揺さぶられっ子症候群(SBS)について
わが国では、近時乳児が頭部外傷を負った事例について、虐待の疑いがあるとして、児童相談所及び警察に通報され、養育者が逮捕・起訴される事例が相次いでいます。
これらの訴追は、「揺さぶられっ子症候群(SBS)の三徴候が認められる場合、成人による暴力的な揺さぶりによって生じたと推定して良い」とのアメリカで提唱された医学理論(SBS理論)を基礎にしています。
しかし、欧米では近時SBS理論に強い疑念が呈されており、多くのえん罪事件を生んでいると批判されています(詳しくは「SBSへの疑問ーSBS(AHT)理論の詳細とその問題点 」をご覧下さい)。
SBS事案の訴追と弁護活動
上記のとおり、欧米ではSBS理論には重大な疑念が示されており、乳児の医学的症状のみから訴追をすることには慎重な対応がとられるようになってきています。
ところが、わが国では、以上のようなSBSに対する欧米での批判は、ほとんど紹介されていないほか、児童相談所・警察等の依頼で医学鑑定を行う医師らは、これらの批判を考慮しない鑑定書を提出するのが通常です。
このため、警察及び検察庁は、乳児の医学的症状のみを根拠に、虐待によるものだと決めつける複数の鑑定書の存在を前提として、立件に至っています。捜査担当者には、これら鑑定書の結論を否定する医学的知識もなく、その意図もありません。
しかも、SBS理論では、養育者は虚偽の否認をしているという前提に立っているのが通常です。このため、彼らは、鑑定意見から立件事例を虐待であり、養育者は虚偽の弁解をしていると信じ込んでいると思われます。
したがって、捜査段階において、彼らを説得することはきわめて困難と言わざるを得ません。
他方、立件された多くの養育者は誠実な市民であり、そのほとんどが捜査機関に抵抗しようという意図を持っておられません。
また、乳児が頭部に重篤な障害を負ったことに負い目を感じておられることが多いこと、医学的知識も持ち合わせていないことから、
上記のとおり虐待と信じ切っている捜査官に屈し、あるいは迎合し、不本意な不利益供述ないし自白に至る危険性が高いと言えます(欧米では、同様の事情から、虚偽自白によりえん罪となった事例も報告されています) 。
以上からすれば、捜査段階では、捜査官らを説得しよう、あるいは理解してもらおうと考えるのでは相当ではなく、被疑者は黙秘権を行使すべきです (「取調べの心がまえ」を参照してください)。
その際には、依頼者に黙秘権行使の意義を十分に伝えるとともに、その不安を払拭するため、SBSには十分な医学的根拠がないとして、欧米では多くの無罪が出ていること、日本の捜査機関やそれに協力している医師たちは、不勉強なだけであることを伝えてあげるべきです。
また、公判ではSBS理論をめぐる医学鑑定の信用性が最大の争点となることが避けられません。
そして、その真偽はともかく、わが国の医学界で定説化してしまい、未だ十分な批判のなされていないSBS理論に対抗するためには、弁護人として、医学知識の習得や資料の収集も含めた相当な準備と医療関係者の協力を得ることが不可欠です。
SBS検証プロジェクトの立ち上げと弁護活動支援
以上のような観点から、現在、SBS理論による訴追を憂慮する弁護士や法学者有志において、「SBS検証プロジェクト 」を立ち上げ、情報収集や個々の弁護活動の支援を開始しました。
現在、多くの医療関係者にも連絡を取り、その協力を得るべく、研究会を続けるなどしています。
当プロジェクトは、現時点で弁護活動に利用可能な資料や情報の提供を行い、SBS問題に取り組む弁護活動を支援してまいります。
SBS事例を受任された弁護士の方々は、是非ご一報下さい。
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