Author Archives: Kana Sasakura

米国の2つの重要な裁判例について(2)

《(1)のつづき》

3.カバゾス対スミス事件判決について

(1) つぎに、カバゾス対スミス事件における連邦最高裁の判決について見てみましょう。

 溝口医師の解説には、次のような指摘がありました。

〔SBS検証プロジェクトが〕「本当に中立的な立場で検証を行っているのであれば、2011年の米国の最高裁判決(Cavazos v. Smith, 565 U.S. 1 (2011))についても触れるべきである。このSmith事件において米国最高裁は「SBS否定派」のUschinski、Squire〔ママ〕、Donohoe, Bandakらの「新しい研究」を完全に否定している。」(同書「訳者による解説」375頁、強調は引用者)

 この記述は正しいのでしょうか。

(2) カバゾス対スミス事件(Cavazos v. Smith, 132 S.Ct. 2 (2011))は、次のような事件です。

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米国の2つの重要な裁判例について(1)

 溝口史剛医師による翻訳書『SBS:乳幼児揺さぶられ症候群-法廷と医療現場で今何が起こっているのか?』(金剛出版、2019年3月発売)の「訳者による解説」には、アメリカの裁判例に関する記述についていくつか誤解があるようです。

 2回にわけてこの点について指摘したいと思います。

  1. 溝口医師の記述

 溝口医師の翻訳書には、アメリカにおける2つの重要な裁判例について、下記のような記述があります。

  • 「…Audrey Edmunds事件(ベビーシッティング中に生後六ヵ月児が急変し、保育を行っていたAudrey Edmundsが有罪となったが、その約10年後に「SBS/AHTに関する医学界の進歩は著しく、これらの新しい進歩は新たな証拠となりうる」との主張に基づき再審開始決定がなされ、検察が訴えを取り下げたために釈放された事件。裁判所は “新しい研究”の新規性は認めたが、信用性まで認めたわけではない点に注意していただきたい)のような混乱を避ける意味で、このような検証は司法プロセスとは完全に切り分けて、医学的に行うことが望まれる。」(同書「訳者による解説」360-361頁)
  • 〔SBS検証プロジェクトが〕「本当に中立的な立場で検証を行っているのであれば、2011年の米国の最高裁判決(Cavazos v. Smith, 565 U.S. 1 (2011))についても触れるべきである。このSmith事件において米国最高裁は「SBS否定派」のUschinski、Squire〔ママ〕、Donohoe, Bandakらの「新しい研究」を完全に否定している。」(同書「訳者による解説」375頁)

以上の各判決について、詳細に見ていきましょう。

2 . エドモンズ事件について

 Audrey Edmunds(オードリー・エドモンズ)事件(以下「エドモンズ事件」)は、SBS/AHTに関する議論の歴史の中でも特に重要な事件です。なぜならば、SBS事件について有罪判決後に本格的に取り組まれ、雪冤された初期の事例だからです。また、イノセンス・プロジェクトをはじめとするイノセンス団体が、本格的にSBSの問題に取り組むようになったきっかけとなる事件でもありました。

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2018年「AHTに関する共同声明」の翻訳を公開しました

 2018年に「乳児と子どもの虐待による頭部外傷に関する共同声明 Consensus statement on abusive head trauma in infants and young children 」が公表されました。

  米国を中心とした小児科医らが執筆し、米国小児放射線学会(SPR)、米国小児科学会(AAP)などが共同で 出したものです。この中に、日本小児科学会も参加しています。

 「共同声明」の内容は、SBS/AHT推進論者たちが自分たちの見解を改めて明らかにし、SBS/AHT仮説に疑義を唱える議論を批判するというものです。

 内容に新しい点があるというよりも、むしろ現段階でのSBS/AHT理論の推進論者の立場をまとめているものです。従って、どのような問題意識のもとで議論が行われているのかが非常によく分かります。

 同時に、その内容には見過ごすことのできない問題点が数多くあります。これまでのSBS/AHT理論に対して向けられてきた「循環論法」や「自白に依存した危うい理論の危険性」などの批判には、まったく応答していません。

 SBS検証プロジェクトは許諾を得て「共同声明」の全文を翻訳し、その検討を行うことにしました。2月のシンポジウムでも詳細な検討をする予定です。是非、共同声明の翻訳と、これからブログにアップしていく検討を併せてお読み下さい。

 「共同声明」の全文翻訳は、こちらからダウンロードしていただけます。

ジャーナリスト柳原三佳さんの最新記事です

SBS/AHTの問題について取材を続けておられるジャーナリストの柳原三佳さんが、11月20日の大阪地裁での無罪判決について記事を執筆されました。

是非お読み下さい。→ こちら

SBS検証プロジェクトの秋田真志・共同代表のインタビューも掲載されています。

西本先生・藤原先生の著書がニュースに!

脳神経外科医の西本博先生と藤原一枝先生のご著書『赤ちゃんが頭を打った、どうしよう』(岩崎書店)が、いくつもの雑誌やウェブニュースで紹介され、話題を呼んでいます。

皆様は、もうお読みになりましたか?

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ダ・ヴィンチニュース「赤ちゃんが頭にケガ、もし虐待を疑われたら…? 親が知っておきたい対策法【本当にあった恐ろしいケース】」(2018年8月17日)

大人んサー「乳幼児が頭を打つと、親の“虐待”が疑われるケースが増加 医師らが出版、経緯を聞く」(2018年9月10日)

週刊女性PRIME「不慮の事故でも児相に即、通報! 無実の“虐待親”を生み出す恐怖のシステム」(2018年10月9日号)

@DIME「家庭内の事故で親の虐待が疑われる例が増えている」(2018年10月29日)

 

 

スウェーデン調査② 2018年2月9日スウェーデン行政最高裁判決

今回の現地調査で、2018年2月9日に、虐待の疑いをかけられたあるSBS事案に関して、スウェーデン行政最高裁判所が重要な判決を出していたことがわかりました。

この判決の趣旨は、基本的には2014年のスウェーデン最高裁判決(こちらも、翻訳をウェブでお読みいただけます。本ブログのこの記事をご参照下さい)と同趣旨です。2014年の最高裁判決は「暴力的な揺さぶり(=虐待)の診断についての科学的なエビデンスは不確実なものと判明した」として、ある刑事事件の被告人に逆転無罪を言い渡したのでした。

これに対して、2018年2月の判決は、SBSの診断に基づいて親子を分離した行政裁判所の判断に関するものでした。

行政最高裁判所は、次のように判示しました。

「SBU報告書からすれば,三徴候の存在から暴力的な揺さぶりを示す推認の科学的根拠は少ない。本件において,頸部の軟部組織の損傷など,他の証拠は存在しない。さらに,子どもの急性の症状の前にあったとされる出来事については,目撃者の証言もなければ他の状況証拠もない。本裁判所はこのような状況において, CCが暴力的な揺さぶり によって虐待されたということを,十分な確実性をもって調査できたということはできないと結論づける。
 次の問題は,頭部へのその他の暴力によって損傷が生じた可能性はあるかという点である。
 この点について,虐待の疑いはやはり三徴候の存在のみに基づくものであった。本件では,痣,軟部組織の腫脹,骨折など,頭部への暴力を示す所見は見られない。医師たちはCCの症状の原因となる暴力がどのようなものであるか,疑われる暴力と症状とがいかに関連するかについて,説明できていない。本件傷害は暴力が加えられたことを原因とするものであるとの結論は,本件で意見を述べた他の医師たちの意見からも支持されない。このような背景のもと,CCの頭部にその他の暴力が加えられたということは,本件医学的調査からは支持されないと本裁判所は判断する。
 結果的に,上述のとおり,CCが身体的な虐待を受けた蓋然性があると結論づけるために必要な証拠は,本件においては存在しない。」

 

このように、行政最高裁判所は、SBUの報告書(2016年)を引用した上で、本件で子どもが虐待を受けた蓋然性を否定したのでした。

RFFR(スウェーデンのえん罪被害者団体)の副代表であるMats Hellbergさんが元の行政最高裁判決を英訳して下さいましたので、日本語に翻訳することができました。まだ「仮訳」ではありますが、是非お読み下さい。

180915スウェーデン行政最高裁2018年2月9日判決 翻訳

Swedish Supreme Court Decision Japanese Translation 

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SBS/AHT被害を考える家族の会

ブログサイト「SBS/AHT被害を考える家族の会」が立ち上がりました。

トップページに、サイトの説明が書かれています。

「我が子が「硬膜下血腫、眼底出血、脳浮腫」の
いずれかの症状から、SBS/AHT※注)による
虐待(或いは虐待の疑い)と通告されて事実無根の
虐待の疑いを受けて苦しんでいる家族の被害を
考えるサイトです。」

 

是非ご一読下さい。

ザ・ドキュメント「ふたつの正義」

久しぶりの投稿です。少し間があいてしまいましたが、今後また、この間のSBS検証プロジェクトの活動などについて投稿をしていきます。

さて、5月24日で関西テレビで放映されたザ・ドキュメント「ふたつの正義~検証・揺さぶられっ子症候群」をご覧になりましたでしょうか。

残念ながら深夜の放送でしたが、関東や東海などでも順次放映されたようです。

揺さぶられっ子症候群をめぐる最近の議論について、色々な関係者のインタビューをとおして丁寧に描いた作品でした。

このような番組を通して、この問題について幅広い方に知っていただければと思います。