下記の記事が出ました。
「乳幼児揺さぶられ症候群」で死亡、親の虐待なのか、冤罪なのか 弁護士らが検証
https://www.bengo4.com/internet/n_7309/
下記の記事が出ました。
「乳幼児揺さぶられ症候群」で死亡、親の虐待なのか、冤罪なのか 弁護士らが検証
https://www.bengo4.com/internet/n_7309/
記事「SBS理論の起源」でご紹介したとおり、SBS理論の起源は1970年に遡ります。その理論のもととなったのが、ガスケルチの1971年の論文であると言われています。
ガスケルチは1915年にイギリスで生まれ、2016年に亡くなった小児神経外科医です。1975年に定年退職したあとはアメリカに移住し、1977年から1984年までピッツバーグ子ども病院に、1982年から1994年まではアリゾナ州ツーソンのUniversity Medical Centerに勤めました。
そして、SBS冤罪を訴えている事件において、弁護側に医学的な知見に基づくアドバイスを行うなどの活動もしていたのです。
2011年にはNPR(全国公共ラジオ)の取材にこたえ、子どもの死亡や傷害について他の原因を排除することなく、揺さぶりによる虐待があったという診断が行われてしまっているのではないかという現状への懸念を明らかにしました。そして、いまや分裂してしまっている学会が一丸となって、この問題について科学的な確信を持っていえることは何なのかを明らかにすべきであるといったのです。
翌2012年に発表されたガスケルチの論文(*下記参照)も、SBSを巡る最近の議論状況について以下のように懸念を表明しています(引用箇所にはページ数を記しました)。
〔1〕 三徴候について
ガスケルチはまず、乳児の網膜や硬膜の出血の所見から、揺さぶりその他の虐待を推認することはできない、と明確にいいます。そして、三徴候があるということだけで、他の原因により死亡や傷害が生じたという可能性を検証することなく、訴追が行われてしまったケースがこれまでにあったという指摘を行っているのです。 Continue reading →
『乳幼児の転倒などで頭骨内に重大な傷を負うことはまれで、 重い外傷があれば大人による暴行を考えるべきだと検事に説明したい』
少し古い記事になりますが、これは2017年9月、新聞記事に載ったある小児科医のコメントです。新聞記事によれば、最高検と法務省は2017年9月25日から5日間にわたり、医師や児童心理の専門家を招き、全国から集めた検事を対象とする児童虐待についての研修会を開催したとのことです。冒頭のコメントは、その研修の講師として招かれた小児科医によるものです。SBSを念頭においての発言であることは間違いないでしょう。全国の検事に対する研修ですから、この講師の意見は日本の刑事裁判に大きな影響を与えることも間違いありません。では、このコメントは正しいのでしょうか?もちろん、字数の制約が大きいマスコミでのコメント記事ですから、その真意が正確に伝わっているかは不明です。しかし、あくまで記事となったコメント部分を前提とする限り、その論理は明らかに間違っています。 Continue reading →
12月7日木曜日に千葉で開催したSBS検証プロジェクトの勉強会に関する記事がYahoo!ニュースに公開されました。
この問題について取材をされている、ジャーナリストの柳原三佳さんによる執筆記事です。
是非お読み下さい。
柳原三佳さん「虐待ではなく、事故の可能性も…『揺さぶられっ子症候群』を考える」の記事はこちらです。
昨日、千葉で開催された勉強会(「揺さぶられっ子症候群」問題を見極める)に参加しました。
「アウェーではありますが」とご自身が前置きする小児科医の先生も参加され、冤罪がひそむ危険性とSBS検証プロジェクトの意義について一定の理解を示すコメントをされるなど非常に建設的な議論ができたのではないかと思います。
東京都立多摩総合医療センター名誉医院長・青木信彦先生のご講演も大変興味深いものでした。中村Ⅰ型という類型があり、転倒・転落による軽微な頭部外傷によっても急性硬膜下血腫が生じうるということが明確に述べられていました。
このような会を契機に様々な立場の医師が相互に議論を深める機会が増えれば、三徴候のみを重視して養育者が犯罪の嫌疑をかけられてしまう現状も変わっていくのではないかと思いました。
SBS勉強会に参加しました。
どのような考えが前提になっているのか。どこに問題があるのか。
立場に違いがある者同士の議論の中にこそ、多くの発見があるのだと思います。
自らの役割に真剣である方々の主張は、みなさんそれぞれ、熱を帯び強さを増すからです。もっとも、思わぬ見落としがあることも、議論の中から気づき得たりします。
このような場が、これから、多く、広く設けられることを希望します。
参加されたみなさん、お疲れ様でした。
SBS理論は、次のような推論を前提にしています。
①頭部が揺さぶられることによって、硬膜下血腫、網膜出血、脳障害が生じること、②これらの症状は低位からの落下では生じず、少なくともある程度の高さからの落下(例えば3メートルなどと言われます)か交通事故などによらなければ生じないこと、③これらの症状が生じてから赤ちゃんが意識を失ったりするまでの時間は短時間であり、意識清明期はないこと、従って最後に赤ちゃんと一緒にいた者が揺さぶりの「犯人」であること、などです。
しかし、SBS理論に対しては、すでに1990年頃から疑念が呈され始めていました。そして、上記のようなSBS理論の前提に対しては、科学的な観点から批判が向けられているのです。 Continue reading →
「三主徴(硬膜下血腫・網膜出血・脳浮腫)が揃っていて、3m 以上の高位
落下事故や交通事故の証拠がなければ、自白がなくて(ママ、「も」が脱落?)SBS/AHT である可能性が極めて高い」
これは、日本で虐待を防止しようと医師向けの啓蒙活動を行っているグループが公表している「SBS/AHT の医学的診断アルゴリズム」の冒頭に掲げられている表現です。つまり、養育者が「3メートル以下から落下したことがある」と説明しても、「虐待」である「可能性がきわめて高い」とされてしまうのです。
え?と思いませんか。3メートルと言えば、バスケットボールリンクの高さ(10フィート=約305センチ)とほぼ同じです。そんなところから赤ちゃんが落ちれば、三徴候以前に、命が助かる方が好運でしょう。 Continue reading →
スウェーデンでは、2014年11月、最高裁判所が、SBS理論に十分な医学的根拠がないとして、SBSで訴追された被告人に逆転無罪判決を出す、という出来事がありました。
日本弁護士連合会は今年8月、スウェーデンの刑事司法制度とSBS(揺さぶられっ子症候群)をめぐる議論状況を調査を行いました。このプロジェクトのメンバー数名も調査団の一員として、調査に参加しました。
このたび、調査結果をまとめた報告書が、日本弁護士連合会のHPに公開されました。下記URLから、PDFファイルとしてダウンロードできます。
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/sbs_gironjokyo.pdf
報告書には、スウェーデンにおけるSBS問題の議論状況とともに、SBSの冤罪被害者のインタビューや、SBS問題に取り組む弁護士や医師からの聞き取りなどがまとめられていて、現在のスウェーデンにおけるSBS問題の現状を手短に理解することができます。
ぜひご参照ください。
講演会イベント”TED トーク”は日本でもテレビなどで紹介されており、ご存知の方が多いかもしれません。
そのTEDトークイベントに、イギリスのウェイニー・スクワイア博士(Dr. Waney Squier)が登場しました。
ウェイニー・スクワイア博士は、オクスフォード・ラドクリフ病院(オクスフォード大学メディカルスクールの教育専門病院です)の神経病理学上級専門医です。脳発達の病理を専門とし、査読付雑誌に100以上の論文を掲載しています。特に乳幼児の突然死の病理について研究してきた、世界的にも著名な神経病理学者です。
スクワイア博士は、もともとSBS理論の支持者でした。しかし、研究を進める中で同理論に疑念を持ち、2000年代以降、同理論を批判的に検証する論文を多数執筆しています。また、子どもを揺さぶって虐待したとされた事件で、被告人側の専門家証人として、証言台にも立って来られました。
トークに向けたインタビュー記事で、スクワイア博士はこのように発言しています。「揺さぶり理論によって『子どもを虐待した』と誤って追及される保護者がいなくなれば、とても穏やかな気持ちになると思います」。
2月に開催される国際シンポジウム「揺さぶられる司法科学」には、スクワイア博士をお招きしています!