Category Archives: SBS検証プロジェクト

大阪地裁で無罪判決!

3月17日、SBS検証プロジェクトのメンバーが担当した大阪地裁のSBS事件で、無罪判決が出ました。

SBS事件について、実に10件目の無罪判決です。

誤った虐待判断は、犯人と疑われた人だけでなく、その家族を切り裂きます。ご家族の5年間の苦しみを追ったドキュメンタリーと、関連記事をぜひご覧ください。

シンポジウム●●それでもえん罪はなくならない―連続無罪判決後、「揺さぶられっ子症候群(SBS)」問題は終わったか?―

●日時● 2023年3月3日 18時から20時

●会場● 対面開催:AP大阪駅前(JR大阪駅より徒歩2分) *先着50名様限定

https://goo.gl/maps/8RCQjmbPQ7gjQY8JA?_fsi=Tmtj42ug

  *ZOOM併用でのハイブリッド開催です

●お申込み方法● 必ずお申込みをお願いいたします。参加費は無料です。

   対面 → https://bit.ly/3QVmbq9  (先着50名)

   オンライン → https://bit.ly/3HlbSsw

●開催趣旨●   赤ちゃんを揺さぶって虐待したというSBS/AHTの事案は、本当に多発しているのか、その背景にあるSBS/AHT仮説に科学的なエビデンスはあるのか。このような問題意識からSBS検証プロジェクトが立ち上げられ、SBS/AHT事件の本格的な検証が開始されてから5年が経過しました。この間、SBS/AHTをめぐる議論は進展し、SBS/AHT仮説の科学的正しさが検証され、SBS/AHTのえん罪事件について、2018年以降に9事件で無罪判決が確定しました。

 それでは、SBS/AHT問題は解決したのでしょうか。確かに最近では、SBSの「三徴候」(三つの症状)のみに基づいて起訴される事案は減りました。しかし、伝統的なSBS/AHT仮説に依拠する厚労省「子ども虐待対応の手引き」はいまだに改訂されていません。また、個々の事件では別の「徴候」に基づく虐待診断・判断が行われ続けています。その一つが、虐待えん罪・今西貴大さんの事件です。本シンポジウムでは、SBS/AHTをめぐる議論のこの5年の展開を振り返るとともに、今西貴大さんの事件を通して現在の議論の問題点を皆さんと考えます。是非ご参加ください。

●プログラム●

1.はじめに  川上博之(⼤阪弁護⼠会)

2.今⻄貴⼤さんの事件の現状 弁護団:秋⽥真志、川﨑拓也、⻄川満喜、湯浅彩⾹、川﨑英明(⼤阪弁護⼠会) 聞き⼿:IPJ学⽣ボランティア

3.今⻄貴⼤さんと家族からのメッセージ

4.家族会の活動の軌跡 菅家英昭(SBS/AHTを考える家族の会代表、今⻄貴⼤さんを⽀援する会代

表)

5.SBS検証プロジェクト5年間の歩み    古川原明⼦(⿓⾕⼤学)

6.海外からのメッセージ    ウェイニー・スクワイア医師(イギリス、脳神経病理医)

7.おわりに    笹倉⾹奈(甲南⼤学)

司会  宇野裕明・陳愛(⼤阪弁護⼠会)

●共催● SBS検証プロジェクト、 イノセンス・プロジェクト・ジャパン、SBS/AHTを考える家族の会、今⻄貴⼤さんを⽀援する会

●協力●今⻄事件弁護団、⿓⾕⼤学犯罪学研究センター・科学鑑定ユニット、IPJ学⽣ボランティア(京都⼥⼦⼤学、甲南⼤学、獨協⼤学、⽴命館⼤学、⿓⾕⼤学)、KONANプレミアプロジェクト「冤罪事件の研究を通じた法教育の実践プロジェクト」

今西事件の詳細はこちら → https://innocenceprojectjapan.org/imanishi/

 

関テレ「裁かれる正義」がNYフェスティバル2021の2部門ファイナリストに!

2019年11月に放映された関西テレビ制作「ザ・ドキュメント 裁かれる正義 検証・揺さぶられっ子症候群」(英語タイトル: Justice on Trial: Reexamining Shaken Baby Syndrome)が「ニューヨークフェスティバル2021」において、2部門でファイナリストに選ばれました

*ニューヨークフェスティバルについては、こちらをクリック

2019年10月25日に大阪高裁で逆転無罪判決を言い渡された女性とその家族、女性の事件に関わった医師や法律家を追いながら、SBSについて検証を行った作品です。

同作品はこれまで、第70回文化庁芸術祭 テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞、第27回坂田記念ジャーナリズム賞、第40回「地方の時代」映像祭2020放送局部門選奨、第9回日本医学ジャーナリスト協会賞優秀賞を受賞し、SBSに関わる関西テレビの報道は、民放連、ギャラクシー賞なども受賞しています。

朝日新聞「揺さぶり相次ぐ無罪・処罰と乳幼児の安全区別し判断を」へのコメント

 12月21日付の朝日新聞朝刊に、大久保真紀編集委員によるSBS/AHT事件に関する「記者解説・揺さぶり相次ぐ無罪」(以下、本件記事といいます)が掲載されました。SBS検証プロジェクト共同代表の秋田・笹倉のコメントも掲載されていますが、本記事には全体として重大な問題があると考えています。

 以下、その問題点のうち、いくつかを指摘します。

1.無罪判決の原因は?

 本件記事は、SBS/AHT事件で無罪判決が相次いでいる根本的な理由について分析を加えていません。

 「病気やソファから落ちたことによって頭部の出血などが起きた可能性があると弁護側が主張、裁判所がそれを認める形で無罪判決が相次いでいる」という事実を指摘した上で、「大阪高検検事」の論文を引用し、「裁判員裁判で医療記録や解剖記録、あざの写真などの重要な客観証拠が、裁判員には理解しがたいまたは刺激が強いとして採用されないこと」を無罪判決多発の原因として挙げるにとどまっています。「大阪高検検事」の論文は、あたかも「重要な証拠が採用されなかったから無罪になったのだ」と主張するかのようです。

 しかし、これまでの無罪判決では子どもの症状に低位からの落下や静脈洞血栓症など、他の原因があった可能性が高いことが明確に指摘されています。そもそも、裁判員裁判以外による無罪判断の方が多いのです。これらの事実にもかかわらず、「大阪高検検事」の論文の当該部分を引用することはミスリーディングです。

 それどころか、本件記事は、これまでの無罪判決で指摘されてきたSBS理論自体の問題点や検察側証人の証言の問題点などについて一切指摘しません。これらの諸点に関する指摘や分析なくして、SBS/AHT事件で多発している冤罪原因を検証し「過ちに学ぶ」ことなどできるのか疑問です。事実を重視しなければならない「中立的」なメディアとしては、これまでの無罪判決の理由をもっと深く掘り下げるべきだったのではないでしょうか。

 大久保記者には上記の諸点を今後分析していただき、すでに過去に有罪判決が言い渡されていた事案についても問題がなかったかを検証していただきたいと思います。これこそが、児童虐待問題をいっかんして取材してこられた記者としての責任ではないでしょうか。


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笹倉共同代表、イノセンス・ムーブメントで語る

日本時間12月9日午前9時半よりオンラインで開催された、「アジアと米国におけるイノセンス・ムーブメント(Trends in the Innocence Movement in Asia and the U.S.)」(主催:U.S.-Asia Law Institute)にて、本プロジェクトの共同代表である笹倉香奈教授が日本の無罪事件をめぐる最近の動向について報告しました。

イベントには、中国、日本、台湾、米国の専門家が集まり、まずは冤罪防止にむけた各地域の近年の取り組みについての情報交換から始まりました。笹倉共同代表は、日本における最新のSBS/AHT事案の動向、特に無罪事案の多さを述べた上で、SBS検証プロジェクトがどのような役割を果たしてきたのかを簡潔明瞭に報告し、網羅的な活動が成果を上げていることに参加者からは称賛の声が上がりました。

このイベントが特に議題として掲げていたのは、刑事裁判の証拠からジャンク・サイエンスを排除することの重要性です。笹倉共同代表の報告は、まさにこの課題に関わるものだったと言えます。

イベントの記録は後日、U.S.-Asia Law InstituteのHPにて公開されるとのことです。私たちが海外の研究者・実務家との交流に学び、力づけられてきたように、SBS検証プロジェクトの経験が有用な知見として共有されていくことを誇らしく感じました。

また、かみ合わない議論が…田中嘉寿子大阪高検検事の論文の何が問題か?

このブログで、酒井邦彦元高松高検検事長が当プロジェクトに言及した論文の問題点を5回に分けて詳しく指摘しました((1) (2) (3) (4) (5))。今度は、現役の検察官である田中嘉寿子大阪高検検事が、「警察學論集」という警察官向けの雑誌において、当プロジェクトを名指しで批判する論文(「虐待による頭部外傷(AHT)事件の基礎知識(上)」警察學論集73巻8号106頁・立花書房/2020年。以下、「田中論文」)を発表しました。田中検事は、同じ立花書房から「性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック」(2014年)を出版していますので、検察庁内で、児童虐待事件の捜査を主導してきた立場と言えるでしょう。当プロジェクトの活動が、検察庁に強く意識されていることが窺えます(もっとも、田中論文は「本稿は、当職の私見であり、検察庁の公式見解ではないことをお断りしておく」としています)。しかし、酒井論文と同様、田中論文は、非常に残念な内容と言わざるを得ません。いくつか、その問題点を明らかにしましょう。

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朝日新聞「赤ちゃん、泣きやまない時」の問題点 その2

 すでに秋田弁護士が詳細な反論を書いていますが、2020年7月19日の朝日新聞・朝刊オピニオン面記事「(フォーラム)赤ちゃん、泣きやまない時」には、様々な疑問があります。私からも、いくつか指摘しておきたいと思います。

 第一に、SBS/AHT記事をめぐる論争の争点がどこにあるのかを、本特集記事は理解して組まれていないように思います。虐待により頭部に外傷を負う子どもがいるということには争いがありません。私たちが一貫して申し上げているのは、それを「三徴候」などで診断することに科学的根拠があるのかどうかという点、「三徴候だけでなく慎重な診断をしている」と言われますが、その診断は一体どのように行われているのか、本当に慎重な診断が行われているのか、という点です。そして「わからない」ことを「わからない」と認め、これまでの誤った診断に真摯に向き合った議論をすべきではないかということです。

 本記事は、AHTの問題について「科学的に何がいえるのか」ではなく、アンケート調査の結果などから「揺さぶりによる虐待がありうる」ことを述べるのみです。しかし、これは議論の本質を捉えたものではありません(なお、本特集記事のフォーラムアンケートには、実際に「揺さぶった」という回答はありません。また、藤原医師の研究も「揺さぶった」がどの程度のものか、揺さぶりによって三徴候等が生じたのかについても言及はありません)。

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厚労省からの「回答」-官僚答弁とはこのことか…

先のブログで触れたとおり、当プロジェクトは、厚労省の「令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業」の調査研究課題32「児童相談所における虐待による乳幼児頭部外傷事案への対応に関する調査研究」の公募に対し、2020年5月25日付で厚労省に対し、疑問点や問題点を指摘した上で、これらの指摘への回答を求める申入書を発送しました【申入書の本文はこちら】。しかし、1か月経っても回答はなく、窓口となっている少子化総合対策室に電話をして回答について確認してみました。2回ほど担当者不在とのことでつながらず、ようやく最初の電話から6日後、3回目の電話で担当者と話すことできました。その担当者のお話には、少し驚かされました。

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厚労省の令和2年度「調査研究事業」公募への疑問と申入れ

厚労省の行う「令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業」の中の調査研究課題32として、「児童相談所における虐待による乳幼児頭部外傷事案への対応に関する調査研究」なるものが公募されました。公募内容をお読みいただけるとお判りいただけるかと思いますが、かなりの問題がある内容です。

公募開始は4月30日、わずか1か月の公募期間でした。5月29日(金)が締め切りです。これで、調査研究の応募に向けた検討を行う時間があるのでしょうか。

さらに、公募内容には、SBS仮説を前提とするかのような記載もあります。近年指摘されているような、SBS仮説やSBSの診断基準、特に虐待の誤認のリスクといった問題点が研究の対象となるのか、大いに疑問です。

そこで、当プロジェクトは5月25日付で厚労省に対し、疑問点や問題点を指摘するともに、これらの指摘への回答を求める申入書を発送しました。【申入書の本文をこちらでお読みいただけます

厚労省が編集した「子ども虐待対応の手引き(平成25年8月改正版)」におけるSBSに関する記述には様々な問題点があります。この調査研究事業は、「手引き」の改訂につながる基礎調査研究でもあると思われます。SBS仮説の問題点も含めた幅広い視点からの研究が行われることが不可欠です。厚労省には、科学的な視点からの研究を行うよう、求めていきます。

SBS検証プロジェクト共同代表 笹倉香奈・秋田真志

解説「SBS/AHTについてのかみ合った議論のために―AHT共同声明を中心に」を公開しました。

このブログ開設以来、SBS検証プロジェクトは、約2年半の間に多くの発信をしてきました。これまでの発信のうち、特に「AHT共同声明」の問題点について、1つにまとめた解説「SBS/AHTについてのかみ合った議論のために―AHT共同声明を中心に」SBS検証プロジェクトのホームページで公開しました。是非ご一読ください。→こちら