2019年1月11日、大阪地裁第9刑事部(渡部市郎裁判長、辻井由雅裁判官、渡邉真美裁判官)は、当時生後2か月の乳児に対し、身体を揺さぶるなどの方法により頭部外傷を負わせたとして、傷害罪に問われた父親(29歳)に対し、無罪判決を言い渡しました。このような無罪は、2018年11月20日の裁判員裁判無罪判決に続くものです。
検察側証人の小児科医は、目立った外傷のない乳児に、硬膜下血腫や脳浮腫が認められた原因を、揺さぶりか柔らかい物に複数回叩きつけたことによるものだなどと証言していました。そして、乳児の心肺停止について、「低酸素脳症がCT画像で鮮明になるには数時間かかるといわれており、……CT画像に既に現れている皮髄境界不鮮明(註:脳浮腫の前駆症状)は低酸素脳症のみが原因ではなく、硬膜下血腫を来すと同じ外力で脳実質損傷をももたらしたと考えられる」と証言しました。この小児科医は、心肺停止も揺さぶり等による脳実質損傷(びまん性軸索損傷の趣旨と考えられますが、あえて曖昧に証言しています)によって生じたもので、とにかく揺さぶり等の虐待が原因だと言いたいようです。これは、最近、日本のSBS仮説を主導する小児科医らの間で、良く持ち出される議論です。
これに対し、弁護側の脳神経外科医師は、これらの所見は慢性硬膜下血腫の自然経過や再灌流障害等によって生じた可能性を否定することができないとし、「CT画像上の皮髄境界不鮮明の所見は、低酸素性脳症に起因するものと考えることが可能であって、必ずしも外力によって脳実質損傷が生じていたことを推認させるとはいえない」と明確に否定しました。
これらの議論については、改めてブログでご紹介する予定ですが、検察側小児科医の述べるような、低酸素脳症がCT画像で明らかになるのには数時間かかるとか、逆にCT画像が早く現れた場合は、外力による脳実質損傷(びまん性軸索損傷)だなどという議論に、医学的根拠はありません。CT所見から、その原因を「揺さぶり」等などと決めつけることはできないのです。
無罪判決は、検察側小児科医師の証言内容を否定し、揺さぶりと断定することはできず、検察官主張には、合理的な疑いがあるとしたものです。私たちが述べて来たように、わからないことはわからない、ということを認めた判決だと言えます。同様の争点で、現在多くの裁判が争われています。これからの裁判にも大きな影響を及ぼす判断と言えるでしょう。
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[…] 2019年1月11日 大阪地裁、傷害に問われた父親に無罪判決 […]