運用が異なることも影響するのか、雪冤の状況は地域によって様々で、一律ではないようです。そして、再審が容易でないことは、日本と共通しています(もっとも、テキサス州では2024年10月9日に、1997年に起こったSBS事件への再審が認められています)。ロバーソン氏の場合は、アメリカのイノセンスプロジェクトをはじめ冤罪問題に取り組む多数の団体が、SBS仮説の非科学性を主張しつつ、ロバーソン氏の救済のために活動を続け、CNN、NBC、CBS、BBCなど大手メディアも取り上げましたが、死刑存置のテキサス州で死刑執行の寸前まで進んでしまったのです。袴田事件でも日本の検察は、袴田巌さんの有罪・死刑判決にこだわり、再審無罪判決後も検事総長が不満を表明し、反省の姿勢は一切ありません。このような検察のもとで、日本では死刑が存置され、再審法も不備なままです。ロバーソン氏の冤罪の構造は、そのまま日本にも当てはまっているのです。ロバーソン事件は、全く他人事ではないのです。

SBS仮説で死刑判決 執行の90分前に延期 テキサス州知事等に事件の見直しを求める申入れをしました

SBS検証プロジェクトは2024年10月18日に、テキサス州でSBS仮説により死刑を言い渡され、執行日が設定されていたロバート・ロバーソン(Robert Roberson)氏の執行を停止し、事件について見直すよう、テキサス州知事等に申し入れを行いました

ロバーソン氏は2002年に2歳の娘を揺さぶって殺害したとして、翌年、陪審裁判により死刑判決を言い渡されました。しかし、その後、女児が肺炎を発症していたことと、ベッドからの落下によって脳が低酸素状態に陥って症状を来したことが明らかになりました。

ロバーソン氏は、娘が病院に救急搬送された際、感情の起伏が見られないとして疑いをかけられたという事情もありました。それは氏自身の自閉症によるものであったことも判明しています。*詳細は、Innocence Projectによる記事を参照。

本件がえん罪であるとの様々な指摘に関わらず、テキサス州の裁判所はロバーソン氏の死刑判決の執行日を2024年10月17日に設定しました。

その後、SBS仮説による全米初の死刑執行を止めるために、裁判所、恩赦委員会や州知事、州議会に対する執行差し止めや再審理の申立てが行われました。最終的に、執行時間の90分前に、州の下院によってロバーソン氏の議会への召喚が申し立てられ、州裁判所がこれを認めたことにより、執行はいったん延期されました。

10月21日に下院の刑事司法委員会での聴聞が開かれることになっています。この委員会は、ジャンク・サイエンスに関連してテキサス州法を修正する必要があるかに関わるもので、このような形で執行を延期させるという方法は、今まで行われたことがありませんでした。今後、裁判所が再び、ロバーソン氏の執行を行うのか、あるいは事件を見直すのかを判断することになります。 *出典:Texas Lawmakers Did Something Unprecedented to Save an Innocent Man’s Life

本件は、いまだ予断を許さない状況にあります。

SBS検証プロジェクトは、10月18日に、テキサス州知事、テキサス州恩赦委員会、そして刑事司法委員会のメンバーに対して、本件の死刑執行を停止し、事件を見直すよう求める申し入れを行いました。ロバーソン氏の死刑執行が停止され、再審理によって有罪判決の見直しが行われることを求めます。

今西事件シンポジウム開催![2024年11月7日]

2024年11月7日18時より、JR大阪駅付近で今西事件の判決直前シンポジウムを開催します!

8月同様、企画運営はイノセンス・プロジェクト・ジャパンの学生ボランティア達です。SBS検証プロジェクトも共催しております。

参加無料、お申込みはこちらからお願いします!

11月28日の控訴審判決直前に、事件の全体像を振り返ります。是非お越しくださいませ!

===========

今西事件シンポジウム 
――今西貴大さんが経験してきたこと、私たちが取り組んできたこと――

■日時 2024年11月7日木曜日 18時~20時(開場17時45分)
■場所 AP大阪駅前内 APホールII
〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田1-12-1 東京建物梅田ビルB1F
*JR大阪駅から徒歩2分
*アクセスはこちら→ https://goo.gl/maps/Q5nPzUEXaNLgPs9G6

■要お申込み、参加無料
お申込み、お問合せはこちらから→ https://x.gd/w6vd2

■プログラム
1.はじめの挨拶
2.IPJ/IPJ学生ボランティアの活動内容について
3.今西事件の概要
4.対談
 川﨑拓也氏(弁護団主任弁護人、IPJ理事)
 今西貴大氏
 コーディネート 赤澤竜也氏(ジャーナリスト)
5.IPJ学生ボランティアと今西事件
6. 支援者からの挨拶
 菅家英昭氏(今西貴大さんを支援する会代表)など
7.弁護団から支援のお願いと御礼
 川﨑拓也氏、秋田真志氏、西川満喜氏、湯浅彩香氏、川﨑英明氏
8.ご挨拶:今西貴大氏
9.おわりの挨拶

■シンポジウムの趣旨
 本シンポジウムは、今西貴大さんが経験してきたことや今西さんご自身のお人柄について、より多くの皆さんに伝えるため、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の学生ボランティアが企画しました。IPJ学生ボランティアは、えん罪事件について勉強しており、えん罪の問題を広く知っていただくためにイベントを企画するなどの活動をしています。今西事件について、本シンポジウムの他、中高生や一般市民に事件について知ってもらうためのワークショップを開催するなどしました。
 また、今西さんとの面会を、勾留されていた時から保釈された現在も数多く行っています。これを機に私たちIPJ学生ボランティアの取り組みについても知っていただければ幸いです。

『ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族~検証・揺さぶられっ子症候群』がベネチアテレビ賞ドキュメンタリー部門で入賞

 「ふたつの正義」「裁かれる正義」に続く“検証・揺さぶられっ子症候群”シリーズ第三弾、「引き裂かれる家族」(関西テレビ2023年7月7日放送、ディレクター上田大輔)がベネチアテレビ賞ドキュメンタリー部門で入賞したとのことです。
 このドキュメンタリーは、息子さんへの虐待を疑われた赤阪さんと家族が引き離された年月を、5年半におよぶ密着取材で追ったものです。

 すでに数々の賞(第61回 ギャラクシー賞 テレビ部門選奨、貧困ジャーナリズム賞、第15回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル コンペティション部門・大賞、第4回 調査報道大賞 映像部門で奨励賞、2024年日本民間放送連盟賞 番組部門 テレビ報道 優秀賞)を受けているこのドキュメンタリーが、国際的にも高い評価を得たことになります。
 選考理由では、本作が冤罪が引き起こす精神的にも法的にも重大な影響を明らかにしたものであるとの指摘がなされています(「関西テレビからのお知らせ」より)。

 SBS/AHT仮説により、虐待を疑われた保護者とその家族は、かけがえのない日々を奪われてきました。現在、関テレNEWSで配信中とのこと、ぜひご視聴ください。

 また、NHK WORLD JAPANのサイトでは、英語字幕をつけたものをご覧いただけます。
A Family Torn Apart: Reexamining Shaken Baby Syndrome

「ふたつの正義」「裁かれる正義」に続く“検証・揺さぶられっ子症候群”シリーズ第三弾

今西事件、8月シンポジウムは大成功!次は判決直前シンポジウムです!

 8月28日に、今西事件シンポジウムを開催しました。このシンポジウムは、今西事件がどのような事件で、なぜえん罪が疑われているのかをより多くの人に知ってもらうために、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の学生ボランティアが共同で企画運営しました。SBS検証プロジェクトは、共催として参加しました。
 当日会場には80名以上が集まりました。今西弁護団と学生のパネルディスカッションの後には、オンラインで参加された今西貴大さんと今西さんのお母さんからもオンラインでメッセージをいただきました。シンポジウムを担った学生ボランティアの感想など、こちらからお読みいただけます。

 次回は、11月7日18時より大阪駅付近で判決直前シンポジウムを開催します。8月同様に企画運営はIPJの学生ボランティア達、SBS検証プロジェクトも共催として参加します。ぜひ、下記から参加のお申し込みをお願いします。

今西事件シンポジウム 
――今西貴大さんが経験してきたこと、私たちが取り組んできたこと――

■日時 2024年11月7日木曜日 18時~20時(開場17時45分)
■場所 AP大阪駅前内 APホールII
〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田1-12-1 東京建物梅田ビルB1F
*JR大阪駅から徒歩2分
*アクセスはこちら→ https://goo.gl/maps/Q5nPzUEXaNLgPs9G6

■要お申込み、参加無料
お申込み、お問合せはこちらから→ https://x.gd/w6vd2

■プログラム
1.はじめの挨拶
2.IPJ/IPJ学生ボランティアの活動内容について
3.今西事件の概要
4.対談
 川﨑拓也氏(弁護団主任弁護人、IPJ理事)
 今西貴大氏
 コーディネート 赤澤竜也氏(ジャーナリスト)
5.IPJ学生ボランティアと今西事件
6. 支援者からの挨拶
 菅家英昭氏(今西貴大さんを支援する会代表)など
7.弁護団から支援のお願いと御礼
 川﨑拓也氏、秋田真志氏、西川満喜氏、湯浅彩香氏、川﨑英明氏
8.ご挨拶:今西貴大氏
9.おわりの挨拶

■シンポジウムの趣旨
 本シンポジウムは、今西貴大さんが経験してきたことや今西さんご自身のお人柄について、より多くの皆さんに伝えるため、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の学生ボランティアが企画しました。IPJ学生ボランティアは、えん罪事件について勉強しており、えん罪の問題を広く知っていただくためにイベントを企画するなどの活動をしています。今西事件について、本シンポジウムの他、中高生や一般市民に事件について知ってもらうためのワークショップを開催するなどしました。
 また、今西さんとの面会を、勾留されていた時から保釈された現在も数多く行っています。これを機に私たちIPJ学生ボランティアの取り組みについても知っていただければ幸いです。

■今西事件とは?
 今西事件とは、今西貴大さんが2歳の長女に対して自宅で何らかの暴行を加え、死なせたなどとして起訴され、第一審が懲役12年を言い渡した事件です。今西さんは一貫して無実を主張しており、大阪高裁で控訴審が行われています。
 今西さんは約5年半もの間大阪拘置所に身体拘束されていましたが、5月に控訴審が結審した後、7月26日に保釈が決定しました。11月28日には、大阪高裁で判決の予定です。

国際セミナー「SBS/AHT事件における誤診と冤罪ー内因性疾患との鑑別に関するアメリカ法医学者からの提言」ーアメリカ法医学者が警鐘をならす内因を外傷と誤診するリスク

 2024年8月9日、東京でエヴァン・マッシズ(Evan Matshes)医師を招いて、国際セミナー「SBS/AHT事件における誤診と冤罪ー内因性疾患との鑑別に関するアメリカ法医学者からの提言」(共催:SBS検証プロジェクト、一般社団法人イノセンス・プロジェクト・ジャパン、甲南大学国際交流助成金、龍谷大学矯正・保護総合センター、科研費[基礎研究C]児童虐待事件における医学鑑定に関する横断的研究/代表徳永光)が開かれました。

 マッシズ医師は、カリフォルニア州サンディエゴのNational Autopsy Assay Group(全米解剖分析グループNAAG病理学研究所)のコンサルタントであり、同研究所で法医学・病理学を実践しておられます。マッシズ医師は、法医学者であると同時に、保安官と同様に捜査権限をもち(Sheriff-Coroner Autopsy Service)、事件現場での遺体検証なども行います。これまで全米において警察・検察側、弁護側双方から鑑定を求められ、多数回法廷で専門家証人として証言に立ってこられました。2018年にはNational Association of Criminal Defense Lawyers(NACDL 全米刑事弁護士協会)の月刊誌であるChampion誌の2018年11月号に、SBS/AHT問題に取り組むRandy Papetti弁護士との共著で「Law, Child Abuse, and the Retina(法、児童虐待、そして網膜)」と題する論文を寄稿され、網膜出血をSBS/AHTの徴候であるとみなすことの危険性について警鐘を鳴らしておられます。

 今回の講演は、2023年3月にSBS検証プロジェクトの共同代表である笹倉、秋田がイノセンスプロジェクトジャパン(IPJ)のメンバーとして、国際イノセンス・ネットワーク大会のために渡米した際、マッシズ医師の研究室を訪問し、「今西事件」についてのご相談をしたことがきっかけになっています(今西事件は、IPJの支援事件の一つです。訪米メンバーのうち3名が今西事件弁護団でした)。今西事件では、2歳4か月児に見られた三徴候が外力か内因かが問題とされています。そのような相談の経緯もあり、今回マッシズ医師にSBS/AHT事件における内因の誤診リスクについてお話いただくことになったのです。

国際セミナーには、SBS/AHT事件に関心を持たれている日本の多くの医師が参加されました。マッシズ医師の講演の概要をご報告します(秋田の理解に基づくもので、医学的な監修を受けている訳ではないことはお断りをしておきます)。

Continue reading →

速報:大阪高裁、面会制限の違法を認める!

2023年8月30日、大阪高裁第13民事部(裁判長裁判官 黒野功久、裁判官 馬場俊宏、田辺麻里子)は、児童相談所による一時保護継続と面会制限の違法性を指摘して、大阪府に対して損害賠償を命じた2022年3月24日大阪地裁判決について、大阪府の控訴を棄却すると同時に、母親側の附帯控訴による賠償額の増額を認める判決を言い渡しました。

 本件は、家庭内の低位落下事故であるにもかかわらず、児童相談所の依頼を受けた法医学者が、その症状を「頭部をかなり大きな揺さぶられて生じたと考えられる」などという誤った鑑定書を書き、児童相談所がその鑑定書を鵜呑みにしたことから、8か月にもわたり親子分離が継続したという事案です。

 大阪高裁は、この法医学鑑定について「判断及びその前提となる画像読影の正確性に疑義を挟まざるを得ない」「結論を導くための医学的知見及びそれを裏付ける医学文献等が何ら示されておらず…医師からはこれを補うような意見等も特段示されなかった…その…内容を信用するのは困難といわざるを得ない」としました。実際、この鑑定書は、本文はわずか16行、原判決も認定するとおり、画像誤読の上に、医学的根拠を全く示していないという代物で、どうみても「鑑定」の名に値しないものでした。このような鑑定書が、法医学者を名乗る医師によって作成されること自体に驚きを禁じ得ません。ところが児童相談所は、一目見て不合理であることが明白なこの鑑定書のみを根拠に、その信用性を何ら検証しようとすることなく、長期の親子分離を正当化しようとしたのです。その結果、実際に親子分離は8か月に及びました。

 児相が、そのような親子分離を正当化しようとする論理は、「受傷の原因が確定できないため具体的な再発防止策を講じることができない」というものでした。「受傷の原因が確定できない」というのは、児童相談所が、母親の説明を信用しようとせず、無視したからです。この点、裁判所は、本件の母親の説明が一貫して不合理な点もないこと、その主張を裏付ける医学的知見が提出されていること、本件の養育状況や母親の態度等から母親が「本件児童を虐待していたり、本件受傷の原因について虚偽を述べたりしているとは考え難い」としました。裁判所は、母親の供述を信用できるとして、本件が事故であることを明確に認めたのです。

 しかし、児相は、とにかく母親の説明を信用しようとせず、虐待の可能性が否定できない以上、親子分離だ、面会制限だと主張し続けたのです。多くの児相が、一方的な親子分離、面会制限を行うときに取ろうとする態度です。そこにある児相の姿勢は、「とにかく親子分離」「とにかく面会制限」です。事実を見極めようというものではありません。「思考停止」以外の何ものでもないのです。

 このような児相の姿勢はきわめて深刻な実務運用を招いています。虐待などしていないと訴える親と、ひたすら「虐待を疑う」児相側との間で信頼関係ができるはずもありません。逆に強い軋轢を生むことになります。その一方で、本件でもそうだったのですが、児相側が真相を見極めようとする訳でもありません。「原因不明である以上、対策が取れないから分離」の一点張りです。その結果、親子分離も面会制限も長期化してしまうのです。

 児相には、親子分離、面会制限が、「児童及び保護者の権利等に対する重大な誓約を伴うものであるし、児童と保護者の分離によって児童の安全が確保され、その福祉を保障できる場合がある一方で、分離が長期化することによって再統合が困難になるなど、分離によって児童の福祉が侵害される場合もあり得る」(判決)という発想が抜け落ちているのです。親子分離、面会制限は、それだけでは「チャイルドファースト」とはいえません。むしろ形を変えた国家による「虐待」となりうることを忘れてはなりません。

 判決は、面会制限の法的根拠についても重要な判断を示しています。親子分離された多くの保護者が勘違いしたまま、親子分離された以上、児相による面会制限はやむを得ないものと思い込んでいます。児相側は「会えません」というだけで、その法的根拠を説明しようとしないからです。実はそうではありません。児相が強制的に面会制限が可能なのは、児童虐待防止法12条に基づく「行政処分」という手続が行われた場合だけです。その処分は、「児相虐待を受けた児童」について、「当該児童虐待を行った保護者」との面会を制限するのですから、「児童虐待」の事実が具体的に認定される必要があります。本件の母親もそうですが、「虐待」の認定はされているわけではなく、実際に「面会制限の行政処分」は行われていません。では、それにもかかわらず、どのような法的根拠で児相は面会制限を続けたのでしょうか。実は、「行政指導」なのです。判決が述べるとおり、行政指導による面会制限は、「飽くまで相手方の任意の協力によって実現しなければならないから(行政手続法2条6号、32条1項)、保護者の同意(黙示的又は消極的な同意も含まれ得る。)に基づく必要があり、強制にわたってはならない」のです。実務では、児相側はそのような説明をしないまま、一方的に「会えません」と宣告し、どうすればいいかわからないまま多くの親が引き下がってしまいます。親が引き下がってしまうと、「行政指導に従った」とみなされてしまうのです。

 本件の母親は、児相に対し、粘り強く面会制限の法的根拠を尋ね、そして赤ちゃんとの面会を求め続けました。にもかかわらず約5か月にわたった事実上の面会制限について、判決は「法令上の根拠に基づかない強制的な面会制限」であったと認め、違法と判断したのです。

 なお、大阪府は、控訴審において、児童相談所長は一時保護をされた場合に「監護のための必要な措置」ができるとされていることから(児童福祉法33条の2第2項)、「強制力を有する行政指導が存在するかのような主張」もしましたが、判決は、「行政指導の一般原則について定めた行政手続法32条1項に照らしておよそ採用し難い」と斥けました。

まず、大阪府、児童相談所には、「とにかく親子分離・面会制限」の発想に縛られた「思考停止」に陥っていないか、十分に反省、検証をしていただきたいと思います。