Category Archives: 海外の議論状況

スウェーデン調査② 2018年2月9日スウェーデン行政最高裁判決

今回の現地調査で、2018年2月9日に、虐待の疑いをかけられたあるSBS事案に関して、スウェーデン行政最高裁判所が重要な判決を出していたことがわかりました。

この判決の趣旨は、基本的には2014年のスウェーデン最高裁判決(こちらも、翻訳をウェブでお読みいただけます。本ブログのこの記事をご参照下さい)と同趣旨です。2014年の最高裁判決は「暴力的な揺さぶり(=虐待)の診断についての科学的なエビデンスは不確実なものと判明した」として、ある刑事事件の被告人に逆転無罪を言い渡したのでした。

これに対して、2018年2月の判決は、SBSの診断に基づいて親子を分離した行政裁判所の判断に関するものでした。

行政最高裁判所は、次のように判示しました。

「SBU報告書からすれば,三徴候の存在から暴力的な揺さぶりを示す推認の科学的根拠は少ない。本件において,頸部の軟部組織の損傷など,他の証拠は存在しない。さらに,子どもの急性の症状の前にあったとされる出来事については,目撃者の証言もなければ他の状況証拠もない。本裁判所はこのような状況において, CCが暴力的な揺さぶり によって虐待されたということを,十分な確実性をもって調査できたということはできないと結論づける。
 次の問題は,頭部へのその他の暴力によって損傷が生じた可能性はあるかという点である。
 この点について,虐待の疑いはやはり三徴候の存在のみに基づくものであった。本件では,痣,軟部組織の腫脹,骨折など,頭部への暴力を示す所見は見られない。医師たちはCCの症状の原因となる暴力がどのようなものであるか,疑われる暴力と症状とがいかに関連するかについて,説明できていない。本件傷害は暴力が加えられたことを原因とするものであるとの結論は,本件で意見を述べた他の医師たちの意見からも支持されない。このような背景のもと,CCの頭部にその他の暴力が加えられたということは,本件医学的調査からは支持されないと本裁判所は判断する。
 結果的に,上述のとおり,CCが身体的な虐待を受けた蓋然性があると結論づけるために必要な証拠は,本件においては存在しない。」

 

このように、行政最高裁判所は、SBUの報告書(2016年)を引用した上で、本件で子どもが虐待を受けた蓋然性を否定したのでした。

RFFR(スウェーデンのえん罪被害者団体)の副代表であるMats Hellbergさんが元の行政最高裁判決を英訳して下さいましたので、日本語に翻訳することができました。まだ「仮訳」ではありますが、是非お読み下さい。

180915スウェーデン行政最高裁2018年2月9日判決 翻訳

Swedish Supreme Court Decision Japanese Translation 

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スウェーデン調査①

共同代表の秋田弁護士・笹倉教授を中心としたグループで、8月末から海外調査に出ています。

最初の訪問地は昨年も訪れたスウェーデン。なんと初日のインタビューはあのSBUで行うことができました。SBUとは、スウェーデンの医療技術評価委員会です。この委員会がSBSに関する検証を行い、いわゆる三徴候・暴力的揺さぶりについてこれまで執筆された論文のうち十分な科学的エビデンスに基づいたものはないという報告書を2016年に出したのです。SBUの報告書は社会に大きな影響を与えてきたといわれていますが、このSBSに関する報告書も同様に、国内外から大きな注目を集めました。

*SBU報告書の翻訳は龍谷法学50巻3号に掲載されています。

SBU報告書を作成した委員会の委員長であるカロリンスカ研究所のリノエ教授をはじめとして、3人の研究者が参加してのインタビューが行われました(詳細はまた別投稿にて)。

 

翌日は、カロリンスカ研究所にお招きいただき、リノエ教授からさらに詳細なレクチャーを受けました。

以上、SBU報告書の本拠地訪問から始まった海外調査について、簡単なレポートです。調査団はストックホルムでさらにインタビューを重ねた後、さらに隣国ノルウェー、そしてイギリスでもインタビューを行いました。次のレポートにご期待ください。

スウェーデン最高裁2014判決とSBU2016年報告書

龍谷法学50巻3号に、秋田・笹倉両代表による翻訳が掲載されています。ネットで読むことができますが、データにたどり着くのが少し難しいようです。以下の方法でお試しください。

①龍谷大学図書館の検索ページで「学内学術成果」のタブをクリック

https://library.ryukoku.ac.jp

②キーワードに「SBS」を入れて検索。

③論文がヒットするので、赤いバナーの「本文・要約」をクリック

51号には2018年2月に開催した国際シンポジウムから、ウェイニー・スクワイア医師の講演録(翻訳)を掲載しています。キース・フィンドレイ氏、ケイト・ジャドソン氏の講演録も今年度中に公表する予定です。ぜひご覧ください。

ニュージャージー州でのSBS無罪判決

2018年8月17日、ニューヨークのお隣にあるニュージャージー州の重罪裁判所(Superior Court 日本での地方裁判所にあたります)が、SBS事案で虐待を疑われた父親に対し、無罪判決を言い渡しました。

この裁判では、検察側の専門家証人と弁護側の専門家証人がそれぞれ証言し、SBS仮説の信頼性や、状態がおかしくなった赤ちゃんを揺さぶったり、お尻を強めに叩いたという父親の「自白?」をどう評価するかが問題になりました。 Continue reading →

ザ・ドキュメント「ふたつの正義」

久しぶりの投稿です。少し間があいてしまいましたが、今後また、この間のSBS検証プロジェクトの活動などについて投稿をしていきます。

さて、5月24日で関西テレビで放映されたザ・ドキュメント「ふたつの正義~検証・揺さぶられっ子症候群」をご覧になりましたでしょうか。

残念ながら深夜の放送でしたが、関東や東海などでも順次放映されたようです。

揺さぶられっ子症候群をめぐる最近の議論について、色々な関係者のインタビューをとおして丁寧に描いた作品でした。

このような番組を通して、この問題について幅広い方に知っていただければと思います。

雑誌『季刊刑事弁護』でSBS特集!

4月20日に発売された刑事弁護の専門誌『季刊刑事弁護』に、揺さぶられっ子症候群(虐待による頭部外傷)の特集が組まれました!

目次は下記のとおりです。是非、お読み下さい!

           =========

[特集]乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)事件を争う弁護活動
「本特集の趣旨」 川上博之
「乳幼児揺さぶられ症候群とは」 笹倉香奈
「判例分析①—争点と判断構造」 川上博之
「控訴審で何とか協力医の尋問にこぎつけたが、無念の敗訴—実録・SBS弁護の困難」 金杉美和
「捜査段階の留意点」 髙山 巌
「SBS事案の公判段階の弁護活動ではどのような点を注意すべきか」 秋田真志
「判例分析②—無罪事案」 我妻路人
「SBSが疑われた場合の児童相談所・家庭裁判所対応」 三村雅一
「虐待による頭部外傷」 荒木 尚

「インタビュー その鑑定医は、本当に専門家ですか?」     朴 永銖/インタビュアー:川上博之

スクワイア先生のTEDトーク、公開!

2月に来日された、イギリスの神経病理学者であるウェイニー・スクワイア先生TEDトークが公開されました。

TEDトークは、アメリカ発祥の大人気のプレゼンテーションイベントです。日本でもNHKの「スーパープレゼンテーション」という番組で放映されており、ご存知の方も多いかと思います。”Ideas Worth Spreading(広める価値のあるアイディア)”を標語に、世界の第一線で活躍しているその道の第一人者がプレゼンテーションを行うものです。

スクワイア先生のTEDトーク “I Believed in Shaken Baby Syndrome Until Science Told Me I Was Wrong (科学によって誤っていたことが明らかにされるまで、揺さぶられっ子症候群を信じていました)”  は、ここをクリックしてご覧下さい。

スクワイア先生は、もともとSBS仮説を信じて検察側の証人として証言をしていました。しかし、ゲッデスの研究などに接し、自分でも研究をしていく中でSBS仮説の問題点に気づきます。

トークでは、その後、捜査機関がどのように対抗してきたかなどが語られるとともに、現在の虐待の認定のあり方をどのように変えて行くべきかなどをお話しされています。

柳原三佳さん 現代ビジネスの記事「無実の親が刑務所に送られようとしている」

ジャーナリスト柳原三佳さんの新たな記事です。

「無実の親が刑務所に送られようとしている」ある学者たちの訴え

SBS検証プロジェクト共同代表笹倉香奈教授のインタビューがメインです。是非お読みください。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54698

柳原三佳さんのヤフー記事「事故か、虐待か?」

ノンフィクション作家 柳原三佳さんがヤフーニュースに記事「事故か、虐待か?『乳幼児揺さぶられ症候群』めぐり、分かれる医師の見解」を発表されました。

https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20180309-00082482/

当プロジェクトのほか、龍谷大学犯罪研究センター主催のシンポの詳細な紹介や、医師たちの議論状況についても触れられています。是非ご一読ください。

藤原一枝医師のブログ「チャイルドファーストだけではおかしい」

脳神経外科医の藤原一枝医師が、SBSの問題点を指摘するブログ「チャイルドファーストだけではおかしい。科学的根拠と人権に目を!」を公開されました。

頭部外傷について、臨床経験の豊かな医師による、貴重な検証です。是非、ご一読ください。

http://www.iwasakishoten.site/entry/gyakutai/ennzai