フランスでも近時、SBS関連の無罪事件が相次いでいるようです。2019年3月4日、レンヌで”Adikia association” https://adikia.fr/2019/03/vanessa-relaxee/ (フランス語のサイトです)というフランスのSBSえん罪被害者家族会の会長であるヴァネッサさんに無罪判決が言い渡されました。さらに5月30日には、SBS仮説に基づいて、一審で懲役8年の有罪判決を言い渡されていた父親に対し、ルーアン高等裁判所で、逆転無罪判決が出されました。これらの判決は、国際的にも重要な意義を持つと思われます。実は、フランスは、SBSを主導する意見が非常に強い国だったのです。スウェーデン政府機関SBUの報告書でも、中程度の質のエビデンス(証拠)があるとされた論文がふたつあると指摘されましたが、それはいずれもフランスの研究でした(Vinchon とAdamsbaum。これらの研究は、揺さぶりの自白を重視したものです)。いわばSBS仮説のリーダー的な国でも無罪が相次いだのです。では、無罪となった2つの事件は、どのようなものだったのでしょうか。
まず、ヴァネッサさんの事件については、英語番組をユーチューブで見ることができます。
ヴァネッサさんのお子さんは、外水頭症だったようですが、画像診断で揺さぶりによる虐待を受けたと誤診されてしまったとのことです。外水頭症は頭蓋内に低吸収域(古い出血と似た像)が確認されますので、揺さぶりによる外傷だと誤認されたようです。実際には血腫は認められず、お子さんに頭部外傷特有の症状があったわけでもないというのが、弁護側で証言した医師の見解です。明らかにえん罪の事例ですが、それでも雪冤するために、4年もの月日を要したのです。
5月の逆転無罪の事例は、2011年に乳児が死亡し、2014年に起訴されたとのことです。1審では2018年4月に懲役8年の有罪判決が言い渡されましたが、控訴審で約1年の審理を経て、原判決が破棄されたということです。控訴審では2人の弁護側専門家証人が、やはり被害児には、外水頭症があったことなどを証言したことが、破棄の決め手になったようです。
有罪方向の証言をした専門家証人は、 Dr Laurent-Vannier と Pr Adamsbaumという医師ですが、いずれもフランスでは、SBS仮説を主導する医師です。そして、先述のとおり、Adamsbaumは、スウェーデンSBUの報告書にもその論文が言及されており、国際的なSBS論争にも影響力のある人物です。Adamsbaumの証言の信用性が否定されて、逆転無罪判決が出された意義は、非常に大きいものがありそうです。
フランスに限らず、どこの国でもSBS仮説を主導する医師はそれなりに限られているようです。かつてスウェーデンでは、Ottermanという小児科医が、強い影響力を持っていたと言います。日本でも、同様の傾向が見られるようです。SBS事案では、特定の小児科医や、時には児童虐待論を主導する内科医(経歴としては小児頭部外傷の臨床経験があるとは思えない医師です)が、検察側証人として、出廷することが多いようです。彼らの議論に、本当に十分な科学的根拠があるかは、冷静に見極めたいところです。