Category Archives: 海外の議論状況

2018年「AHTに関する共同声明」の翻訳を公開しました

 2018年に「乳児と子どもの虐待による頭部外傷に関する共同声明 Consensus statement on abusive head trauma in infants and young children 」が公表されました。

  米国を中心とした小児科医らが執筆し、米国小児放射線学会(SPR)、米国小児科学会(AAP)などが共同で 出したものです。この中に、日本小児科学会も参加しています。

 「共同声明」の内容は、SBS/AHT推進論者たちが自分たちの見解を改めて明らかにし、SBS/AHT仮説に疑義を唱える議論を批判するというものです。

 内容に新しい点があるというよりも、むしろ現段階でのSBS/AHT理論の推進論者の立場をまとめているものです。従って、どのような問題意識のもとで議論が行われているのかが非常によく分かります。

 同時に、その内容には見過ごすことのできない問題点が数多くあります。これまでのSBS/AHT理論に対して向けられてきた「循環論法」や「自白に依存した危うい理論の危険性」などの批判には、まったく応答していません。

 SBS検証プロジェクトは許諾を得て「共同声明」の全文を翻訳し、その検討を行うことにしました。2月のシンポジウムでも詳細な検討をする予定です。是非、共同声明の翻訳と、これからブログにアップしていく検討を併せてお読み下さい。

 「共同声明」の全文翻訳は、こちらからダウンロードしていただけます。

2月16日(土)東京でもシンポ!

SBSの連続国際セミナー・シンポジウムを行います。

2月12日(火)午後6時30分~8時30分 大阪弁護士会館2階

2月14日(木)午後1時~6時 岐阜 朝日大学5号館512講義室

2月16日(土)午後1時~6時 東京霞ヶ関弁護士会館2階クレオ

速報・大阪高裁も無罪を維持!

大阪高裁第2刑事部(宮崎英一裁判長、杉田友宏裁判官、近道暁郎裁判官)は、2019年1月18日、長女を揺さぶるなどの暴行を加えて死亡させたとして傷害致死で起訴され、一審奈良地裁で無罪とされた父親について、一審判決を支持し、検察官の控訴を棄却しました。大阪地裁での無罪判決に続いて、SBS仮説に対する裁判所の慎重な姿勢が示されたと言えるでしょう。

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2月14日岐阜SBS/AHTシンポジウム 揺さぶられっこ症候群 ~わかっていること、わかっていないこと~12日、大阪でプレセミナーも開催

2月14日(木)13時~18時 岐阜の朝日大学(5号館512講義室)で国際シンポジウム揺さぶられっこ症候群 ~わかっていること、わかっていないこと~を開催します。

このシンポジウムに先立ち、大阪では、2月12日(火)18時30分~20時30分(大阪弁護士会館)「SBSをめぐる国際セミナー」を開催します。

 下記のチラシをご確認の上、是非ご参加ください。

2018年2月シンポジウムの連載開始!

お待たせいたしました。

今年2月に京都で開催された国際シンポジウム「揺さぶられる司法科学−揺さぶられっ子症候群(SBS)仮説の信頼性を問う」の講演録が公刊されました。連載形式の初回は、秋田報告・笹倉報告・スクワイア基調講演の三本を収録しています。

龍谷法学51巻1号 https://opac.ryukoku.ac.jp/webopac/TD32071162

画面の赤いバー左端にある「本文・要約」をクリックしてご覧ください。

すでに連載第二回、第三回の原稿は入稿済みで、順次公刊される予定です。第二回にはフィンドレイ基調講演・ジャドソン基調講演の二本、第三回にはパネルディスカッションが収録されています。お楽しみに!

なぜ議論がすれ違う?-”わからない”ことはわからない

SBS検証プロジェクトを立ち上げて以来、さまざまなご意見をいただく機会が増えました。少なくとも「三徴候があれば、3メートル以上の落下や交通事故などのエピソードがなければ、自白がなくとも原則として揺さぶりだと判断してよい」などという乱暴な議論は少なくなってきたように思えます(とは言え,いまなお厚労省のマニュアル「子ども虐待対応の手引き(平成25 年8月 改正版)」の同旨の記述は修正されていませんし,「交通事故か揺さぶり以外に三徴候はあり得ない」という医師の意見も出されています)。私たちの検証の呼びかけによって、一歩ずつでも議論が深化していくことは喜ばしいことです。私たちの検証の呼びかけに対し、ご批判の声も聞こえてきます。もちろん、私たちの表明する見解が、常に正しいなどと言う考えはありません。ただ、残念ながら、それらご批判の中には、私たちの見解とかみ合っていないと言わざるを得ないものが多く含まれているようです。

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国際シンポジウムを開催します!

前回のシンポジウムから約一年後にあたる2019年2月、二度目の国際シンポジウムを開催します。

2月14日 午後1時から6時 朝日大学(岐阜県)

2月16日 午後1時から6時 弁護士会館クレオ(東京都)

海外からは前回ゲストのウェイニー・スクワイア医師に加えて、アンダース・エリクソン医師(ウメオ大学医学部)をお招きしています。

エリクソン医師のご専門は法医学です。スウェーデン法律諮問委員会の顧問医師として行った証言は、2014年スウェーデン最高裁の無罪判決を導くにあたって、重要な役割を果たしました。2016年のSBU報告書を執筆した委員会のメンバーでもあります。

シンポジウムではSBSについて「分かっていること」「分からないこと」を明らかにした上で、どのような体制や研究が必要なのかを、議論します。医療・福祉・法律という複数の観点から、立場にこだわらず率直な議論ができる場を作りたいと思っています。詳細は近々、アップします。ぜひご参加ください!

アメリカで相次ぐSBS仮説を見直す裁判例

すでにお伝えしたニュージャージー州の無罪判決オハイオ州控訴審の有罪判決破棄判決以外にも、アメリカでSBS仮説の見直しを迫る裁判例が相次いでいます。

2018426日、テネシー州の少年裁判所は、生後6カ月の女児に三徴候(硬膜下血腫、眼底出血、びまん性軸索損傷=DAI)が認められたという専門家の鑑定によって、若い両親(18歳以下)による虐待が疑われた事例について、児童保護当局による親子分離の申立を却下しました。この裁判では、両親側の専門家が、当局側専門家の鑑定について、びまん性軸索損傷は認められず、硬膜下血腫も血栓静脈の見間違いの可能性があるなどと指摘しました。日本でも、近時一部の小児科医らが、裁判において、脳浮腫の原因を医学的な証拠がないにもかかわらず広範な脳実質損傷があると決めつける例が多く見られます。大変参考になる裁判例です。少年裁判所は、当局側専門家の鑑定に疑問を呈するとともに、両親による養育に問題がなかったことなども指摘し、虐待について明白で説得的な証拠はないとして、児童保護当局の申立を却下したのです。

他にも多くの裁判例がでています。 Continue reading →

アメリカ オハイオ州でSBS有罪判決を破棄~医師の役割は?

2018年8月17日のニュージャージー州での無罪判決に引き続いて、アメリカ オハイオ州の控訴審裁判所が、2018年10月5日、一審の陪審有罪判決を破棄し、再審理を命じました(IN THE COURT OF APPEALS OF OHIO SIXTH APPELLATE DISTRICT SANDUSKY COUNTY/State of Ohio v. Chantal N. Thoss /Court of Appeals No. S-16-043 Trial Court No. 15 CR 57)。

オハイオの事件は、生後6カ月の赤ちゃんのベビーシッターが、オムツを替えようとしてソファに赤ちゃんを置いて、少しその場を離れたところ、赤ちゃんがソファから落下した後、急変したというものでした。日本でも同じような低位落下が問題となっている裁判が、何件も係属しています。

一審の検察側証人だった小児科医は、事件当日に「赤ちゃんの症状は揺さぶりによるもので、被告人がその犯人だ」と決めつけていました。典型的なSBS仮説による意見です。その小児科医の意見を鵜呑みにした捜査機関は、揺さぶりを否定するベビーシッターの供述を無視し、その小児科医の意見のみを根拠に、ベビーシッターを起訴したのです。

実は、その赤ちゃんの初期治療に当たった救命医たちは、虐待の証拠はないと判断していました。検察側小児科医のみが、虐待だと決めつけていたのです。しかも検察側小児科医は、赤ちゃんに古い慢性血腫があることを無視していました。頭蓋内に古い血腫があった場合には、軽微な衝撃で再出血を生じてしまうリスクが高くなることはよく知られています。

一審の陪審は、この小児科医の証言を信じて有罪とされ、ベビーシッターは禁錮8年を言い渡されてしまいました。しかし、控訴審は、小児科医が赤ちゃんの古い血腫を無視しているのは不合理であること、ベビーシッターに動機はなく、その供述が信用できること、他にベビーシッターによる虐待の痕跡が全くないことなどを重視し、陪審の証拠判断は明白な誤りであるとしたのです。日本の裁判でも参考になる判断です。

なお、判決は、弁護側の専門家証人が、「赤ちゃんの症状だけから虐待を受けたと判断されたことは驚きである」とし、「医師の役割は、傷害を解釈し、情報を捜査官に与えて補助することであっても、捜査官となって犯人が誰かを特定することではない」と証言した部分を詳細に引用しています。その引用の背景には、検察側小児科医の証言が、医師としての領域を明らかに超越してしまっているという判断があったものと思われます。

ちなみに、この小児科医は、別の事件で、保育施設で3歳児の転倒による大腿骨折を虐待だと決めつけた意見書を提出しました。この小児科医は、州のために虐待事案の調査に協力し、意見書を提供する契約をしていたのです。その意見書のために、保育担当者は、解雇され、起訴されてしまいました。しかし、その事件は弁護側専門家証人が、小児科医の意見書には多くの誤りがあると指摘したことから、検察が起訴を取下げたのです。現在、保育担当者は、その小児科医師を相手に損害賠償の裁判を提起しています。

捜査機関に協力する医師の役割やその意見の在り方については、様々な問題がありますが、日本でも今後真剣な検討が必要であることは間違いありません。